花びらと幽霊

白と桃色の花々が咲く丘。
うさぎのような形をした、翼を持ったふわふわの知らない生き物がたくさん舞っている。
それは、天国のように見えた。

これは、
生まれて来なければ良かった、と
いうことなんだろうな。
背中の羽根と
きらきらした、素晴らしい景色。
考えてみたところで、どうしようもないことなので、
ぼくは心に蓋をして
あなたとは分かり合えない。と、
思うことにした。


夜の街は静かで
このまま深く落ちたら、どこまで行けるのだろうか。

悲しい気持ちになると
ぼくにはいつも天国が見えた。
それはどう考えても余計な力だったし
美しい景色は、美しかったけれど
一度生まれてしまったぼくのことを
特に救ってくれるわけでは、なかった。


(優しい手のひらが、ぼくの身体を、引き寄せようとする。)
(ほんとうの心を通そうとすれば、切れてしまうであろう、ささやかな糸。)
(結局のところ、誰かを傷付け、犠牲にして、踏み台にするような形でしか、人を愛せないのだ……。)


夜の淵を深く落ちたら、人は、どこまで行けるだろうか。
問いかけに、あなたは答えない。
恐ろしいものには蓋をして、見えないようにした。
終わりのない暗闇の中で
いつかやってくる終わりの日を、怖がりながら。

ジャム付きビスケットの季節



笑っていて。
笑っていれば、きっと気付かないでいられる。
桜の樹の下で、きみは笑った。
神様の樹の下で、ぼくらは。

若くして死ぬことが美しいとかさ。
桜なんて枯れてしまえよ。
綺麗なまま散っていくのが美しいなんて
言ってやらないぜ。
枯れてしまえよ。


笑っていても、
笑っていても、ね
逃れられないものがあるよ
寂しい気持ちがあるよ

愛するっていうのは、
認めることだと思う?
引き止めることだと思う?
答えのない問いかけで試そうとする
さよならっていうきみの言葉は、
意地悪だよって
意地悪を言うねって


灰色の空の下
通り過ぎる景色が
花束をそっと置いていくような
爽やかな朝
天使って本当にいるんだ、と
思った

そんな、季節。


もし、
ジャム付きビスケットの缶詰の
ジャムが全部なくなったとしても
代わりに、暖かいミルクを差し出せるよ。

もし、
自慢の水色の景色を失くしても
代わりに、とっておきの、オレンジ色の景色をあげる。

もし、
二度と戻れなくなったとしても
代わりに、新しい世界が広がっている、
そのようにして

ぼくはきみを想うよ。
認めながら、引き止めながら。


たとえ、
黒く冷たい闇の光が、ぼくらを繋げた光なのだとしても。
ぼくらは夜の列車に乗って、朝日の昇る海へ行こう。
答え合わせは、保留にして
黒く冷たい拳銃も、いつか
春の青い海に、沈めてしまえたら。


綺麗なまま散っていくのが美しいなんて
言ってやらないぜ。

ぼくは、きみを想うよ。

ロマンス

「寄り道をしようよ。」

ひらひら。
スカートをなびかせてきみは踊った。
きみが踊るのに合わせて、ぼくはシャッターを切る。
波の音が静かに近づいては去っていく。
穏やかな時間。


嫌いなのに、得意なことは?
大人のふりをすること。
悲しいときに笑うこと。
なんでもないよって誤魔化すこと。
ひとりきりの時間。


好きなのに、苦手なことは?
暖かい温度、芽吹く生命。
誰かに優しくしながら、自分も優しくされること。
誰かに愛されながら、自分も同時に愛すること。
きみといる、こんな時間。


アン・ドゥ・トロワ。
ひらひら、スカートが翻る。
冬の日差しを浴びて
少しだけ振り返った横顔に
ほんとうの意味を知った気がした。


この気持ちはきっと
言葉にしたら、終わってしまうから

言いかけた言葉、
唇に、人差し指をそっと添えて

(波の音が静かに、近付いては去っていく)

