ロマンス

「寄り道をしようよ。」

ひらひら。
スカートをなびかせてきみは踊った。
きみが踊るのに合わせて、ぼくはシャッターを切る。
波の音が静かに近づいては去っていく。
穏やかな時間。


嫌いなのに、得意なことは?
大人のふりをすること。
悲しいときに笑うこと。
なんでもないよって誤魔化すこと。
ひとりきりの時間。


好きなのに、苦手なことは?
暖かい温度、芽吹く生命。
誰かに優しくしながら、自分も優しくされること。
誰かに愛されながら、自分も同時に愛すること。
きみといる、こんな時間。


アン・ドゥ・トロワ。
ひらひら、スカートが翻る。
冬の日差しを浴びて
少しだけ振り返った横顔に
ほんとうの意味を知った気がした。


この気持ちはきっと
言葉にしたら、終わってしまうから

言いかけた言葉、
唇に、人差し指をそっと添えて

(波の音が静かに、近付いては去っていく)

今は、もう少し、このままの時間で。

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コミュニケーション



丸い頬から、ぽろぽろと光の雫が落ちる。
とめどなく。

「光の方に進むんだよ。そうすると自然と影は後ろの方に行って、もう自分を傷つけなくても良くなるんだ。ぼくはもう、引き止めることを恐れない。引き止めることが愛だということを、疑ったりしないんだ。」

きみの言葉を、想う。




優しい夜には、境界線とか、霞んでいって。
なんだか不用心になって
むやみに近付いたりして
傷付けてしまったら、どうやって償えばいいのかな。

(だからね、傷付けることもある、というのが、本来のコミュニケーションってやつなんだよ、きみ。)


世の中のこと、これ以上分かりたくない。
悲しいこと、これ以上受け止めたくない。
どれだけ涙を流しても、正しいのが何か、分からなくなってしまったから
だから、
だからもう……。


半分持つよ、ときみが差し出した手を
ぼくは拒絶した。
だって、ぼくが持たなければ意味のない荷物だったから。
ぼくが背負うべき重みだったから。

つまらないこだわりだ、って思う?
きみを傷付けてまで守るほどの、って。
冷たい人間だって、思う?
暖かい光の中は優しいけど、怖くなるよ。

本当はもう、
本当のことなんて……。


「光の方に進むんだよ。そうすると自然と影は後ろの方に行って、もう自分を傷つけなくても良くなるんだ。ぼくはもう、引き止めることを恐れない。引き止めることが愛だということを、疑ったりしないんだ。」






春に行くまでの、長い道のり。
どうやったら、温めても壊れないでいられるの。
傷付かないでいられるの。
怖いよ。
苦しみたくないよ。

(それを可能にするのが、コミュニケーションなんだよ、きみ。)


たった一つ、欲しかった穏やかな日々は、ひとりきりでは手に入らないものだった。
現実って、悲しいことのように感じるけど
それも景色のようにやがて移り変わっていく、って
きみも、そう信じてる?




涙を零した。
とめどなく。
ぼくって、強くなかったね。
きみの手を拒絶した、この心は。

「きっと良くなるよ。」

勝手なこと言うな。

「ぼくはきみのこと……」

分かってる。





春に行くまでの長い道のりを
小さな船に乗って漕ぎ出した。
沈みかけた陽がつくる、まばゆい夕焼けに
さざ波がきらきらと輝いている。

恐ろしく見えた黒い影は
いつの間にか後ろに、細く細くなっていく。

遠ざかっていくその姿を見つめて
きみってこんなに小さかったんだね。
ほんとうは、こんなに小さな姿で、いつもぼくの一番近くにいたんだね……。


いつか別れが来たときには
新しい出会いが、ぼくらを守ってくれるだろう、と
知らない歌が、聞こえる。

巡る季節のように


悲しいことがあると、涙がでるよ。
世界中のひとを傷付けて、ひとりぼっちになりたい夜があるよ。
怖いものは、怖いよ。
いくつになっても。


(流れ出すメロディ。)

宝の地図に印を付けて
素敵な衣装に着替えたら
秘密の扉を開いて

(続いていくメロディ。)


