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狂気の戦姫編2 in女神はほほ笑む

あらすじ ある日突然、女神隊隊長の巴が豹変し狂気に満ちた表情を見せ、ユウキに襲いかかり、しまいにはユウキに拳銃を撃ち放ち瀕死に追いやると敵として相対していた奈都が激昂し反旗を翻して巴に噛み付き激しく戦闘を繰り広げるのだった。

奈都と巴は、激しくぶつかり合い…互いに磨耗していく。

奈都は、巴の放った一撃で頬を切ったようで血が滴り、巴は奈都のガンブレードの爆振で煤だらけとなりSENCOの防刃・防弾ベストの左腕には浅い割にはと言う位におびただしい量の血がにじんでいた…。

奈都『蘭…ここは任された!撤退して…!』

奈都は、蘭とユウキを逃がすために巴に向かって腰のポーチから取り出した煙幕を発火させ投げつけると噴射音と共に煙が吹き出て巴の周りの視界を遮った。
蘭は、煙が辺りを包んだのを見計らいユウキを抱えて扉へ急ぎ開閉ボタンを押す…。
蘭は、なんとか逃げおおせたと安堵したのもつかの間、扉が開いたと同時に目つきのよろしくない小さい巫女服が立ち尽くしており蘭は、その姿に驚き後ろにユウキを抱えたまま飛び退いて空いた片手でトンファーに備え付いた銃口を向けた。

『待って…撃たないで!味方だって!それより、早くこっちに!』

小さい巫女服は、驚いた蘭を見て慌てながら軽く弁解を述べて手を差し伸べる、ひとまず蘭はその言葉に半信半疑のまま応じて小さい巫女服のそばに小走りで寄る。

『もう、大丈夫…あたし達が居るから…。』

小さい巫女服が放った言葉に一瞬で蘭は、引っかかりを覚え肩で息をしつつもその引っかかりを訪ねた。

蘭『わ、私たちって?何っ!?何のこと!?』

若干、声を荒らげながら訪ねた蘭に、小さい巫女服は微笑をし口元を緩ませるとそのまま…煙の立ちこめる先を指差し蘭はその先を見つめた。

先ほどまでもうもうと立ちこめていた煙が晴れていき、ゆっくりと巴の姿が現れる…先ほどまでの狂気じみた笑みもなく焦りと苦悶の表情を顔に表しているではないか…。

蘭『えっ…ウソっ!?何があったの?なっちは?』

ボソッと言葉を発すると蘭の近くに達していた煙の中から傷ついた奈都がよろよろと息を切らした状態で姿を現し蘭の近くに座る…。

奈都『もう…一人…いる…。』
『そう!もう一人!とも姉キラーが居るのさ!』

奈都も煙の中を指し示し小さい巫女服は自信満々に声を発するとその姿がはっきりわかる…。
煙の中から巴を追うように飛び出て薙刀を使い、まるで巴にそっくりな顔立ちの巫女服が巴と戦っている…。
しかし、良く見ると巫女服が優位に立ち回り巴は、それに振り回されて防戦一方に立たされている明らかに、巴以上の手練れである。

巴が袈裟に振り下ろした槍を半身でかわし一歩、踏み込み、柄を踏みつけてそれを伝い薙刀で横一線に斬りつけようと振りかぶるが巴は、槍からすぐさま手を離して体勢を整えようとした瞬間…間合いを多少詰めていた巫女服が横一線に薙いだ、あっという間の出来事に巴は、そのまま上体をそらして薙刀の刃を紙一重によけたのもつかの間、巫女服が上から…体ごと降ってくるように胴を廻しながらの浴びせ蹴りがすでに繰り出され、さらにおまけに、先ほどやり過ごした長柄の薙刀が彼女に釣られてその上から円を描いて降りかかる…。

巴は、上体をそらしたままの体勢ゆえに隙が生まれていたわけだ…巫女服はそれを見越しての浴びせ蹴り+αだった、巴は、よけられない体勢なはずが巴は、接地していた足を浮かせ床に背中を預け、すぐさまに横転する…その動きはまるでゆっくりとしりもちを付くような光景だが…回避がこの様になるのは当然、巫女服は、体が地面につきズシンと重い音を訓練所に響かせ素早く立ち上がると巴はすでに槍を構えていた…。
二人の一連の動きが二まばたきくらいの凄まじいスピードである…。

蘭は、一瞬で何が起こったかは理解できなかった…目で追っていくのにやっとであった…。

『さて…あたしは…助けに行かないとね…。』

そばにいた小さい巫女服は、そう言うと独特な鉄の板を腰から二枚取り出して大きな巫女服に向かって走り出した。

巴と大きな巫女服の間には、殺気の渦巻く沈黙だけが渦巻いており…互いに目で牽制している…ほんの一秒の沈黙…。
しかし、すぐに動いたのは巴だ、腰に収めたドイツ製の骨董品拳銃を素早く抜き、銃弾を数発、発射するがその間に、小さい巫女服が割って入りそれらすべてを手に持った独特な得物の鉄板で受け止める…。

大巫女『エイコ…良いタイミングですっ次行きますよ!。』

小巫女『はいっ姉さん!』

二人の巫女服は息を合わせ大きな巫女が薙刀を床に当て小さい巫女はその柄に足を置いた途端大きな巫女が薙刀を振り回し小さい巫女を投げ出す姿はさながら人間カタパルトのようで一直線に小さい巫女が巴に向かって飛んでいきそのまま両手に持った得物を矢尻のように組むと腕を振り上げ巴を打ち上げる…すかさず、落下点を見据えた大きな巫女が先回りしており小さい巫女が再び、薙刀の柄に足をかけ打ち上げられ巴と同じ高さに位置すると腕を振り下ろし巴を地面に叩きつけ彼女は、自重で落下した際に得物の先で追い討ちとして叩き込み巴を地面めり込ませた…。

蘭『す…スゴッ。』

ボソッと蘭がつぶやき奈都はあっけに取られたが彼女の目に入ってきたのは、卓越した戦闘能力ではなく二人の巫女服の後ろの襟元にある代紋(マーク)、八つの菱形のマーク…。