今は、もう少し、このままの時間で。

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コミュニケーション



丸い頬から、ぽろぽろと光の雫が落ちる。
とめどなく。

「光の方に進むんだよ。そうすると自然と影は後ろの方に行って、もう自分を傷つけなくても良くなるんだ。ぼくはもう、引き止めることを恐れない。引き止めることが愛だということを、疑ったりしないんだ。」

きみの言葉を、想う。




優しい夜には、境界線とか、霞んでいって。
なんだか不用心になって
むやみに近付いたりして
傷付けてしまったら、どうやって償えばいいのかな。

(だからね、傷付けることもある、というのが、本来のコミュニケーションってやつなんだよ、きみ。)


世の中のこと、これ以上分かりたくない。
悲しいこと、これ以上受け止めたくない。
どれだけ涙を流しても、正しいのが何か、分からなくなってしまったから
だから、
だからもう……。


半分持つよ、ときみが差し出した手を
ぼくは拒絶した。
だって、ぼくが持たなければ意味のない荷物だったから。
ぼくが背負うべき重みだったから。

つまらないこだわりだ、って思う?
きみを傷付けてまで守るほどの、って。
冷たい人間だって、思う?
暖かい光の中は優しいけど、怖くなるよ。

本当はもう、
本当のことなんて……。


「光の方に進むんだよ。そうすると自然と影は後ろの方に行って、もう自分を傷つけなくても良くなるんだ。ぼくはもう、引き止めることを恐れない。引き止めることが愛だということを、疑ったりしないんだ。」






春に行くまでの、長い道のり。
どうやったら、温めても壊れないでいられるの。
傷付かないでいられるの。
怖いよ。
苦しみたくないよ。

(それを可能にするのが、コミュニケーションなんだよ、きみ。)


たった一つ、欲しかった穏やかな日々は、ひとりきりでは手に入らないものだった。
現実って、悲しいことのように感じるけど
それも景色のようにやがて移り変わっていく、って
きみも、そう信じてる?




涙を零した。
とめどなく。
ぼくって、強くなかったね。
きみの手を拒絶した、この心は。

「きっと良くなるよ。」

勝手なこと言うな。

「ぼくはきみのこと……」

分かってる。





春に行くまでの長い道のりを
小さな船に乗って漕ぎ出した。
沈みかけた陽がつくる、まばゆい夕焼けに
さざ波がきらきらと輝いている。

恐ろしく見えた黒い影は
いつの間にか後ろに、細く細くなっていく。

遠ざかっていくその姿を見つめて
きみってこんなに小さかったんだね。
ほんとうは、こんなに小さな姿で、いつもぼくの一番近くにいたんだね……。


いつか別れが来たときには
新しい出会いが、ぼくらを守ってくれるだろう、と
知らない歌が、聞こえる。

巡る季節のように


悲しいことがあると、涙がでるよ。
世界中のひとを傷付けて、ひとりぼっちになりたい夜があるよ。
怖いものは、怖いよ。
いくつになっても。


(流れ出すメロディ。)

宝の地図に印を付けて
素敵な衣装に着替えたら
秘密の扉を開いて

(続いていくメロディ。)


未来は明るくないかもしれないけど、
朝日と一緒に、出掛けてみるよ。

にこにこ笑うのをやめて、友だちは少し減ったけど、
多分ね、生きるって、それでいいんだ。


ひとりぼっちのあなたを守っていたい。
暗闇の中、朝が来ないように祈っている小さな姿を、抱きしめて。
瞳から零れ落ちる景色のひとつひとつに名前を付けて、
ここにいていいんだよって。

たったそれだけのことに、震えるほど勇気がいるんだ。

ひとりじゃない、なんて簡単に言うけど
ぼくらはちっぽけだな。



悲しい夢はいつの日か終わりが来て
海の向こうに消えてゆくから、
ちっぽけなぼくらは安心して
朝日と一緒に、少し遠くまで、出掛けてみようぜ。


何度冷たくなっても、
また何度でも、優しくなれるよ。
巡る季節のように
悲しい夢にもいつの日か終わりが来て
満点の星空には、鈴の音が光り出す。


失くしていっても、
忘れていっても、
変わらず、残るものがあるよ。

巡る季節のように
年を重ねるごと
ぼくらは美しくなる。

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