本の話をします。
最近「本が好きなの?」とか「本が好きなんだね」とか言われすぎて、本が好きなのかどうかわからなくなってきた。愛を見失ってきた。
本しか手段が見つからないから本を使っているだけで、ぜんぜん本に対してアンテナがたたないときもあるし。
一ヶ月くらい前に「なぜ(本や本の周辺に)こだわるの?」と尋ねられて、自分がそこに「こだわっている」状態なんだと気づいてはっとした。けれど先週、本をつくってみたいと思っていろいろ試行錯誤していたときは楽しかった。


藤崎彩織『ふたご』


本屋で本を眺めて、今は一番この本を読んでみたい。と思って買った本。
本を選ぶということは自分自身のバイオグラフに即している部分があって、なんというか……コンディションと直結している行為だと思う。とても肉体的な行為。精神が肉体という器に内包されていると考えた場合ね。
この本は全部で三百頁以上あるけれど、一度も胸焼けせずに読めたし身体の中にさっとすべりこんできた。今の私の肉体が求めていることと、本の内容が近いのだと思う。

あらすじはまあ、ほぼ自伝です。
前からさおりさんと彼の関係が気になっていたので、こういうふうに形にされて良かったです。
恋人でも友達でも家族でもない、名前のない関係性をもつ二人のお話。名前のない関係ってけっこう身近にあると思うんですよね。私にもあります。名前をつけたいけどつけられないときもある。関係って、名前があったほうがとても楽ちんなんですよね。一言で説明できない関係が一番やっかいで、そのうえずるずると長引いてしまいがち。だのに簡単に失ってしまいがち。
いえべつに、私はなにも怪しい関係、持ってないですよ。ただ、名前がつかないっていうことは、つけられない事情もあり、名前をつけてくれる誰かもいないということですから。不毛なことが多いんじゃないんですかね。名前がなくても名前がないことを認識できるだけのつながりは発生しているわけだし。

恋愛小説だって、恋愛小説という名前がすでにありますよね。人を好きになって、結果が出て、お互いどうにかなる。答えまで出されて美しい方程式のように物語は進んでいくけれど、現実には答えの出ない(出されない)中途半端なことだって多いはず。
夢だって才能だって未来だって同じように、確証のない、わからないことが大半を占めている。
そういう、はっきりとした形になっていないことを、埋めてくれるようなものを今は求めていました。すべて素直な言葉で表してくれているので、よい作品だと思います。読みやすかった。


桜乃みか『僕の奴隷になりなさい』

好きな人がいる好きな人に都合よく利用される矢野さんのお話。
アレな場面が多いのでよくあるアレな感じの少女漫画に思われがちですが、これがけっこう深い作品なのです。「名前のない関係性」をうまいこと描いている作品だと思います。最後が波紋を呼ぶような終わりかたなのですが「好き」ってすごく表裏一体というか、いつひっくり返るかわからない、危ういものなんだなって平手打ちされるようなラストシーンでした。そういうところもいい漫画だと思います。しかし本編よりも、四巻に載っている番外編がさらに秀作なのだ。人の心ってこわい。

今日の感想文は書いているうちにどんどん楽しくなってきた。さっと身体の反射で書いている感じ。