奈都は、瞬時に自分の頭の中にあるデータベースをめぐらせこの代紋を探す…答えはすぐにわかった。

奈都『八菱重工…もしかして私設部隊…。』

『ご明察…でも、ちょっと違いますね。』

奈都が開いた口に挟むように言葉を放ちドアから現れたのは少しどことなく巴に似た雰囲気を持つ女がそこから入ってきた。

蘭『うぇっ…また巫女服…なんかの趣味か仮装パーティー?』
『それより…早く彼を医務室へ運ばないといけないでしょう。』

女に急かされるように蘭は慌てて担いだユウキを医務室に運ぶために訓練室を後にした…。

巴と二人の巫女服はいまだに戦闘を続けている奈都と入ってきた巫女服はそれを眺め続けていたが改めて中くらいの背だけの巫女服が口を開く。『妹の巴がお世話になってます…私は八菱重工の榊原樹…巴の姉です…。』

巴の姉…言い方を変えれば八菱重工が最初に作り出したRAだと言う事だ…奈都は、直ぐに理解する、この女達は、巴をよく理解している連中であると…ゆえにあの狂った巴ですら押し返される訳だと。

樹『大きい方は、風子、お団子頭の小さい方が衛子です。』

奈都『風子と衛子…理解…した…それで…。』

奈都は、聞きただそうとすると樹は、巴とは違うやさしい笑みを浮かべ奈都の頭をポンポンと軽く叩きゆっくり歩き出し巴に向かって歩を進める。

樹『ユウキさんに、助けてと言われたので飛んできた訳です…。』

奈都は、ハッとする…ユウキが呼んだのは紛れもない強力な助っ人であった…そして、樹が巴との距離をほどほどに置いてどしっと威風堂々と構え始める…。

ゆっくりと彼女は左手を上げ胸の位置でピタリと止め手の甲を、巴にさらけ出す…そして、風子と衛子を呼ぶ…二人の巫女服はそれに合わせるように自然と互いの役割と立ち位置がピタリと重なり立ち上がった巴と真一文になる…ボロボロになった巴が樹に飛びかかると、すぐさまに衛子が巴の前に立ちはだかりなぎ払いの一撃を左手に構えた盾のような得物で軽くさばき、右手の同様の得物で横一線に払い巴がそれをよけるために後ろに飛び退くとそこを狙ったかのように風子がタイミングをぴったりと合わせて巴の凪いで戻らぬ腕の反対から袈裟に切り上げる…それにも巴は姿に反応し横へ飛ぶが今度は、衛子が右手の得物をもう一枚連ねて長さを長くした得物で袈裟に振り下ろし殺意のこもった異音が空を切ると共に音を発てるそれでも、巴はかわす姿がさながら追い立てられるうさぎのようだった…。
関心の樹は未だにそこに立っているだけではあるが、風子と衛子に、攻め立てられ巴は近づけずにおり縦横無尽に身をかわす事に精一杯と言うような光景がしばらく続く…。

その攻防もしばらくは続いていたのもつかの間、今度は、樹から金切り音が突然、放たれ、その光景は傍目で見ていた奈都は理解ができなかった。

樹『これで…王手です…巴…。』

奈都は、金切り音を放つ樹に目をやると…左手の先から所々きらめく光る筋が目に入る…それもかなり細い鉄線のようで…それが巴の四肢のいたるところに絡みついてほどけない状態になり、巴は振りかぶった状態でまるで巴だけ一時停止したかのようにそれはがっちりと絡まっていた…。

巴『い…樹っ!貴様っ!』

明らかな不意打ちで自身の体を拘束された巴は、今まで見せたことの無い表情と眼差しを実姉、樹に向けると樹が口を開く…。

樹『あなた、巴じゃありませんね…誰です?』

手が巴のもがく力に負けじと震えながらも言葉に余裕を見せる…樹は驚くべき質問を投げつける…実妹のはずの巴を誰呼ばわりする事にそれを聞いた奈都はおかしな気分になる…。

樹『誰、何です?あなたは…?』

巴『おやおや…姉様…実妹の…あたしを、忘れた…訳じゃ…無いでしょう?』

樹『いいえ…?あなたの事は、知らないですね…妹の巴は、そんな言い回しはしないですし…【姉様】なんて言わないですから…あなたは誰ですか?』

間違いなく、巴の姿をしているはずなのに明らかに様子がおかしかった…奈都ですら気が付かない所を樹が指摘する…やはり、姉妹の仲だ…と奈都は関心する…。

しかし、次の瞬間、巴が摺り足で樹に近寄り張り詰めていた四肢に絡む糸をたるませ、体の自由を多少得た途端、樹に飛びかかる…衛子や風子は、その出来事に一瞬、出遅れたために槍の刃は確実に樹の体の心を捉え、巴はその長柄の得物を突き出す…樹が死ぬ…奈都は目を背け悲しみがこみ上げたのもつかの間だった。

金属のけたたましい音が周囲に響くようにつんざき、奈都は驚いて樹と巴のいる方向にむき直す…。

樹が、右手に隠した鉄扇で巴の槍をはじいたようだ、更にそれは織り込み済みと言わんばかりに半身で槍撃をかわし、巴の顎と首筋に鉄扇を一瞬で叩き込んだ、確実に普通の人間なら、一発KOなくらい一撃が二発も入る訳だからよしんば、巴が耐えたとしてもかなりのダメージなのだろうが…姉の実力は、すさまじいものだった…あれだけ打たれ強く先ほども風子と衛子の攻撃を何度も受けて立ち上がっていた巴が、樹が放った、たったの二撃を受けただけで…ビクビクと体中、痙攣を起こし失神している…奈都ですら、その振るった姿が一瞬のことで理解ができなかった…。

