爪を塗りました。
姉に借りた、紫色のツヤのあるマニキュア。
塗り立てのときこそ、自分の爪ではないようでドキドキして、キラキラしているムラサキに心を躍らせたの。
明日はこの素敵な爪を、お友達に見せるんだ、!

そう、思ったのに。

翌朝起きて見た私の爪は、自然にそぐわない色をして、私のどの部分よりも主張をしているように見えて、今すぐにでも落としてしまいたい恥ずかしい爪に思えてしまった。
でも、朝には爪に構っていられる時間なんてないから、そのまま仕事へ行くしかなかった。

職場では、爪をバレないように手をなるべく上げず、なるべくグーの形で目立たないようにした。
私にとってその爪は、最早コンプレックスでしかなかった。
誰も気づかないで欲しい。その一心だった。

「爪、綺麗ですね」

後輩くんが、気付いてしまった。

「へ?」

きっと顔も引き攣っているだろう。そんな私によく話し掛けれるものだわ。
その後も色のことや塗り方、色々な質問をされた。
私はこの爪を忘れたくて思い出したくもないのに何度もなんども掘り返されてイライラしかしなかった。何故私の爪には気付けて、このイライラには気づかないんだ、!


結局私は、家に帰った途端に姉の部屋から除光液を借り、全てを落として元の私に戻ったの。

少し桃色な爪、白でなぞられたライン。
これが本来の私だ。
爪からの強烈な違和感からの解放は、私の心を和らげた。

もう二度と爪なんか塗るもんか。

私はそう思いながら、そっと姉の部屋に除光液を戻したのだった。