10.04 ATOBE birthday


カレンダーの日付は10月4日

今日が何の日かだと?決まってる、氷帝のキングこと跡部景吾の生まれた日だ




付き合ってまだ数ヶ月
自分からは恋人らしいことなど何一つしていない、せめて誕生日くらいは何かできないかと色々考えてみたが彼が欲しいものなど一般庶民の俺には思い付かず、サプライズで何かしようにもそう言った類は苦手中の苦手なわけで


そうこうしているうちに今日を迎えてしまったわけだ


―――――



重い足取りで校門を抜けると後ろから声をかけられた

「よっ!日吉っ!」

「あぁ向日さん、朝から無駄に元気ですね。」

「うっせーよ!お前は朝からテンション低すぎだろ!ちょっとは女子達を見習えよな。」

「女子?」

「今日跡部の誕生日だろ?それで朝から女子達が騒いでんだよ。いつプレゼント渡すかとか何あげるかだとかで騒がしいったらないぜ」

「ああ、去年も凄かったですしね」

「そうそう、跡部も毎年毎年大変だろうに」


確か去年は生徒会室がプレゼントで溢れていたような…自宅にも大量のプレゼントが届いて大変だったらしい

「おい日吉、噂をすれば…」


向日さんの視線の先に目をやると玄関前に人集りができているのに気付く

女子達に囲まれた跡部さんは手に持ちきれないほどのプレゼントを抱えていた


そんな様子を見つめていると、ふいに目が合い跡部さんは女子達に何か言ってこちらに歩いてきた


「お前らが来て助かった。」

「お前も大変だなっ」
「きっと今日1日はこんな感じですね」


「まったく、これじゃ歩きにくくて仕方ないぜ」

「おはようさん。なんや朝から賑やかやなぁ」

「お、侑士!」


いつの間にか忍足さんも来ていたらしく4人で並んで校内に入る

予鈴を聞きながら靴を履き替えて2階へ続く階段に足をかける

「じゃあ俺はこっちなんで」

「また放課後にな!」
「岳人、早よせな遅刻やで。じゃあまた放課後にな日吉。」

2人が行ってしまっても何故か跡部さんは立ち去らない

(無言のままなのがなんだか気まずい…)

「行かないと遅れますよ、じゃあまた放課後に……ッ!?」

そのまま階段を上がろうとしたらいきなり後ろに引き戻された
「なッ!危な「もちろん…、お前からのプレゼントも期待していいんだよなぁ?若。」

「〜ッッ!」

引き寄せられ耳元で囁くように言われれば、自分の体温が急激に上がっていくのを感じる

「期待なんて…、しないでください…。」
俯いたままそう答えれば

「楽しみにしてる。」

それだけ言って跡部さんは行ってしまった

顔に熱が集まっていくのが分かる、確実に今自分の顔は赤いと思う


階段を上り本鈴を聞きながら教室に入ると担任が遅刻だぞ、と声をかけてきた

「すいません…。」
『ん?顔が赤いぞ日吉。熱でもあるんじゃないか?』

「……、大丈夫です。」

『そうか?まあ次からは気をつけろよ。早く席につけ。』


促されて自分の席に座ると机に突っ伏して考える
期待してると言われたものの、プレゼントは買えていない…


(楽しみになんてしないでくれ……)


先程の事を思い出してまた体温が上がっていく

(そう言えばさっき俺の名前……)


跡部さんは人前では絶対に名前を呼ばないし、2人きりの時みたいにベタベタしてきたりもしない

まあ周りに知られると俺が困るからってのもあるだろうが、部長や生徒会長と言う立場上あの人なりにプライベートとは分けて行動しているんだろう


やっぱり恥ずかしい
(……いきなり名前呼ぶのは反則じゃないか?)

結局、1日中考えたがいい案が浮かばずに部活の時間になってしまった…。

どうすればいいかばかり考えていたせいで授業はまったく頭に入らず、昼食ではぼーっとしすぎて鳳に心配されてしまう始末だ
その上今日に限って学食で跡部さん達に出くわしてしまい再び赤面する羽目となった…


「おい、日吉!何してる、始めるから早く整列しろ」

すでに他の部員達は集合していたらしく急いで整列する

(部活にまで集中できないなんて…)

とりあえずは練習に集中すべく気持ちを切り替える

―――――

完全には集中しきれなかったがそれでもなんとか部活を終えることができた

部室へ戻ろうとしていると跡部さんに呼び止められた

「おい日吉、練習に集中できてねーぞ。どうかしたのか?」
「いえ……すいません。」

(誰のせいで…ッ)