樹『私がこれを持ってるのを知っているのは、風子と衛子、そして、巴だけですから…今のを回避できなかったのは…全く別人ですね…。』

そう言いながら樹は鉄扇をハタハタと扇ぎ、糸の絡んだ巴だった何かを引きながらに未だに、余裕の表情をしつつ…奈都に歩み寄る…。

風子『姉様…彼女は良く耐えてくれました…から。』

衛子『ボロボロだけど彼女が居なかったら全滅してたかもしれない…。』

衛子と風子は、奈都を示し、樹にその事を話すと樹はうんと頷き奈都の頭を改めてなで…奈都は少し満悦そうな顔を見せると樹はおもむろに口を開いた。


樹『あとは…私たちに任せて…あなたは…休息とってください…良く頑張りましたね…。』

すれ違いざまに言われた、流奈とは違う優しさを奈都は感じ普段見せない笑顔を榊原四姉妹に見せそのまま大の字に寝転ぶ…そして、戦いに疲れていたようで安堵がこみ上げ緊張の糸が切れそのまま、笑みを浮かべたままぷっつりと意識が途切れた…。






狂気の戦姫2 END

狂気の戦姫3へ続く…

狂気の戦姫1 in 女神はほほ笑む

AD.20XX年…

普段と変わらぬ朝が始まる…。
ここは、ネオトーキョー、カスミガセキ、警視庁のビルの端っこに小さく佇むビル、何でも屋Sencoの事務所だ。

ユウキは、いつものようにテレビを見ながら歯を磨き、真ん中の事務所のドア前にあるひときわ大きな机では日本軍旧特務部隊、女神隊の隊長の榊原巴が普段と変わらず、書類に目を通しいつものようにTom'sのサインを書いていく…。

二人の間に無言の間と、ペンを走らせる音が開店前の店内に沈黙を作る…。
二人にとってのこの沈黙は心地よい物だった…。

ふと、テレビでは番組が変わりニュースを伝える…内容は不穏な内容に変わるとペンを止め彼女は、ボソッと口を開いた。

巴『ヤクザの抗争に入り込んで二つ共、壊滅させるのもいいか…。』

巴のその言葉にユウキは驚愕し足先からまとわりつくような凍りついた空気が一気に体を包んで行きゆっくりと目を合わせないように巴の顔を伺うと不気味な笑みを浮かべていた…。

ふとした瞬間…ユウキと巴は目が合い、ユウキの心拍数は一気に跳ね上がり激しくビートを奏でる音が耳でもよく聞こえる…。
ユウキ(ヤバい、ヤバいッ!巴は、本気だ…ッ!)

ユウキは、平静を保ちつついつもの流し台に口をゆすぎに歩く…。
巴『あぁ…ユウキ…口を濯いだら…手を貸してほー−−。』

『わりぃ!巴ッ!ガルヴァの艤装作業(船の武装作業)で手が欲しいからユウキを借りっぞ!』

巴の言葉を途中から割って入った語調の様子から察すると烈月のようだ…ユウキは流し台で口をゆすぎながら上がった心拍数が落ち着いて行くのがわかる、ひとまずは巴から放たれる何かとても危険な状況から脱したようで安堵した…。

流し台のコップ置きに歯ブラシと共にコップを置くと、エントランスに出ると大柄な烈月が地下ドック入り口前でおっかかってる姿があった。

烈月『ユウキ…手を貸せ!艤装が終わらねー!』

烈月が深刻な面持ちでユウキを呼ぶとユウキは巴にすれ違い様に謝罪をすると烈月の背中をおっていった。

事務所にかくされた地下ドックへ向かうと新造されたばかりの全長300メートルの大型戦艦ガルヴァが横たわっておりユウキは案内されるままにブリッジに入ると烈月は、まだ完成されてない新型操艦装置に腰を掛けて深いため息をついた…。

烈月『テメェは…まだまとも何だろ?』

その言葉に引っかかりを覚えていたところに烈月は再び深いため息をついて口をゆっくりと開いた。烈月『あいつが、おかしくなり始めたのはここ2ヶ月前くらいからでよ…。』

ユウキ『そうなのか…。』

烈月『見ただろ…あのイかれきった顔は…。』

烈月は、巴の表情がイかれてるとしめす…最もわかりやすい例をあげるとユウキはすぐに察する。
何十年と付き合って来て始め見せた体の芯から冷え切るような冷たい眼差しに何かに飢えるような狂気じみた顔…凜として壊さない表情とは全く違う顔…どことなく近いのは流奈の戦闘モードのような表情…量産型の巴二式が見せるような表情…ユウキはすぐにわかった…。

何かが綻びを見せていること…。

ユウキ『り…量産型のような狂気じみた顔…普段…しないな…。』

烈月『だろ…そして、あの言動だ…。』

烈月の言葉にユウキは、思い当たる節が確かにあった、RAは日本国民を守る要でありヤクザと言えど国民である…それを攻撃しようなどと語る考えは、RAとしては有り得ない言動だ、むしろ守るべきところなはずなのに…そう考えていくと巴は、壊れ始めて、いや壊れてしまったのだと考えが至った。

ユウキ『確かに…イかれているようだ…流奈姉のように…。』うっかり失言を混じって口から言葉が出るとそれを聞いていたのか操艦装置の段差の下から流奈が現れると頬を膨らませていた。

流奈『失礼ですわね…私のこれはプログラムであって敵を破壊するための狂気ですわ…巴さんの狂気とは質が違いますわ…!』

プンスカと怒る流奈は、少しふてくされるとユウキはすぐさま謝罪を口にすると烈月が二人を諭し後ろ頭をバリバリ掻いてからため息をついてからおもむろに口を開いた…。

烈月『まあ、昔のオレも、流奈姉ぇとおんなじように敵を破壊する…いや…違げぇな…動くものをぶっ壊すようなプログラムの狂気だ…近いが違げぇ…狂気だな…。』

ユウキ『じゃあ…巴のは?』

流奈『私やハジメちゃん(烈月)とは違う狂気…敵を探して殺すような狂気…そんなところでしょうね。』

烈月『あぁ、つまりはだ…戦いと血に飢えたバーサーカー…戦闘狂に成り下がったっつう…質の狂気だな…。』

自分達とは、違う性質の狂気…あえて言えば最初から与えられたハンデとは違う後天的な性質の狂気だとしばらく前から流奈と烈月は分析していた様でサクサクとすんなりユウキの頭に入ってくる…ましてや狂気を持つ流奈と狂気を持っていた烈月の二人が語るのだからなおさら説得力もあり合点がつく…。

