街に繰り出した二人は…食事をしたり娯楽をたしなんでみたりと人間くさい事を十二分に楽しんでいた…夕方には…いつもの施設への帰路へ付く…。
ウキウキ気分で相当浮かれていた雪乃は…歩いていて一人の男にぶつかった…。
その男?は、詫びの一つもせずにふらりふらり…まるで覇気、いや生気のかけらが無いと言うような感じだった…。
まさに心ここに有らずと言う感じでふらりふらり…。
雪乃は、そんな男?の態度がしゃくに障ったようで怒りを覚えると男の肩をぐいっと引っ張り静かに怒声を上げる。
雪乃『ちょっと…ぶつかって一言無いのっ!』
男?『…うるせーよ…ガキが!』
男?の態度は悪びれもしない傲慢な態度のように受け取った雪乃は、カチンと来ると拳を握りしめ殴ろうと殺気立った…ところ、先ほど覇気や生気のなかった男?は、スイッチが入ったようにかなり高圧的な威圧感が放出され打って変わったかのように瞳は輝いていた…。
男?『おっ!?やる気か!!上等じゃねぇか!!』
男?の殺気は、雪乃の数倍、いや数百倍はありハイネリアは肌で感じ取る…殺気が焼けるように肌にまとわりついてピリピリとしている…猫だった頃の生存本能がかなり大音量で警報をならしていた。
ハイネリア『ゆ…雪乃っ!』
ハイネリアが雪乃に声をかけた途端、男?がまばたきをした瞬間に雪乃の背中側に立っていた…。
男?『オイ、ガキ…さっきの威勢はどうしたんだよ拍子抜けだ…。』
男?は少し拍子抜けしたと残念な表情をするとどこかへまたふらりふらりと去っていた…。
男?が雪乃を殴り倒すのかと冷や汗をかいたところで何事もなかったのがラッキーだった…。
雪乃も、男?の威圧感に負けて動く事もできなかったようだ…。
へなへなと地べたに膝をつけるとハイネリアが走り寄ってくる…。
ハイネリア『雪乃っ!大丈夫か!?』
雪乃『あ…あ…あれが…本当に人間…なの…。』
ハイネリア『あぁ?どういう事だ、何を見た?』
ハイネリアの問いに雪乃はガタガタと少しふるえながらゆっくり考えて言葉を選び静かに答える…。
雪乃『あの人…本当に人間…!?何あれ…あれが本当にイキモノなの?』
ハイネリア『オイッ!何を見たんだ、雪乃、しっかり答えるんだ!』
雪乃『分からない…分からないのッ!』
雪乃は、とてつもない物を見たようでひどく怯えだした、ハイネリアは、博士を呼び出すと雪乃の肩を持ってゆっくり歩く…。施設に着くと博士は、雪乃に鎮静剤を打ち落ち着かせた…。
薬が効き始めてゆっくりとまどろむ…。
すぅ…と小さな寝息を立てた所で博士は、深いため息を着くとハイネリアにニ、三質問をした
博士『ハイネリア君…雪乃ちゃんがこうなるのになぜ止めなかったんだい?』
ハイネリア『男の持つ覇気のせいか…ピクリとも体が動かない状況に陥ってしまったためです、博士…。』
博士『なるほど…な…。』
博士は、ハイネリアの言葉を理解するとため息をまた付く…。
すぅ…と眠る雪乃に目をやると、博士はゆっくり語る…。
博士『それは、君の生存本能が警鐘をならしたんだな…これは死ぬかもと…覇気の放出と言った物、相手は相当な熟練者だな…。』
ハイネリア『相当な熟練者?』
博士はハイネリアの言葉に頷くと…熟練者の事を教える…。
相当な熟練者、つまりは殺人のプロフェッショナルが出す力、殺気よりも段違いの威圧感を与え近づけまいとする…そして、その男は、間違いなく数多くの人命を殺し、数多くの死線をくぐり抜け、生き残っているツワモノだと言うこと…そのツワモノとして一番近い存在が軍人、ハイネリアの同業者で有ることも博士は推察で話しをする。
ハイネリアは、驚いた、同じ軍人なのに気が付かなかった…加えて、直面した焼けるような殺気を持っていた事…。
観察不足だった…。
自分が不甲斐なく思った…。
兵士たる自分が同業者に気が付かないことに不甲斐なく苛立ちを隠せなかった…。
それに構わず博士はさらに質問を投げる…。
博士『ハイネリア君、悔やむのは良いが…殺気や覇気にも人によってパターンが違う…どんなものだったか覚えているかい?』
ハイネリア『や…焼けるようなピリピリとした痛みを伴った殺気…だった…最も直接見ていたのは彼女だ…彼女が起きたら聞けばより詳しく聞けるかと…。』
博士『まぁ、そうだな…その件は雪乃君にきくとしようか…それで、その男の風貌は?』
博士は、ハイネリア達が出会った男について聞くとハイネリアはすぐさまに男の特徴がはっきりと脳裏に浮かんだ…。
ハイネリア『左腕に赤い帯のついた紺のコートで腰まで長い黒髪で…顔は良く見えなかったが…身長は…170以上はあったかと…。』
博士『かなり大男だな…そうすると…。』
博士は…手近にあった白い紙にボールペンでさらりとラフに絵を描いてハイネリアに見せるとハイネリアが見た大男のイメージにぴったりの絵を描いてハイネリアに見せた…。
ハイネリアはまさにこの通りと言わんばかりに頷いて見せた…。