「そうか…今日着替えたら部室に残ってろよ」

「あのッ…実は………」

「おーい跡部!明日の朝練だけどよぉ…」
言いかけたところで宍戸さんが向こうから走ってくるのが見えた

「アーン?なんだ宍戸」
「じゃあまた後で」
「あ、おいッ…!」


気付くとそのまま部室に向かって走り出していた

「あれ、日吉と何か話してたんじゃねーのか?」

「ああ、お前が来るまではな。ったく…、で?」

「お、おう…明日の練習って何時からだったっけ?」

「さっき俺の話聞いてなかったのか?明日の部活は休みだ。」
「お、まじでか!休みとか久しぶりだな!遊び明かしてやるぜ!」

「ほどほどにな。じゃあ次の練習は明後日だ、忘れるなよ。」
「任せとけ!じゃあな跡部!」
そのまま宍戸は近くにいた鳳を捕まえて早速明日の予定を立てていた。

(まったく…、)

思わず溜め息が漏れたがそのまま日吉が待っているだろう部室に向かって歩き出した

―――――


(結局跡部さんに言い出せなかった………。)

物凄く空気の読めない宍戸のせいでプレゼントを買ってないことを言いそびれた為、今こうやって部室で一人悩んでいるわけだが…

「大体宍戸さんはなんでわざわざタイミングの悪いときにばっかり…ほんと空気読めない人だな、そろそろ跡部さんも来る頃だし………まったく。」


「なんだ、呼んだか?」

「ッ、うわぁッッ!?」

いきなり背後から声をかけられて思わず間抜けな声が出てしまう

「あッ…跡部さん。いきなり背後に現れないでください。」

「アーン?さっきからずっと居たんだが…気付いてなかったのか?」

え……………。

全然気付かなかった。もしかしてさっきの独り言も聞かれていたんだろうか

「す、すいません。全然気付きませんでした…。」

「まあいいけどな。で、さっきは何を言いかけたんだ?」

「………………………。」

誰も居ない部室に暫し沈黙が訪れる。いざとなるとプレゼントの事を言い出せない

(やっぱりガッカリするだろうか?俺だったらちょっと寂しい…いやいや俺じゃなくて跡部さんの話だが、正直に話すべきだよな…………。)

「あの…跡部さん。」

「なんだ?」

「その……――――――て、すいません…。

「アーン?聞こえねーぞ。」

「…ッ!実はプレゼント用意できてなくて、すいません!」

ああ言ってしまった。せっかく楽しみにしてくれていたのに。ガッカリさせてしまっただろうか?跡部さんの顔が見れず俯いていると

「なんだ、やっぱりそんな事か…。」

「なッ、そんな事って…!」
思わず顔を上げる、すると跡部さんは少しにやけたような、呆れた顔でこっちを見ていた。

「俺にとっては一大事で……ん?やっぱりって…跡部さん俺がプレゼント用意できてないの気付いてたんですか?」

「なんとなくはな。朝からやけにソワソワしていたし、何か考えこんでたみたいだったからな…部活でもらしくないミスしたりしてたしな(笑)」

「そんなにバレバレでしたか……?」

「俺様の眼力を使うまでもなかったぜ?まあ悩んでるお前を見るのは楽しかったがな。」

(まったく。こっちは1日中悩んでたって言うのにこの人は……)

「プレゼント…買いますから、何がいいか教えてください。」
「アーン?別にかまわねーよ。気持ちだけ貰っとく、お前が祝ってくれるだけでいい。」

「いや、そう言う訳には…。俺にあげられる物ならなんでも言って下さい。俺が……あげたいんです。」

(せっかくの誕生日、俺だってこの人に何かしてあげたい…。)
「なんだ?今日はやけに素直じゃねーか。そうだな……じゃあ若、お前が欲しい。」

「…ッ!な、何言ってるんですか、」

「今なんでもって言っただろうが、アーン?」

「俺は物じゃありませんッ……!第一どうやって俺をあげたらいいかなんて…」

「なんだ、結局くれるんじゃねーか。」

「いや、だから…そのっ!」
なんだか訳が分からなくなってきた…。

「やっぱりお前はかわいいな…。」
そう言ってふいに跡部さんの手が顔に触れた

「かわいくなんて、ありません…!全く…恥ずかしい人ですね………。」

そう言いながらも触れてくる跡部さんの手が気持ちよくてされるがままになっている

「じゃあそうだな…お前自身は近々貰うとして。とりあえずプレゼントを用意してなかった罰だ、明日1日俺様に付き合え。」

「さっきそれは別にかまわないって……」

「さて、そんな事言ったっけな?」

「はぁ…。明日1日って…………それはデート…ですか?」

「お前がそう思うならデートだな。」

そう言いながらニヤリと跡部さんが笑った

こんな顔しているときは必ず何かとんでもない事を考えてる時だ

「分かりました、明日1日付き合います。でもヘリで来たりベンツで登場したりしないでくださいね。」

「別に普通だろうが。」

「あなたの普通は普通じゃありませんから。」

「まあいい…じゃあ明日楽しみにしてるからな。」
そう言って触れるだけのキスをされた

一気に体温が上がる。顔が熱い………。

「まっ……また…!メールします。」
それだけ言って急いで部室を後にした。

それだけの事が凄く幸せに感じるのは…

それだけはあの人にベタ惚れって事なのだろうか。


fin



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10月4日 00:00

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