だがユウキは、違う疑問が浮かんできた…それは、治せるものなのか否か…二人に訪ねると沈痛な面持ちで二人は口をつぐんだことにユウキは直ぐに察しがついた…。

ユウキ『答えは…【分からない】と言うことだな…どうすりゃいいかもそうだし…。』

烈月『すまねぇ…』

流奈『ごめんなさい…』
二人が同時に、謝罪の言葉を口にするとユウキは、ため息をついて床にドカッと座り込む…。
ユウキ『打つ手は…無いのか…どうすれば…。』

途方にくれようとしていた時だった…。
奥でカチャカチャと音がしており…何かとユウキが覗き込むと蘭がせっせと電源ケーブルや訳の分からないケーブル、通気パイプをいじっている姿が目についたところで蘭がユウキ達の言葉を聞いていたのか…手作業をしながら口を開く。

蘭『それってさユウキ達が途方に暮れてても、自然と時間が経てば治るんじゃない?』

烈月『おいおい…蘭公、時間が経てばってよ…経つ毎に悪化してっから…悩んでんだろうが…お気楽っつう良い感じの状況でもねぇんだよ。』

ユウキ『確かに…今にも外に出て民間人を殺戮しに行きそうな勢いなんだ…。』

そうユウキが口にすると蘭は、ユウキの予想をはるか斜め上を行く素晴らしい位の変な顔を見せる…。

咳払いを一つして笑いをこらええた後、ユウキは改めて情報を頭で整理をする…。

ガルヴァ級の中にはまだまともなヤツが烈月、流奈、蘭…外には如月がいる…おそらくだが、この艦内にはその相棒、那月がいる…結果としては流奈姉がまともだったところに救いがある…そうとしたら、この状況で狂い始めているのは、巴がそうだが奈都に至っては姿が見えないのでもっと怖い状況だ…。

状況は複雑なようでシンプルなのかもしれないが…事態は悪い…解消までは時間が必要かもしれないとまで考えていた。

『艦長、奈都が来ました…。』

如月の無線連絡が無線機を通してざらざらと響くと艦橋に居た全員がピンと空気を張り詰めて眼差しが変わり、作業をしているように取り繕った…。

烈月『ユウキ…この配線とパイプを如月のところに持って行け…。』

ユウキ『了解した…持ってく。』

ユウキは、用意された段ボールを持ち上げて歩き出す…。

『奈都が近づいてくる…。』

如月の無線が再び入るとそれを聞いたユウキは、早歩きで艦橋を降りて甲板に向かう…。

しばらくして甲板に出ると如月と奈都が大きな声で話してるのが聞こえてくるので、ここは平静を取り繕いながら如月に向かって歩いて行った。

ユウキ『如月、例の配線とパイプを持ってきたぞ〜。』

如月の近くで段ボールを置くと軽く如月は、礼をしてその中身を奈都に見えないようにゴソゴソと取り出して行く…。
黒い配線…鈍色の太いパイプや細い青色のパイプを取り出して行くと段ボールの底に、撃鉄が上がったままで安全装置がかかり、それを外せばいつでも撃てる状態の45口径の半自動拳銃が姿を現すと如月は何も言わずに腹のズボンに銃身を突っ込んで作業に戻る…。
そんな事に気が付かないようで奈都が大きな声を出す。

奈都『私に、何か手伝える事、有る?』

いつもとは違う雰囲気を出す奈都にユウキは違和感を覚えると背筋の毛が逆立つ…。
間違いなく、奈都も狂っている様な雰囲気だ…遠見だが…普段のやる気の無いような無気力のような眼差しでは無いし口数が多いようにも見えたのでユウキは、やんわり断ろうとした。

如月『奈都さん、お気持ちは感謝します、でも今は蘭さんも居てソフトウェア関連も調整してますから大丈夫ですし…お手伝いはしなくて結構ですよ!』

ユウキより先に断りの言葉が如月の口からでる…堅物な性格のが良く分かる回答により奈都を納得させ、その奈都は、少し残念そうに踵を返してドックを後にする。

姿が見えなくなったのを如月は見るとため息をついて手を止めた。

如月『奈都さんも、そのようですね…。』

ユウキ『やっぱりか…。』

ユウキが感じていた違和感は、奈都と短い付き合いをしていた如月もすぐにわかったようでとっさの言葉だった…。
間違いなく、あのまま奈都をガルヴァの艦内に入れていたらと考えると身の毛もよだつ事が起こり得たのはすぐに察しがついた、艦内にいる全員が狂い始めると言う奇怪にみまわれるだろうと…。

それからは、まともな精神をまだ持った人間は寝食がガルヴァの中に限定されてくる…朝、起きて作業、昼飯を口に軽く流し込んでから作業、そして作業作業作業、本来、軍艦の艤装作業やソフトウェアの調整作業は、軍港内で行われるのだが、烈月は自分の癖を見知らなぬ人間にいじられるのを嫌って80%、完成をしたこのデカブツをここまで乗って帰って来て艤装作業やソフトウェアの調整作業を全て手作業でやってきた…。もちろんガルヴァ級専用の砲塔やそれに準ずる部品は全てトーキョー湾の軍港設備からの輸送で賄っても全て自分で組み立ててすぐに自分の使い勝手が言いように調整をした…。
数ヶ月前から行っていて、ちょこちょこと主砲などを組み立てて居た…。
そんな半ばで巴の異変に気が付き機転を利かせてガルヴァ級戦艦の手伝いをしてもらう変わりにセーフハウスとして提供していた…。
ある日、烈月が流奈と話してるところに艦橋でユウキは出くわすとそろりと艦橋に入り近くの席に着いて話しに聞き入った
烈月『とにかくやべー状況なのは変わりねぇ…。』

