十六夜日記

The Fog Hider 03
6月15日 00:30 

彼女は涙を流していた。
しかし、
本当の涙かどうかはわからない。
だいいち、
何の涙なのか、
それは知ることもできない。

悔いているのか、
憎んでいるのか、
悲しいのか、
それとも嬉しいのか、
涙ではわからない。

まして、
口から出る言葉は、
もっと信用がおけない。
人は、
いつでも、
どんな言葉でも、
簡単に口から出せるのだ。
それはよくわかっている。

わかっているが、
しかし、
人は人を信じることができる。

そう。
相手がどうなのか、
という問題ではない。
己が信じるかどうかだ。
信じてやりたい、
という、
自分の願望なのだ。

もう、人は斬りたくなかった。



森博嗣「フォグ・ハイダ -The Fog Hider-」より

  


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