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俺は死ぬつもりで山へ行った

2012/7/12|カテゴリー:T|comment:18件

581 :本当にあった怖い名無し[sage]:2012/05/12(土) 19:22:26.57 ID:+rKPkpZ80
何年か前、真剣に悩んでたことがあったんだ。
痴漢に間違われて危うく有罪になりかけたせいでリストラに遭い婚約者を親友に寝取られてしまい、両親も離婚した。
全てが済んで半月ほどして俺は死ぬつもりで山へ行った。と言ってもすぐに死ぬ決心はつかなかったので
キャンプ道具一式は持って行った。車で行けるところまで行って後は歩いた。やがて腰まで草の生えた平地に出た。
そこを掻き分けて尚も奥へ進むと高い木ばかりの林があって一面に苔が生えていたので、ここらでいいかと思いテントを張った。
夕食後やることもないのですぐに寝袋に入った。しかし眠れない。山中は意外なほど静かで風の音も動物の鳴き声もしない。
なのに一向に睡魔が訪れない。困って枕元のライトを点けて持参の文庫本を開いて仰向けのまま読み始めた。
そうして5分くらい経ったろうか、ふと違和感を感じた。視界の下方に変化があるような。

582 :本当にあった怖い名無し[sage]:2012/05/12(土) 19:33:20.08 ID:+rKPkpZ80
俺は仰向けのまま入口を観た。閉めたはずのファスナーが上がり外の暗闇が覗いていた。そしてその端に縦に並んだ2つの眼が見えた。
「ひっ」
思わず声が出た。文庫本を投げ出し身を起こした。後ろにずり下がる。テントが揺れた。
“それ”が入ってきた。ライトに照らされたその姿はおかっぱ頭の少女だった。服装は何というか、しずかちゃんみたいな感じ。
顔はまあ整っているが、青白く無表情で目が細く若干つり上がっていた。少女はすすっと寄ってきて震えてる俺に顔を近付けてきた。
そして言った。
「お前、死ぬのか?」
老婆のような嗄れた声だった。俺は歯をカチカチ言わせながら何も言えずにいた。
すると少女はまた同じことを言ってきた。俺は答えないとヤバいと思い無理に声を捻り出した。
「ひっ、ひえ。ひにま、ひにま、へん」
これでも伝わったらしく、少女は表情を変えずに言った。
「なら、供物は?」
お供え物を求めているらしい。俺は少女から目を離せないまま手探りでリュックを探った。最初に触った缶詰を差し出した。
ミカンの缶詰だ。蓋を開けて渡すべきだったろうがとにかく何か渡さないという思いが強かった。

583 :本当にあった怖い名無し[sage]:2012/05/12(土) 19:39:02.88 ID:+rKPkpZ80
少女は缶詰を受け取り無造作に口に入れた。スポッと中に入った。そのままガリガリと噛み始めた。
頬は不自然なほど膨らんでいが無表情で咀嚼している。ものの数十秒ですべて呑み込み顔が元に戻った。俺は恐ろしくて身体が動かなかった。金縛りというより筋肉という筋肉が弛緩してしまったような感覚だった。
「眩しい。消せ」
少女はライトを指差して言った。顔はずっと近付けたままだ。手探りで消した。暗闇が襲ってきた。
しかし少女の2つの眼だけはぼんやりと光っている。頭がじーんとしてきた。怖すぎて麻痺してしまったのかも知れなかった。
「入るぞ」
少女は言うなりスルリと寝袋へ入ってきた。一人用だし子供と言えど入れるスペースなぞない。それなのに入ってきた。
入り方も、暗くて見えなかったが、芋虫が潜り込むような感触だった。気が付くと少女の顔が肩の上にあった。上目遣いに見ている。

585 :本当にあった怖い名無し[sage]:2012/05/12(土) 19:46:16.34 ID:+rKPkpZ80
近くで見るその瞳は猛禽のように鋭く強烈な意思が感じられた。
「寝ろ」
嗄れた声だが、首筋にかかる吐息はほんなりと暖かく俺は初めて少女に人間味のようなものを感じた。
命じられるがままに目を閉じる。さっきとは違ってすんなり眠りに落ち込んでいく雰囲気が頭を包んだ。
こんな状態で眠ってしまって大丈夫か、という気持ちも微かにあったが眠気の方が圧倒的に強く意識がすーっと消えていくようだった……

その時、大地を揺るがすような大音声が轟いた。
「破ぁーーーーーー!!!」
その瞬間外が真昼のように光りテントが吹っ飛んだ。一気に眠気から覚め心臓が停まりそうになった俺の視界に一人の男が飛び込んできた。
寺生まれで霊感の強いTさんだ。
「何してんだ、早く出ろ!」
Tさんは凄い力で俺を寝袋から引きずり出し俺は木の幹に後頭部を打ちつけた。
薄れゆく意識の中、いそいそと寝袋に潜り込むTさんを見ながら寺生まれってスゴイと思った。

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