流奈『確かに巴さんと奈都の状態は悪化の一途をたどってますわね…。』

やはり話しの内容は、奈都と巴の状態の事で何か対策をこうじようとしている合間に烈月が大きな斬馬刀をショリショリと研いでる音がする。

烈月『こいつを仲間の血で濡らすのは、マジで気が引くんだかな…。』

流奈『なら…この事態を誰かに伝えて見てはいかがかしら?』

流奈のこの一言で、烈月は一瞬沈黙すると斬馬刀を置き手を叩くとなるほどと一言つぶやき、ポケットをまさぐった。

烈月『おい、ユウキ、てめぇに使いを頼む!』

どうやら烈月は、そろりと入って来たユウキに気が付いて居たようで振り向きもせずにユウキの方向に手を伸ばす…。

ユウキ『あぁ?お使いかよ…。』
ぶつくさ言いながらユウキは、烈月の手の下に受け手を作ると…烈月は手を広げその中からチャリチャリと何の変哲もない銅貨を10枚ばかり…良く見るとただの10円玉である…。

ユウキ『烈月、こんなに10円が有ったってこのご時世、コーヒーも飲めないんだが…。』

烈月『ちげーよ…電話だ、電話!八菱重工に…。』

烈月が10円を渡した理由がなんとなくわかってきた…。
事務所の中からでは奈都に傍受されるし…なおかつ、軍支給の特別製OU社の軍用携帯電話さえ回線が奈都の手中にある可能性を考えると答えがなんとなくわかってくる…。
アナログなやり方だが…なおかつ外へ出られる。
ユウキは、一言わかったと言うと烈月からもらった10円玉をズボンのポケットにしまい込むと烈月が言葉を付け加える。

烈月『今は居るかどうだか…八菱重工第三開発部の【吉野律子】にとりつなげよ…あんたの娘がぅんヶ月前にグレて暴動を起こしそうだってよ…。』

そういうと、烈月は笑って手を振った…。

ユウキは、軽く答えてドックをあとにする…。
地上に上がると、巴の姿は無く今の内にとそそくさと事務所を出て一度、上を見上げると桜田門の有名なビル、警視庁の姿が雄々しい姿をさらした…。

しばらく見ていたが、ため息を付き、霞ヶ関駅を目指す…。
何のこともない距離…ぶらぶらと歩いて行く…。
駅に着くと、すぐさま公衆電話を探す…がしかし、携帯電話が普及したこのご時世に駅には公衆電話が極端に少なく探すのに一苦労する…。
ようやく緑色の箱が見えユウキはスタスタと近づいて…その箱の天板に10円玉を積み上げると受話器を手に取り上げ、硬貨を一枚投入口に滑らせると自分の手帳を開き、八菱重工の電話番号をポチリポチリと押していく…。
今のご時世に、プラスチックのボタンでは無く銀色の金属製のボタンであるこの公衆電話は、長年の長で駅を見てきた猛者であるのを外装が物語っていた。
その受話器がコール音を発てるとユウキは、電話を背に周りを見渡せるように警戒を始めるた…。

ぷつりと電話を上げる音と共に受付嬢の声が聞こえるとユウキは営業マンのような言葉がポロポロとでる…。

ユウキ『いつも、お世話になっております…何でも屋Sencoの神谷ユウキと申しますぅ〜。』
受付嬢が似たような挨拶を返し終えたところですかさず本題を切り出した。

ユウキ『あの〜第三開発部の吉野律子開発主任に大至急、取り次ぎをお願いしたいのですが…。』

受付嬢は、少し声色を低くすると保留にする…ユウキはこの時間が長く感じられた…時間が無いので、硬貨をもう一枚滑らせ残り時間を増やすも、嫌に心拍数が上がる…見られている様な気配だ…。

ようやく、保留が終わった瞬間にかん高い声がユウキの耳をつんざく…!

『いやいやいやいや!ユ〜キ君!お久しぶり!娘がいつもお世話になってるねぇ〜、んで、いきなりどうしたのさ!』

電話口の相手は、吉野律子主任だ…。
彼女の勢いに圧倒されそうになったユウキは、一度咳払いをして冷静になり本題を切り出した…。

ユウキ『律子主任…あんたの娘がぅんヶ月前からグレて暴動を起こしそうなわけで…』

律子『グレた?どういう事?』

ユウキ『あ〜かいつまんで話す、時間が無い…。』

一旦、言葉を切ると三度、硬貨を投入口に滑らせてからユウキは改めて口を開き…今の巴の状態や事の危険性をかいつまんで話しをする律子『な・る・ほ・ど〜うちの巴が…ねぇ…わかった…そっちに行ってバックアップデータで強制修復をするわ…。』

律子は驚くほどに軽い感じで話しをするがユウキは一度面識があり今の彼女の表情がなんとなく想像がついた。
巴に関しては、無理やりな形でプログラムをバックアップしたデータで改ざんして、元の巴に戻すらしい、記憶も最後にバックアップをしたのは4ヶ月前らしいから今の記憶は、夢オチで話しをつけ万事解決となる寸法だ…。

ユウキは、少し胸をなで下ろしゆっくり事務所に帰る…。
事務所のドアを、開け入ると…それはそこに鎮座していた…。
異様な空気が取り巻いておりユウキは、一気に背筋が凍りついた…。

巴『ユウキ…お帰りなさい…どこに行っていたのかしら…。』

ユウキ『あ…あ〜いやあ…レイジのラーメンが食いたくてな…。』

その場しのぎの言葉で取り繕う…巴は、不気味な笑みを浮かべユウキをジッと伺う…ユウキも、この嘘がバレないようにジッと見返すと…巴が口を開いた…。

巴『ユウキ、食後の運動をしましょうか…。』

明らかに危険な空気が張り詰めておりユウキは逃げたくて仕方なかったが数日前に巴の何かを断ったためにそれが断りきれなかった…。

ユウキは、巴に連れられて道場に入るとすぐさまだった…巴の様子を伺った瞬間、振り向きざまに槍の一突きが急所をめがけて鋭く突き出されユウキは、ギリギリ間一髪のところで身をかがませて逃れてからすぐさまに刀を抜刀し距離を取ると臨戦態勢をとる…。

