丸い頬から、ぽろぽろと光の雫が落ちる。
とめどなく。

「光の方に進むんだよ。そうすると自然と影は後ろの方に行って、もう自分を傷つけなくても良くなるんだ。ぼくはもう、引き止めることを恐れない。引き止めることが愛だということを、疑ったりしないんだ。」

きみの言葉を、想う。




優しい夜には、境界線とか、霞んでいって。
なんだか不用心になって
むやみに近付いたりして
傷付けてしまったら、どうやって償えばいいのかな。

(だからね、傷付けることもある、というのが、本来のコミュニケーションってやつなんだよ、きみ。)


世の中のこと、これ以上分かりたくない。
悲しいこと、これ以上受け止めたくない。
どれだけ涙を流しても、正しいのが何か、分からなくなってしまったから
だから、
だからもう……。


半分持つよ、ときみが差し出した手を
ぼくは拒絶した。
だって、ぼくが持たなければ意味のない荷物だったから。
ぼくが背負うべき重みだったから。

つまらないこだわりだ、って思う?
きみを傷付けてまで守るほどの、って。
冷たい人間だって、思う?
暖かい光の中は優しいけど、怖くなるよ。

本当はもう、
本当のことなんて……。


「光の方に進むんだよ。そうすると自然と影は後ろの方に行って、もう自分を傷つけなくても良くなるんだ。ぼくはもう、引き止めることを恐れない。引き止めることが愛だということを、疑ったりしないんだ。」






春に行くまでの、長い道のり。
どうやったら、温めても壊れないでいられるの。
傷付かないでいられるの。
怖いよ。
苦しみたくないよ。

(それを可能にするのが、コミュニケーションなんだよ、きみ。)


たった一つ、欲しかった穏やかな日々は、ひとりきりでは手に入らないものだった。
現実って、悲しいことのように感じるけど
それも景色のようにやがて移り変わっていく、って
きみも、そう信じてる?




涙を零した。
とめどなく。
ぼくって、強くなかったね。
きみの手を拒絶した、この心は。

「きっと良くなるよ。」

勝手なこと言うな。

「ぼくはきみのこと……」

分かってる。





春に行くまでの長い道のりを
小さな船に乗って漕ぎ出した。
沈みかけた陽がつくる、まばゆい夕焼けに
さざ波がきらきらと輝いている。

恐ろしく見えた黒い影は
いつの間にか後ろに、細く細くなっていく。

遠ざかっていくその姿を見つめて
きみってこんなに小さかったんだね。
ほんとうは、こんなに小さな姿で、いつもぼくの一番近くにいたんだね……。


いつか別れが来たときには
新しい出会いが、ぼくらを守ってくれるだろう、と
知らない歌が、聞こえる。