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再会 #3

その後トキハルさんと再会したい、なんて下心を持ちながら、空いた日なんかは直ぐBARに行くようになった。

そのせいかミチコさんとも凄く仲良くなって、常連さんなんかとも顔見知りくらいにはなれた気がする。

「じゃあアキちゃんはビアンってわけでもないんだねぇ」

「そうなりますね」

「それでも女の子選んじゃう気持ち分かるわ〜。女の子可愛いもんね。だからいろんな女の子と出会いたくてBAR始めたのがそもそもだもん」

「そうなんですか!?」

「そそ。まあ今となってはいろんな人の出会いの場になれて、隠さないで話せる憩いの場となってるからもうアタシ嬉しくってさぁ。マジで開いてよかったなって思ってるよ。」

そう話すミチコさんの笑顔がとても輝いていて、親のコネで妥協で入社した自分としては、そんなミチコさんに憧れのようなものを抱くようになっていた。

好きな事を稼ぎにしてる人って、こんなに輝いているんだ。
そう思うとわくわくすらした。
いいなぁ。
なんて、ほろ酔いでふわふわする頭で、他のお客さんの相手をしているミチコさんを眺めながらにんまり笑顔を浮かべていると、隣に誰かが座ってきた。
確かに今日は金曜で人も多い。
カウンター席の唯一の空席だったから仕方がなかったんだろうな。
ご挨拶くらいしなきゃ。
なんてへらりと笑顔を浮かべて隣を見ると、そこには会いたくて逢いたくて仕方がなかったトキハルさんその人がいた。

「トキハルさん!?」

「わあっ、びっくりした。そんな驚かなくても…」

「あ、すみません。ちょうど会いたいって思ってたから」

「あはは、俺に?そうなんだぁ、ありがとう」

酔ってるせいか素直に零れ落ちる言葉に、トキハルさんは少し照れ恥ずかしそうに笑った。
それがまた可愛くて、抱き締めたくなるのを必死に堪えてカクテルを一気飲みした。

「あ、トキハル久しぶり〜」

「最近仕事が立て込んじゃって。ミチコさん、適当にカクテルもらえる?あとアキちゃんにも」

「アキちゃんもう呑んだの!?強いねぇ。あはは、待っててね」

トキハルさんが僕のドリンクも頼んでくれた…!

なんだかドキドキが治らなくて、どうしていいか分からずにとりあえずありがとうございますだけ伝えた。

「アキちゃん、最近よく来てるの?」

「あ、はい。なんとなく居心地がよくて…」

それからトキハルさんとの会話が始まって、此処での過ごし方や、あと軽く仕事の話し、人間関係のグチ、過去の恋愛、様々な話で盛り上がった。
カクテルを飲みながら、スナックを時折挟みつつ、我ながら上出来だと思うくらいには話せたと思う。

まあ、トキハルさんが来る前から何回かお代わりしていたカクテルのおかげもあるのかもしれないけれど。

そんな会話の中で、ひとつだけ響いた言葉があった。


「俺さ、FTMなんだよね」


その言葉の衝撃で、目が丸くなったのは言うまでもない。

身の上話 #2

僕、矢澤秋は多分ftxだ。

何故多分なのかって、自称だからで、診断されたものではないから。

とはいえ性別なんて自己認識の問題で、診断で他人に認められない限りそうじゃないなんていうのも思わないからそう自称している。

元々はただのバイかな、と思っていた。

男の子もイケるし女の子だって好きだし、ただ、女の子の方が好きだから女の子と付き合うことの方が多かっただけで、そんな感じの軽いものだと思っていた。

けど、ある日から僕は、男性からオンナだと思われることに嫌悪感を抱くようになった。

異性だと思われるのが、嫌だったのだ。

それこそ、病むほどに。

だから自分は実は男なのかな、とも思った。
けどそれもやっぱり違うくて、女の子と話すときは女の子だと思ってもらいたくて、でも、男の子と話すときは男だと思われたくなった。

対等でいたかったのかもしれない。

自分のことなのによくわからないけれど、要するに同性だと思われたい、というのと、異性は怖いということ、それから異性だと思われたくないという嫌悪感。これらを抱くようになったから、性なしであり両性である、ftxなのかな、って、そう思うことで納得出来るようになった。
その言葉を知るまでは、必ず性はどちらかで、自分は中身は男なんじゃないかと自分と向き合い過ぎて病みそうになったこともある。