二人の間に殺気が渦巻く…。
本来の、組み手や、訓練とは違い木刀や、訓練用の槍ではなく真剣での殺し合いの体をなして居た…。

巴の顔をみるが目の奥はどす黒い何かをまとい、いつもは真剣な表情をする彼女だが…それも崩れ、不気味な笑みを浮かべる…。

ユウキ『やべぇ…。』

ユウキはぼそっとつぶやくのもお構いなしに、巴は襲いかかってくる…。
長年、付き合って来た仲なので初手が槍を支柱にして蹴り込んでくる一撃目なのも理解している…。
巴は、ユウキとの間合いを詰めていきなり、槍を袈裟に切り上げるとユウキは初手の思惑がはずれ、一瞬、出遅れつつも後ろに飛び退いたが、着地をした途端、バランスを崩して盛大にすっころび天井を見て一瞬の出来事をまとめ首を起こして周りを見たところ、巴が振りかぶって一気に槍を振り下ろす…。
確実に体の芯を捉えそのまま、振り下ろされた槍の十字刃が深々と心の臓に突き刺され人生は終了…真っ暗闇…百数年生きた永くて短い25歳だったと振り返るとユウキはこれまでの思い出が頭をよぎった…。

走馬灯のように17歳からの出来事が巡る…ランに拾われ、流奈に戦いの恐怖を教えられ、奈都に電子戦のいろはを教えられ、巴に戦場での生き方を鍛え上げられて…烈月と出会い烈月の優しさに触れ…そして、師として愛した巴に今、自分の人生を理不尽に終わらされる事…ユウキはそれらが頭をよぎり涙ぐんで目頭が熱くなる…。

ジッと見る巴の槍が次第に自分に迫って来るとそれがゆっくりに見え…目と鼻の先に切っ先がかすめた瞬間だった…!

『ドッカーンッ!』

効果音を自分の口で表現をして…黒い影が割り込んで入り巴の振り下ろした槍を蹴り飛ばした…。

『ふい〜…間一髪ッ!』
影は、戦闘態勢を取りユウキの前に立つと右手に持った獲物をくるりと回し電流の音がほとばしる…助けに入ったその姿はランだった。

ラン『ユウキがあまりにも遅かったからもしかしてって思ってきたら案の定だったよ…。』ユウキ『すまないラン!助かった、恩に着る…。』

ランは軽く返事を返すと巴に向かって一気に踏み込み鋭い左のアッパーカットが空を切り、かわすためにのけぞった巴を逃がすまいと見逃さず右の回し蹴りをわき腹に浴びせるが、すんでのところで防がれてそのまま、ランは足を掴まれ投げ飛ばされ壁に叩きつけられ無気力なようにダラリと腕を下げ首を落としていた…。

ランの懸命なその時間稼ぎに答えるかのようにユウキは立ち上がり袈裟に振り下ろす、刀が異音を発てて空を切る…。
もちろん、それを見逃す巴ではない、半身で斬撃をかわして槍の柄でユウキの顔を横に殴りつけ後ろへ少し飛び退くと態勢を立て直す…。

ユウキ『埒があかねぇ…!』

戦闘能力は機械対元人間で歴然としている…加えて…戦闘経験の場数が全然違う…それでもユウキは、あきらめなかった…。

ユウキは、自分の刀を見て…取り付けられた引き金を引く…。
【カキンッ!】

かん高い割れたような音が放たれると刀身は瞬く間に焔を纏いユウキは、その状態で烈月から教えられた神武刃流の剣技を用いて一気に袈裟から切り上げるように振り抜いた、その剣圧が火の道を作りだし巴に襲いかかる…加えて逆袈裟から切り上げ、もう一重、火の道を作り出しそれが巴に切りかかる…。

神武刃流、基の形、篝火二重である…本来は、振り抜いた衝撃と剣圧で相手を斬撃するSFチックな技だが烈月より以前に生み出された熟練の剣技を二振りお見舞いしてやるが巴は、それに動じず槍を左右に薙ぎり一気に詰め寄り横一線に薙り、ユウキの胴体を刃が捉え今度こそ半身が上下で分断される…。
もはや二度目の救いは、無いと観念し南無三とぼそっとユウキが念仏を唱える瞬間だったが巴の後ろから飛びかかってきた小さな影があった。

『ドーンッ!』

壁に打ちつけたようで頭から血を流したランが、スタントンファーで打撃と共に、強烈な電流を巴に浴びせ、雷が落ちたようなけたたましい音が訓練場に響き横にはね飛ばされた巴は、右肩がダラリとし…腕が電流の影響で激しく震え痙攣を起こしていた…。
ラン『ギリ…ギリ…間に、合った!』
ランは、意識を取り戻して巴の背後から飛びかかって強烈な一撃をお見舞いしたのだ…痙攣を起こして震えた足で立ち上がり走り寄っていた、ボロボロな状態でもまだ走れるようだ…。
ユウキ『また、助かった、ラン!』

ユウキは、少し安堵したが、自分の背後に不穏な気配を感じる…今まで居なかったのかあるいはきがつかなったのか…

ゆっくりとその背後に目を向ける…おもむろにこちらに歩いてくる奈都がいた…。
奈都『対象…攻撃…開始…。』

明らかな敵意がユウキに向けられておりそれは真っ直ぐユウキに迫ってくる…。

奈都は、狼のように的を絞られないようなジグザグした動きでユウキに詰め寄ると体を二転三転し、異色な得物で切り込む。
回転からの遠心力を応用した切りかかり方は、奈都の鋭いガンブレードの切れ味を一層高める…。
ユウキ(受け太刀をしたらッ…マズい!)

