密会 ver4
「もう少し仲良くできないかな、荼毘」
そう問いかける男の口調は、言葉と裏腹に怒気に満ちていた。
密会場所として選ばれた倉庫の中は薄暗く、彼らの他には誰の姿もない。
男は、一枚の羽根から作られた短剣の鋭い切っ先を青年の喉元に突きつけていた。
その羽根の剣は男が自らの背中から“個性”によって生成したものだ。
「ザコ羽しか残ってなかったんじゃねえのか?」
切っ先を喉に突きつけられたまま青年が訊く。
「嘘つきと丸腰で会うわけにはいかなかったからな」
男の返答は、彼もまた青年に真実を伝えていなかったことを暗に示している。
青年――荼毘は、刺すような視線を彼に向けている眼前の男――ホークスを改めて見やった。
困っている市民がいればすかさず助ける人柄と気さくな性格、
そして端麗な容姿によって、No.2プロヒーローとして
人々から絶大な支持を集めている男の瞳が、静かな怒りに燃えている。
2018/7/25 Wed
SS・我ら社畜隊(1) (「青春×機関銃」14巻56話)
「試合入る前に、『あれ』やりましょっ」
「おうっ」
相楽華子の言葉に油川が応じて、チームの一同が円陣を組む。
「(『あれ』……?)」
何が始まるのか、といぶかしんでいる蛍の前で、油川は深く息を吸い込んだ。
――そして、「それ」が始まった。
「我が体は会社にあり!!!」
「我が心は会社にあり!!!」
「我が魂は会社にあり!!!」
円陣を組んだ人々の発する大音声が辺りの空気を震わせる。
相楽たちのチームは、全員が会社勤めの社会人なのだ。
*
このシーンが面白かったので勝手に小説化。
14巻でここだけ作画に力入ってるw
/ 青春×機関銃、作者:NAOE、社畜隊、油川恵、河本三木三郎、相楽華子隊長
2018/5/1 Tue
ビースターズ63話SS (「待ってくださいよ」)
「待ってくださいよ!」
すぐにでもその場から立ち去りたかったのに、一歳下の大羊《ドールビッグホーン》の少年はレゴシの手を掴んで引き留めた。
「ハハハ、先輩超純粋なんですね! 一匹決めてる子がいるんでしょ? すごいなー。なんかイヌっぽい」
寡黙な性格のために周囲に誤解されることも少なくないレゴシの本心を、大勢の生徒たちと浮き名を流している後輩はなぜかずばりと言い当てた。
「僕に教えてくださいよ、純愛の極意を……」
屈託なく言ってくる後輩を、レゴシは黙って見下ろした。
「(分かってたまるか。俺がどんな思いですべて制御しているか、欲望のおもむくままに生きるこいつに……分かってたまるか)」
2018/3/31 Sat
ビースターズ63話ノベライズSS 落書き中 1 (「モラルなんてものは」)
「モラルなんてものは、僕らに何も与えてくれないじゃないですか」
放埒という言葉に血肉と美しい容貌を与えたらこうなるだろうというような、
見事な巻き角を生やした大羊《ドールビッグホーン》の少年――ピナが微笑む。
「だから……もし僕が」
言いながらピナは眼前のハイイロオオカミ――レゴシに歩み寄る。
「レゴシ先輩にパクッて食べられちゃったら、
その時だって、僕……先輩のことを責めませんよ」
大羊の少年はレゴシのすぐ前に立つと、
鋭い牙が並んだ彼の口に手を差し入れて、長い犬歯に触れた。.
草食獣の柔らかな白い巻き毛が、窓から入る日の光を受けてきらめき、レゴシの鼻先で揺れている。
肉食獣であるレゴシにその気がありさえすれば、一瞬で喉笛に咬みついて命を奪うことができる距離だ。
骨をも噛み砕く強靭な顎の間、肉をたやすく引き裂く鋭い犬歯に、ピナの長く繊細な指が触れている。
レゴシは言葉を失った。
この後輩は、一体どういうつもりなのか――。
2018/3/31 Sat
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