頭がぐるぐるするので吐き出す。
昨日の朝7時、流産した。


もしや妊娠した?
と思ったのが夏の終わり。

そののち生理らしきものが来たので、
生理不順として処理してたんだけど
どうやらあれは不正出血だったらしい。

そんなわけで生理不順のつもりで
婦人科に行こう行こうと思っているうちに、
仕事が忙しく放置してしまう。

胎動らしきものを感知して、
その日のうちに婦人科に行く。
妊娠17週だった。

っていうのが先週。
今週は母子手帳をもらいに行くつもりだったんだけど、
だめだった。


昨日の明け方、お腹が張った感じがして起きる。
4時くらいかな。
ちょうどちびすけもグズグズ言ってて、
トントンして落ち着かせて自分もお手洗いに。

なんとなく出血してる?
という感じで、お腹も張る感じがする。

寝ようと思って横になるけど
お腹が張った感じでうまく寝れない。
そろそろ抱き枕を使わないとダメかな
とか思って1時間くらいゴロゴロしてたら腹が痛くなる。
腰も痛くなる。

明らかになんかおかしい。
もう一度トイレに行く。
出血量も増えてない。
というか出血というほどの出血じゃない。

でも横になるとしんどいから
リビングのソファーに腰掛ける。

父と母が起きていて、
普段なら絶対起きてこない時間に起きてきた私に驚く。

朝早くどうしたの?と聞かれるんだけど、
なんか腰が痛い感じがして…としか答えられない。

だんだん腰痛腹痛が強くなる。
これは絶対ただ事ではないと思って救急車を呼ぶ。

救急車が着く頃は痛みが強くなる。
救急車のなかの時計を見ると、
5分おきに痛みのピークが決めることに気づく。
もしかして陣痛では、流産するのではと思う。

病院につく。
救急外来の先生がいる。
ほとんどパニックになっている私の手を
研修医と名札に書いてある女性がにぎってくれる。

ズボンを脱がされ出血の様子を見られるが、
大したことがないと判断される。

着衣を整えてもらっていると、
明らかに下から何か出ている感覚。

「うそだ!いやだ!」
とか言った気がする。
大騒ぎする私のズボンをめくった研修医の女性が
「ヤバイヤバイヤバイ」って言いながら
3倍速で動いて産科に繋ぐ。

産科に運ばれる頃には流産だろうなと察する。
明らかに何か出てきている。
それなりの大きさの塊が出てきている。
お腹と腰がひたすら痛い、これが陣痛なのか。

産科に着く。
分娩台に乗せられズボンを脱がされる。
脱がされた瞬間にずるっと出てきた感覚。
ああもうダメなんだと確信する。
取り囲んでた医師や助産師さんたちが騒がしくなる。

産婦人科医に簡単に挨拶され、
説明して欲しいと思うけど、処置だけ先にしますねと伝えられる。

先生が処置の手を止めず、
ただ私の目を見てはっきりと
卵膜ごと出てきてしまっているので残念ながら流産だと告げる。

あとはへその緒切られたりお腹を押されたり
なんかめちゃくちゃ痛い思いをして、
なんやかんやで採血と点滴をされる。
その頃には全部終わって放心。

へその緒を切られた時
先生がしきりに時間を確認していた。
7時8分。

あれだけお腹と腰が痛かったのに全然痛くない。
めちゃくちゃな痛みから解放されて一息。

「赤ちゃん綺麗にしてきますね」と告げられる。
生きてるみたいに扱ってくれるんだな、とぼんやり思った。


分娩台に乗せられたまま待たされる。
一人で救急車に乗ったので、
パートナーに連絡がしたかった。
でも7時台に起きているわけがない。

自宅は病院から連絡が入っているらしい。
母の電話番号を覚えていたから。

彼の電話番号は携帯を見ないとわからない。
ぼーっとしていると助産師さんが声をかけてくれて、
荷物から携帯をとってくれた。

ラインが入っている。
母かと思って開くとまさかの彼からの連絡だった。
本当に偶然起きていた。

流産したことを報告した。

とはいえ、流産したこと以外はなにもわからない。
体調は大丈夫なの?と聞かれても
痛みはなくなったとしかわからない。
わけがわからないまま時間が過ぎる。
周りは誰もいない。
わかってたことは流産したことだけだった。

