……と、その人は言っていた。

私たちは手紙の便箋にひたすら色を塗っていて、たまに自分の好きな絵を、その塗りたくった中に入れてみたりする作業をしていた。

その人に紙を渡すと思いの外真剣に絵を描いてくれたので驚いた……本人も驚いていた。
「なんでこんなもの描いたんだろう」
と呆然としたあとに、いりますこれ?と言われたので、くれるなら手紙をつけてください。と言うとつけてくれなかった。
この作業をするひとにはふたつのタイプがある。手紙を書くために便箋を手に取る人と、便箋を手に取ったから手紙を書き始める人。
その人は後者だったらしい。私は前者。
その力作は知らないうちに机から消えていて、もったいないような気はしたけど……捨ててしまうのがいちばん自然な流れではあるし、たとえば絵だけだとしても、その絵を私の手元に残すのはちょっと違うように思えた。捨ててしまうにはもったいないけど残しておく理由もない。
だから、手紙なら残す理由になったのに、とは思っていて、でも手紙にならないと知っていたから手紙をつけてくれたらと言ったのだ。
私、なんかキモいこと言ってる気がしてきた。

いまビールのみながら考えてみると普通にもらえばよかったような気がする。可愛かったし。でも手放しでもらうことが何か、私の中ではだめだった。
私はそのとき母親に手紙を書いたけれどまだ渡していない。手紙を書く人間にはふたパターンある。渡すことが目的の人と、書くことが目的の人。私自身の話をすると、渡さなかった手紙はいままでの人生で数知れずある。
渡さなかったからといって、でも真剣に書いたものばかりだったけれど。

〈何を書こう?〉
本郷地下『moon river』


このことがあったころ色々気持ちが落ち込んでてあまり何を読んだか覚えていない……この頃のことを覚えていない。
これはねー前にこの日記で『ふくふくハイツ』という漫画を紹介したのですが、その著者の新作です。ハロウィンものです。
作家志望の編集者の男性と、彼を訪ねて日本へやって来た吸血鬼の青年……の不思議な数週間の共同生活を描いています。
なんかね……生きてるあいだのさびしい空間をどんって突かれるかんじの漫画です。
生きててふつうに歩いたりしてるとき、急に怖くなることってあるじゃないですか。やばいみんなそのうち死ぬじゃん、みたいな。
そういう瞬間を、ぱって見てしまうかんじ。
お互いの生きてる時間がすれ違うのってすごく怖いけど、それでも一緒に生きていきたいと自分以外の誰かに思ってしまうほどの関係性って、例えると結婚なんかがそれなのだと思うのですが、結婚でなくても存在する気持ちだと思うのです。そういう関係性を、いつもテーマに据えて描いてくれる作家さんだなと思います。
生きる時間が違うからこその関係だし、生きる時間が違っていても同じ気持ちで生きている関係。
長い目でみるとせつないのですが……。

クラシカルな雰囲気がとても素敵な作品です。
ワンコの出てくるエピソードが可愛せつなくて好きです。しかし後半で明かされるどろどろな過去の話も好きです。思ってたよりどろっとしていた、いいね!

余談ですが私はあまり映画を観ないのに『ティファニーで朝食を』は意外にも観ているのです。
オードリーがムーン・リヴァーを歌う場面すごく好きです。タイピングのシーンから歌に繋がっていくのも好き。月の河って実際にはないものだと思うと、もっと好きです。



〈とうとう花鳥風月に足 踏み入れちゃったか〜〜〉
アキヤマ香『長閑の庭』

これはだいぶ前に二巻だけを間違えて買ってしまった(私が)漫画ですね。静かな物語かと思いきや通して読むと文学系スポ根というような熱さでした。イケイケでした。
ストーリーは表紙から察してください。
私としてはファンタジックなお話だなあと思いました。大人の少女漫画というかんじ。

田中が一番いい奴じゃんと思って読んでいたのですが年齢が三十代と知り、三十代にしてはあまりにチルドレンでは!?……と思い頭を抱えました。田中お前……。大人げない……というかお前……教育者……。

三巻に田中視点のみじかい番外編が載っているのですがその話が全編通して一番好きです。これはよいですよ(語彙力)
でも田中はクズです。


この右の人が田中です。彼の年齢が二十四歳ならパーフェクトでした。かわいい。クズくない。でも三十路だと思うと、クズだと思う。
裏を返せば田中はただクズなだけでいい奴です。
引用している台詞は一巻の番外編からですね。田中の台詞ではありませんがこの番外編も好きです。





漫画の感想