そうすると博士は急に笑い出しすぐさまに服を着替えて、しばらく留守にすると言って嬉々としながら施設を飛び出して行った…。
突然のことでハイネリアは理解ができなかった…いつも冷静な博士の顔がまるで花が咲いたように満面の笑みを浮かべて施設を飛び出して行ったのだから事態も飲み込めずにいるのは無理がなかった…。
しばらくして静けさが周りを包むとハイネリアは、すぅすぅと寝息をたてる雪乃の額に手を当てそっとなでると雪乃は笑ったような表情を見せる…。
ハイネリア『あんたは、あの時何を見たんだか…。』
ハイネリアの独り言は部屋の部屋の隅にまで通ると風が通る…戸締まりもしているし窓もしまっているのに不思議と風が入って来た…。
男?『この前の男だな…。』
入り込んで来た空気と同時に聞き覚えのあるトゲトゲしい声色にハイネリアはすぐさま反応してその方向に戦闘体勢を取りながらキッと向いた…。
ハイネリア『おま…え…どこから入った?』
男?『あぁん?何寝ぼけた事言ってんだ?入り口から堂々と入ったに決まってんだろ?』つい先ほど、とんでもない事態になって時間が経たない状況のために険悪な空気が周りを包み込んで殺気すら混じり男とハイネリアはピリピリとし今にも殴りかからんとし二人は額がくっつかんばかりににらみ合いを続けているところに博士が割って入った。
博士『二人ともやめないかっ!身内同士で!』
男?『身内だと!?冗談は大概にしろよカズト!この頭に血が上りやすい真っ黒野郎が軍人だって!?』
男が笑いながら言うことにハイネリアはカチンと来ると握り拳を作り声を荒らげて反論をする!
ハイネリア『こっちだってあんたのような暴力馬鹿野郎が軍人だとは認めん!絶対に認めん!』
荒らげて言ったハイネリアに男はキョトンとしてほんの数秒固まったがまたすぐさまに笑い出した、それも先ほど笑っていた笑い声よりも一段と大きく笑い出したのだ。男『つくづく、おめでてぇ野郎だな!』
男が言ったところでハイネリアはキョトンとすると男は名乗った。
男『オレは、海賊部隊【赤月:アカツキ】の首領、神崎ハジメ烈月だ!確かに数年前は、国令第零中隊女神隊の戦時徴兵で編入されたが…女神隊の解散でオレの任も解かれて軍人じゃねぇんだよ。』
減らず口に物を言わせて自分の名前を名乗った烈月は笑い出した所でハイネリアは彼の名前にハッとし怒りが冷めた…。
自分の目の前に居る人物が過去の大戦にて伝説的な偉業と驚異的なスコアを叩き出した人物であり本来は出会う事のなかった人間を目の当たりにしハイネリアは驚愕した…。
過去の大戦にてついた徒名がフィールドブレイカー烈月。
戦場を縦横無尽に駆け巡り、敵AG撃墜数オーバー300被撃墜1、殺傷兵士数は推定でも1000人はくだらない歩く大量破壊兵器だ。
日本軍では女神隊の存在の中で一際、戦闘に特化した化け物あるいは英雄のごとき存在である。
ハイネリアはそんな人物を目の前にしている。
通りで戦闘経験の無い雪乃が怯えきることが納得行く…。
ハイネリアは恐る恐る手を差し伸べてゆっくりと名乗りを上げる。
ハイネリア『烈月、さっきはすまなかった、お…俺は、第13独立機械化混成中隊隊長の…ハイネリア…仙石ハイネリア、中尉だ。』
烈月『おうオレも悪かったな…ハイネリア中尉、よろしくなっ!』
烈月は、固まった表情をするハイネリアの手をギュッと握りニッと笑うとハイネリアは今までの固まった顔が一気にほころんだ…。
偉人に出会う機会とは全く無いある意味で名誉ある事だ、さらに怒鳴りあった仲と言ったのは大変貴重な経験でもあるハイネリアは少し安堵と喜びがこみ上げる…。
烈月はふと雪乃に目をやるとやるせない表情と深いため息をついて雪乃の額に手を当てた…。
烈月『すまねぇな…こいつには申し訳ねぇ事をしたと思ってる…。』
ハイネリア『烈月…彼女に何を見せたんだ?』
烈月『見せたっつうか…ただ殺気と怒気を全開に放出させたって寸法さ…。』
いまいちぴんと来ない発言だ…。
殺気と怒気を混ぜ合わせて一気に全放出をさせただけで雪乃が怯えきる訳じゃない…。
何か他に隠しているハイネリアはそう思い更に問い詰める…。
烈月『あぁ…オレにゃ人ならざる力っつうかそれに近いのを見たんだろうよ…。』
烈月はそう言ってため息を深くついた、どうやら嘘は言っていないような素振りである…。
烈月『トラウマやPTSDにならなきゃ良いがな…。』
表情が穏やかになっている烈月は、博士に道中で事情を聞かされているみたいで今ここで雪乃の心配をとてもしていたところを見ると歩く大量破壊兵器には見えなかった…。
ハイネリア『優しいんだな…あんたは。』
ボソッとハイネリアはつぶやくと小声でいった言葉は耳に入って居たようで烈月は、首をハイネリアに傾げながら向けて優しい表情を向けフッと笑う。
烈月『てめぇより…優しくなんざねぇさ…。』
彼が言った言葉は色々と含みがあるようだがハイネリアは無駄な詮索はそれ以上すまいと思うのだった…。