奈都のガンブレードの切れ味を良く知っている…回転からの斬撃は、太い鉄骨すら寸断するほどだ…細身の刀で防御をしたところでケーキを切るように造作もなく断ち切られそのまま自分の体もパンのように切り落とされるのが目に見えてわかっているのでユウキは、慎重に、タイミングを合わせて後ろへ飛び退くと丁度、退いた瞬間に、奈都は、得物を発破させ刀身に強烈な振動と衝撃波を生み出していた…
間違いなく、今の太刀筋を防ごうとすれば…首か胴体を落とされていた…。
恐怖感を煽られる奈都の一撃は全てが死につながる、回避、回避と距離を離すがユウキが途端に背負った柔らかくごわついた衣服に気が付くとすぐさま振り向く…。
巴がそこに立っていた…表現はいかれきっているために不気味な笑みが口からこぼれる…ユウキはそれでも物怖じせずに問いただす…。

ユウキ『なぜ国を、国民を守る者が、自らの国民を傷つけるッ!』

巴『国民を守る?国を守る?それはプログラムであってあたしの意思じゃない…守ったところで見返りの無い奴らを殺してどうなる?見返りの無い国を守ったところでどうなる?』

ユウキ『大切な人を殺してでもか…?』

巴『大切なものでも壊すのよ…見返りもないこのくだらない、腐った国ごと、ね。』

完全にイかれている巴に改心する余地はなかった…今まで救ってきた人を抹殺する気だ…ユウキはため息を付くとすぐさまだった…。

銃声が三発、いや四発も放たれて体にどしっと衝撃が走り一気に体が重たくなり視界が宙を舞い天井だらけになる…。
腕が上がらない…呼吸がしにくい…視界がモノクロになる…鼓動が大きくなる…次第に暗くなる…。
ランの声が遠のく…。

間違いない…巴が腰に収めた古臭い骨董品のドイツ製拳銃で発砲したのが良くわかった…そのことを理解した瞬間にユウキはぷつりと意識が切れた…。
その瞬間を目の当たりにした奈都が豹変し…雄叫びを上げ巴に攻撃しだす…。

奈都『ともえぇぇっ!同じ様な考えだと思っていたのにっ!貴様ぁあっ!』

どうやら考え方が同じ…あるいは近い考え方だったようだが奈都はユウキを撃った巴の行動を目の当たりにし巴は、自分とは異質な考え方だったと気が付きもとの奈都に戻る…。
ユウキを重体に追いやった巴に憎悪が吹き出した…。

先ほどまでの冷静な奈都ではないようでかなり変則的な動きを見せ巴に走り寄ると急ブレーキを足にかけ、惰性で前進しガンブレードを切り上げ様に引き金を引き発破、爆振を起こし、けたたましい爆発音が響き渡るが巴も得物の槍を爆振させ勢いを相殺させる無論、発破させる炸薬の弾数では巴のガンズスピアー6発に対して奈都が25発と多いが的確な巴の体さばきによりそれらが無駄弾と化す…。

撃ちきったガンブレードは、スライドが後退したまま止まって、排夾口がぽっかりと開いた状態になり、それを奈都は、チラッと見た際に隙が生まれたのか、狂気と化した巴が一瞬の内に間合いを詰め袈裟に振り下ろされた槍を奈都は、鼻先ギリギリで切っ先を後ろに飛び退いてかわし、短くガンブレードを横に薙るとその動きにつられて銃器の底部から、自重で弾倉が勢い良く、間を詰め寄る巴の顔面にめがけて一直線に飛び出るが彼女は、全く動じずにすんでのところで首を傾げて飛んでくる弾倉をたやすく避けるまでは、奈都の想定通りだったようで手早く新しい弾倉をガンブレードにセットするも巴の詰め寄るスピードが早くタイミングを計りかねてズレたため、仕方なく引き金を引かずに爆振も無い状態で巴の右横から体をひねり、回転をかけて巴の体を寸断…とはいかず、すかさず反応した巴は槍の柄で受け止めていた…。

巴『奈都ぅ…こんなものなの?ぬるいわねぇ…。』

奈都『そう?あなただって大概そう、今のを受け止めたのだから…私が引き金を引いていたらあなたをちゃんと斬り殺していた…。』

奈都は鍔迫り合いの中で巴の言葉に煽られるがそれよりも前の出来事…巴がユウキを撃った事に憤っている彼女は、すでにその言葉さえも頭には入って来なかった…

一方、二人が鍔迫り合いで押しあっている姿を見てボロボロのランは、ユウキの傷口を止血のため抑えながら二人の闘いの行く末を見守るしかできなかった…。


狂気の戦姫1
END
狂気の戦姫2へ続く…

狂気の戦姫 予告 ver 女神はほほ笑む

AD.20XX年…

普段と変わらぬ朝が始まる…。
ここは、ネオトーキョー、カスミガセキ、警視庁のビルの端っこに小さく佇むビル、何でも屋Sencoの事務所だ。

ユウキは、いつものようにテレビを見ながら歯を磨き、真ん中の事務所のドア前にあるひときわ大きな机では日本軍旧特務部隊、女神隊の隊長の榊原巴が普段と変わらず、書類に目を通しいつものようにTom'sのサインを書いていく…。

二人の間に無言の間と、ペンを走らせる音が開店前の店内に沈黙を作る…。
二人にとってのこの沈黙は心地よい物だった…。

ふと、テレビでは番組が変わりニュースを伝える…内容は不穏な内容に変わるとペンを止め彼女はボソッと一言言うとその店内の空気は、急激に冷たく凍りついた…。


予告編end
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Lunatic Marder in 女神はほほ笑む

 

AD:20xx年某月…

長女、流奈が突然、姿を消した…。

ユウキ達は、流奈の部屋を調べ上げても消える兆候やそれに起因するファクターは、部屋には一切見あたらず、彼女の性格を物語る様相の綺麗な部屋でしかなかった。巴『事情は、どうあれ流奈姉は何か急いでいた様子だし…それでも帰って来るはずよ…。』

奈都『それでも…私の姉なの…私の大切な姉さんなのッ!!【帰って来るはず】なんて希望的観測で言わないで!!』

奈都は、不安を口に出し実の姉の所在を酷く心配すると巴は、ため息をついてさらにヒントを出す
巴『社用のレヴェントンで出てったわ…そこまではわかってる…問題はどこに行ったか…だけど…。』

奈都『だけど…なんです…?』

巴は言いかけて言葉を切ると奈都は、問いつめるように泣き顔を巴に見せると、巴は奈都の頬を少しさすって冷たい顔を見せた…。
巴『追跡するまでは黙っている…でもミッションメンバーとしては連れていけない…あんたは、クライアントとしてミッションの発注だけを行って…必要な人員はこちらで…。』