未来は明るくないかもしれないけど、
朝日と一緒に、出掛けてみるよ。

にこにこ笑うのをやめて、友だちは少し減ったけど、
多分ね、生きるって、それでいいんだ。


ひとりぼっちのあなたを守っていたい。
暗闇の中、朝が来ないように祈っている小さな姿を、抱きしめて。
瞳から零れ落ちる景色のひとつひとつに名前を付けて、
ここにいていいんだよって。

たったそれだけのことに、震えるほど勇気がいるんだ。

ひとりじゃない、なんて簡単に言うけど
ぼくらはちっぽけだな。



悲しい夢はいつの日か終わりが来て
海の向こうに消えてゆくから、
ちっぽけなぼくらは安心して
朝日と一緒に、少し遠くまで、出掛けてみようぜ。


何度冷たくなっても、
また何度でも、優しくなれるよ。
巡る季節のように
悲しい夢にもいつの日か終わりが来て
満点の星空には、鈴の音が光り出す。


失くしていっても、
忘れていっても、
変わらず、残るものがあるよ。

巡る季節のように
年を重ねるごと
ぼくらは美しくなる。

いつか来る春のために


はらはらと一羽の羽が落ちる。
朝日の、きらりとした光と共に。

少しずつ抜け落ちていく、これはカウントダウンだからね。

失くしていってしまう気持ちのこと、寂しい、ってきみは言った。



優しいねって言われるひとは、みんな天使の羽を持っていて、優しく舞う度に、背中から一枚ずつ引き抜いて、神様に捧げているんだ。

贖罪みたいなものなんだよ。

みんな、故郷の国がどこかにあって、そこにほんとうの居場所があれば良かったのにな。

言えない気持ちは当然のようにそこにあって、みんなそれを隠しながら、きらきらひかりを空に投げている。



曲がりくねった道の途中で
誰もが光を見つける道の途中で
間違えて死んでしまった馬鹿なぼくを、あなたは決して責めなかった。
間違えて映ってしまった気持ち悪い景色のことを、
大切にしようね、と包んでくれた。


あなたが包んでくれた、拙い自分とともに、ぼくは明日を行きます。



舞い落ちた美しい羽を空にかざして
寂しい、ってきみは言った。
(この光は、寂しさだったんだ。)

冷たい指先に温かい息を吹きかけて
いつか来る春のために。

Sunny Day


もう、これで、おしまいだよ。
手を離せば、真っ直ぐに、空に向かって飛んでいった。
待っていれば、いつか会えたのかもしれないのに、ときみは泣いた。
でもねちがうんだよ、これは、きみの方へ歩むための一歩なんだ。
きみに、会いにいくための。


何も見えないぼくに、きみが光を教えてくれた。
だから、ぼくは光の方に進むことができるよ。
こわいものや、恐ろしいものから、ようやく遠ざかることができるよ。


「きみは、ぼくに会いに行こうとしたんだね。」
そうだよ、いまのぼくには、きらきらした陽がどこから差しているのか、目を瞑っていてもすっかり分かってしまうんだ。
「きみは、ぼくを待つんじゃなくて、自分の力で、ぼくに会いに来ようとしてくれたんだね。」
そうだよ、ぼく、きみが教えてくれる光に触れるには、どうやったらいいのかって、ずっと考えていた。そして、ある朝、導かれるように、突然気付いたんだ。
「ぼく、きみのこと、誇りに思うよ。」


高く、高く、飛んでいく。
それはね、離れていってしまうということではないよ。
信じてね。
離れていってしまうということではないんだ。

幸せが、ゆるゆると穏やかな日々をもたらすことなのだとしたら、
ぼくらはちっとも、天使になれないな。
それでも優しさを追いかけて、日が暮れても、疲れて歩けなくなっても、いつまでも追いかけて、
たくさんのひとを傷付けて、それだけだったような気もするけど、
最後まで忘れないでいてくれて、どうもありがとう。

(それは、とある、晴れた日のこと。)


きみのこと、覚えているよ。
いつまでも、覚えているよ。
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