瀬尾まいこ『春、戻る』

(あらすじ)
六月に和菓子屋へ嫁ぐことが決まっている、三十路のさくら。ある日さくらのもとへ「さくらの兄」と名乗る謎の青年がやって来る。しかしさくらのきょうだいは、すみれと言う妹ひとりだけのはず。
「おにいさん」の存在を訝しがるさくらだったが、日々を過ごしていくうちにその気持ちは変わりはじめて……。
恋人でも友人でもない、ちょっと不思議な絆をえがく春のものがたり。

……お久しぶりの瀬尾まいこでした。謎は途中である程度予測がついてしまうのだけど、それを補ってあまりある余韻が胸にしみていくので満足です。さくらの過去については個人的に共感する部分もありました。悪人と言う悪人が出てこないのだけど、たまにはそういう話もいいしそういう話だからこの本はよりよく読むことができるのでしょう。読んでいるとお腹がすきます。


西加奈子『うつくしい人』

(あらすじ)
人生に疲れた「私」こと蒔田百合は、現状を打破するために一人旅に出かける。宿泊するのは、瀬戸内海に浮かぶ島の高級ホテル。浮世離れした宿の中で、彼女は自分のこれからと共に、家で引きこもり続ける「姉」のことを思う。
そしてホテルの中で迷いこんでしまった百合は、思わぬ場所、思わぬ人間関係にたどり着く……。

そういえば初・西加奈子なのでは!これは知人が読んでいたのを見て興味を持ったのですが、冒頭からいきなり「高松空港」なる名称が登場するんですよねー。
心が繊細な女性の、「怯え」から物語は進んでいくんですが、怯えだけ汲み取っていけば十代の女の子の心を覗きみる青春小説の世界のよう。でも実際は三十路の女性の話なので、ドライに進んでいきます。しかしそれがすべて「姉」に繋がっていくのはよくわからなかった。私にはきょうだいがいないからですかね?
瀬戸内海ラバー(?)としては、こっくりした青い海という描写がとても好きです。忠実にあらわした表現だと思う。ただ、うどんを半分残すのは許せない。これらネタバレだけど些細なことなので許してね。
姉がどうとか、瀬戸内海を舞台にしたヒーリング小説だとかそういうことはさておいて、「図書室」の物語とも呼べることがただただ嬉しい。

仁木英之『奏弾室』

(あらすじ)
病気で大学を休学していた「僕」。彼を心配する姉から、ピアノでもまた始めてみれば?と提案を受ける。彼には、習っていたピアノを挫折したという過去があった。

そんな真夏のある日、どこからともなく流れてくるピアノの音色を追いかけた彼は、「奏弾室」と名付けられた奇妙な屋敷にたどり着く。そこは、悩みを抱えるものたちがピアノを習う教室だった。美しい講師・「沙良」とともに、祐介の不思議な夏休みが始まる……。

お悩みものかなと思いきやファンタジーも入っていて、一番はじめの話では度肝を抜かれました。一番はじめの話が私は好きですね。
美女と平凡な(優しい)男の助手のめくるめくダークファンタジー……『×××HOLiC』を思い出す人もいるはず。
古典音楽からJ-POPまで、実在の名曲たちをテーマにした連作になっています。話のオチが次の話のなかで説明されるのでひとつの話だけ読むと「?」となる部分はあるかも。でも予想外にすてきな本でした。
すてきな本と言いながら、結末は好き嫌いがわかれるだろうナァと思います。個人的には駆け足過ぎたイメージ。そこだけ惜しい!みたいな。個々の悩みはヘビーなのですが沙良と僕のやりとりがかわいーので全体は楽しく読めます。

小川洋子『妊娠カレンダー』

(あらすじ)「農薬入りのジャムを妊婦の姉に食べさせ続けたら『どうなる……カナ?』っていう話」
と、話していた相手に説明されて興味をもち読んだ本。『どうなる……カナ?』ってキュートにおっしゃってましたがそんなテンションで言うことじゃねーだろと思って読んだ。
小川洋子ってやっぱり欠損萌えなのか。欠損したもの、ひと、欠けた身体的特徴、みたいなものが多く描かれていませんかね。しかしずばりそこが好きですね。
口絵に小川洋子さんのご尊顔が載っているのですが(写真一枚デデーンと載っている)こんな可憐なあなたがこんなグロテスクなお話を……っていうギャップがいいですね。ただしグラタンのところはマジでやめてくれと思いました。
どうして主人公は姉に農薬入りのジャムを食べさせたのか、と思って。妊婦になりこれまでと変わってしまった姉が疎ましかったのかなとも思ったのですが。
嫉妬もあるのかなあ。そもそも農薬入りと言ってもグレープフルーツに含まれているものだから、絶対的な毒薬ではない。
ただ姉を変えてしまって、姉を奪ってしまうものに、グレープフルーツの確率に懸けて抵抗したかったのかなあ、など感じました。ラストシーンを読むとたんなる憎しみではないように思えます。姉のこと好きそうだし。
こういう作品で芥川賞ばしっと決めてしまう小川洋子はロックですね。
これ藤崎彩織さんの『読書間奏文』にも出てきてましたね。妊娠中に読むのはおすすめしません。さおりちゃんは読んでいたけど。


そんなわけで、読んだ本たちがふしぎと兄・姉・姉・姉だったのでした。


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