で、だ。

ftxという言葉を知って、開き直った今でも、それでも男の子と付き合えるし女の子とも付き合える。
ただ、男の子とは自分は男として付き合いたかったし、女の子とは自分は女として付き合いたかったから、同性愛者であることには代わりはないんだなぁって。
はは。

でも、それでも女の子との方がいい。

女の子は暖かくて柔らかくて(身体的な意味じゃなくて雰囲気的な意味でね!?)そして可愛いから好き。

自分はどちらも選べる中で自らの意思で女の子を選んで、出会いを求めて彷徨っている。
彷徨っているっていうのは、なんていうか、開き直ってチャラいくせに、本命だと思える相手には物凄くヘタレで、緊張しいで、弱いから。だからまともに付き合うまでに至ったのはこの人生で2回とかそこら。
そのどれも普通の、所謂ノンケな女の子をなんとか口説き落としてそれでも挙句振られて、今はもう、こうして若干の廃れも入ってるところがあるのかなぁ。

そんな中で、こんな野郎がよ?

ビアンBARで、ついに一目惚れをしてしまった。

完全に、一目惚れだ。

トキハルさん…。

また会いたい。

初めて会ったあの夜は、結局ミチコさんとしか連絡交換出来ていないから、これからどうして、またトキハルさんとお会い出来るかを考えている。

久しぶりに、こんなにトキメク乙女みたいな、そんな楽しい気分になれています。

そんな矢澤秋の、身の上話でした。

出逢い #1

僕が初めてトキハルに出逢ったのは、とある街中のビアンBARだった。

凄く綺麗な顔立ちで、明るめの癖っ毛が妙に私の感覚を擽った。

話しかけてみたかった。

トキハルも1人でここに来てるみたいで、BARのお姉さんにちょっかい掛けては話している。

混ざりたい。

そう思いながらカクテルを飲み干した。

ところが、酔ってもやっぱりヘタレな自分は、相変わらず初参戦ってこともありぼっちを極めてカウンターの隅に座っている。

あいにく平日の夜で人も少なく、声を掛けてくれそうな人もいない。
グループが出来ていたり、カップルで来ていたり。

はぁ、と溜息を吐くと、そんな僕に気付いたのかBARのお姉さんが私に声を掛けてきた。

「混ざっておいでよ〜、せっかくの出逢いの場だよ?あ、飲み物もないね、言ってくれれば出したのに。お代わりは?」

ここのお店はチャージとしてドリンクを注文するシステム。
甘い無炭酸しか呑めない僕は、おずおずと同じカクテルを注文した。

そのとき、初めてトキハルと目が合った。

ドキン。

やっぱり気を引く顔立ちをしてると思う。

BARのお姉さんのお誘いで、トキハルの席の隣へと移動した。
もちろんお姉さんも前に居てくれるから安心だ。

「そう言えば見ない顔だよね、初めて?」

「あ、はい、こういう所にくるのは何度か。でもここは初めてというか」

「そうなんだ!私はここの店主のミチコ。そんでこっちはトキハルね」

「初めまして」

初めて聞いた声。

やっぱり惹かれた。

緊張でおどおど声を出せないでいても、さすが店主、慣れてるみたいでふふっと笑いながらエスコートしてくれた。

「ハンネでいいわよ。名前、なんて呼んだらいい?」

「あ、う…じゃあ、アキ、で。」

「アキちゃんかー!よろしくねー!」

「う、あ、はい、よろしく…お願いします。」

「ちょ、アキちゃん堅い堅い〜〜」

ミチコさんのおかげで空気が和らいで、トキハルにもクスクス笑われてしまった。
それが尚緊張して、でも嬉しくて、つられて自分もにへらと笑う。

これが僕とトキハルの、初めての会話だったのを、恥ずかしながら今でも鮮明に思い出すのだった。

キャラ紹介と設定

<<随時更新>>

矢澤 秋 ftx リバ
(ヤザワ アキ)

朱鷺 春子 ftm タチ
(トキ ハルコ)

ミチコさん
ビアンBAR”すずらん”を営むオーナー
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