彼はいつも私を責めない。
早産になっても流産になっても、
私を責めるようなことは言わない。

通りかかった助産師さんに電話がしたいと伝えると
隣がいないからここで電話していいよと言われる。

ご主人これますか?
としきりに聞かれたことを思い出し、
一応彼に来れるか聞くと、
大阪に向かっているとのこと。
とんぼ帰りすれば15時に都内に着くらしい。
なるほど、だから早起きだったのか。

まあ来たところで死んだ子が生き返るわけじゃない。
最悪別に来なくてもいいなと思った。


助産師さんに問診票を書いて欲しいと言われる。
電話を切る。
パートナーは夕方になると伝え、
問診票に目を落とすと
「入院問診票」みたいなことが書いてある。

驚いて「私入院するんですか?」と聞くと
「すでにいま入院してるんですよ」
と言われさらに驚く。
入院とは。


大部屋しんどいと思うから個室で手配するけど
病室に空きがなくてどうなるかわからない
と言われる。

入院期間を聞くと出血が治るまで2〜3日。
この時期の流産は子宮に胎盤が残りやすくて
様子を見た方がいいとのこと。
仕事の調整が面倒だなと思う。
締め切りのことは考えたくない。

お手洗いに行きたいと伝えると
産後2時間は安静だし歩かせられないから
尿管で抜こうかと提案される。
あと1時間だし、じゃあいいわってなる。

その30分後、8時半頃に仮の病室が用意される。
分娩台から車椅子へ。
ヒョイっと降りてヒョイっと座った私を見て
助産師さんが

「気持ち悪いとかない?!」
「出血増えなかった?!」
「めまいはしませんか?!」

と口々に聞かれる。
なんてことなかったので驚く。
そういえば安静扱いだった。

なんてことなさそうな私を見て、
件の助産師さんが
「部屋の準備に少し時間がかかりそうだからトイレ行ってみる?」
と提案され、行くことにする。

ただし鍵は閉めないこと、
少しでも具合が悪くなったらトイレ内のナースコールを
すぐに押すことを念押しされる。

しれっと普通に出てきて普通に車椅子に座る私を見て
トイレの前で待ってた助産師さんがホッとした顔をする。
なにを危惧されてるのかが全くわからない。

仮の部屋の準備が整ったらしく
部屋へ通される。


流産になった子に会いたいか聞かれる。
会いたいなら会えるらしい。

会いたいと答えると、
もう少し綺麗にして連れてくると言われる。

しばらくすると大きめのケーキ箱が
ワゴンで運ばれてくる。
この中にいるらしい。

開けてもらうと、ガーゼで作られた布団に
丁寧に寝かされている小さい子。
私の手のひらにギリギリ乗り切るくらいで、
想像以上に大きく、想像以上に人間の形をしていた。

足の形や口元、
あと鼻が高い。
どちらかと言えば彼に似ていた。
寝ているように見えた。

触ってもいいとのことで、
少し手を湿らせて触ると、冷たかった。
冷たいことが悲しかった。

少しの間、その子と2人にしてもらう。
可愛くて仕方がないのに、すごく冷たい。
もう会える時間が短いのだと思うと、
どうにもならなくて写真を撮った。


それから母に電話をした。
ちびと散歩に出ていたらしい。

父が仕事に行ったので、ちびを見る人がいない。
3歳以下だかの幼児は病棟に入れないので
父の帰りを待って入院に必要なものを
持ってきてもらうことにした。

ただし入院のしおり的なものも手元にないので
母の感覚で荷造りを頼む。

電話中、ちびのはしゃいだ声が可愛くて
すごく慰められた。


病室に戻ってしばらくすると
入院が今日の夕方まで大丈夫だと言われる。
入院とは。

誰か来れるか聞かれたので、
母が12時前頃に、パートナーが夕方にくると。

午後までは赤ちゃんを預かれないから、
お母さんは病院で会えるけど
ご主人さんは葬儀屋さんで会ってねと言われる。

葬儀をするのか。そうか。



病院が手配してくれた葬儀屋に頼んだ。
葬儀は明日の朝9時。
火葬をする。

パートナーは都内からなので
朝ドタバタで早起きをしてくるはめになっている。
別に来なくてもいいんだけど、来たいらしい。
まあ、そりゃそうか。
会ってないんだもんな。

私としては彼が間に合うか
ハラハラしながら待つ方が嫌なので
正直来ない方が楽だなと思っている。

明日顔を直接見れるのが最後だ。
すごく可愛い女の子だった。
お気に入りのガーゼと花を一緒に入れようと思う。

彼女と一緒にいた時間も
ましてや存在に気づいてからの時間なんて
すごく短くて、正直全然わけがわからない。

でも、すごく悲しい。