言いかけて奈都が泣き顔がキョトンとすると巴は奈都の肩を叩いてなだめると言葉を続けて語った。
巴『今の状態で奈都、あんたさんが流奈姉の所に行ったら事態がややこしくなる…クライアント規定でモニターだけしていれば良い。』

巴は冷静に奈都に語りかけて諭すとおとなしくなる…。
クライアント規定とは、クライアントは直接ミッションへの介入はせず状況のモニター、支援するならば、間接的な支援のみを許されている立ち位置で奈都自身が今、精神的に不安定になっている状況では奈都を参加させるのは危険と判断しあえて参加を控えさせた…。

巴は、しばらくして流奈捜索隊として目の前にいたユウキと鼻が利く烈月に捜索をお願いした。

奈都は、流奈が行った先を追跡した資料にユウキと烈月は目を通すと多摩市方面の孤児院、月の家付近で信号は止まっていた…。

ユウキは、その資料を見てため息をつくと少し渋い顔をして奈都の頭をなでる。

ユウキ『多摩月の家…か…ただの出向なら…良いな…。』

少しボヤいたあとに奈都の肩を軽く叩いた烈月が自信にあふれた目で奈都を見ると少し笑う

烈月『奈都公…てめぇは、何も無ぇことを祈って待ってな…流奈の野郎にゃぁ、出かけるなら不安にさせんなってキツく灸を据えてやる…。』

その資料を受け取った烈月は、車庫で自分のバイクにエンジンをかけ大きな声でユウキを呼ぶと慌ててユウキは烈月のもとへ走って行った。
それを見届ける奈都はどこか不安気な顔を未だにしていたのをよそに、ユウキと烈月は多摩市方面へ走らせて行った。

ユウキと烈月が多摩の月の家に着くと日は暮れていたがSencoと赤字で書かれたロゴマークのついたランボルギーニレヴェントンが止まっていたのを見るとバイクに乗ったまま静かに近づいて烈月は中を覗く
烈月『ダッシュボードが開いてらぁ…なんか取ったんだろ…まぁ良い…院内に入るぞ。』

レヴェントンの近くにバイクを止めて二人は門扉を開けて外庭に足を踏み入れると烈月が突然、口に人差し指を当ててしーっと息を吐き沈黙の合図をすると手近の木々に身を隠しユウキを引っ張り込んだ…。

ユウキ『いきなり…どうした?』

烈月『外庭はそうでもねぇが…ユウキ、わからねえのか…血の匂いだ…それも、1や2じゃねぇ…大勢だ…。』

鼻が利いた烈月は、微かな血の匂いを感じ突然の事態を回避せんと樹木に身を隠す…。
しばらく、様子を見ると人の気配は院内からは伺えなかったが入り口に流奈が立っているのが見えた。

ユウキ『…るなね…っ!!』
ユウキが、声を出して立ち上がろうとした瞬間、烈月が口をふさぎ物陰へユウキを隠すと流奈らしき人影は、こちらに頭を向けて様子をうかがってい 。
不気味にも、暮れた空の闇…流奈の目が赤くかすかに光を帯びていた…。

烈月『違う…あいつじゃねぇ…流奈姉は…目が青く光るんだ…あんな赤じゃねぇ。』

ユウキ『じゃぁ…あれは…量産型か…。』

烈月『だろう…ヤツぁ、こっちに気付いてる…。』

ユウキが声を出した事で量産型ルナは、はっきり気付いてゆっくりと一歩、一歩こちらへ近づいてくる…。
量産型ルナの残虐性は驚異なもので烈月が勝てるかどうかの存在だ…ましてや元人間であるユウキなら30秒も保たないだろう…。
まさか、ユウキが声を出すとは思っていなかったのは烈月にとっても誤算であり戦う羽目になるとは思いもよらなかった。

量産型ルナとの距離は、そんなに離れては居ないがまだ二人の姿は見えない…そこで烈月は、意を決して草木から飛び出して切りかかるとルナは、真顔だった表情が一気にニタリと笑い顔に変化し左腕で烈月の重量級の斬馬刀を防ぐそして、ほんのり赤く光っていた瞳は強く光る…。
烈月が斬馬刀を軽々と振り回して斬撃を与えるがルナは、いとも簡単に弾いてゆく…気が付くと烈月のケプラー繊維で織り込んだコートの所々が鋭利な刃物ですっぱり切られて素肌が見える…。
ルナの戦闘力は圧倒的…烈月の高い戦闘力の上を行っていた。
時間を稼ぐ形で少し距離を離して呼吸をゆっくりすると烈月は鼻をついて離れない血の匂いを問いただした。

烈月『てめぇが…やったんだろ?』

ルナ『ソウダ、ワレガ全部破壊シタ…子供モ大人モ…良イモノダ…人間ノ壊レル時トハ…。』

ケタケタと笑い声をあげニヤニヤとしている量産型ルナの表情に虫唾がはしり、烈月は腹のそこから憤怒の念が込み上げてくる…。

怒りに任せて斬馬刀を振り下ろすと轟音にあわせもうもうと土煙が上がりその煙の中からレイピアの鋭い刺突が顔面を捉え烈月は、瞬時に反応して体を落とし上体をそらして紙一重で避けるとその状態からサマーソルトを繰り出して体勢を整えひとつ大きく息を吐く、煙りの中を睨むと今度は、ルナが飛びかかって来た所を烈月は、斬馬刀を大きく横に薙払いけたたましい金属音と火花を散らしてルナが後ろにはじけた。

烈月『煙の中でオレの姿が見えるのはてめぇだけじゃない、オレだっててめぇが見えてんだ!』

にっと笑う烈月は、回避した時に眼帯を引っ掛けられて切れ、眼帯の下の目が姿を現れ、ルナは一層喜び、間合いを詰めようとしたが烈月はその間合いを離すと口を開き斬馬刀を肩に背負った。

烈月『てめぇとマジで遊ぶにゃこっちの方が良いだろ…。』

眼帯の下に隠れて居た目を見開き余裕を見せるとぼんやりと烈月の右目が赤紫に光り爬虫類のように瞳は細く鋭くなり、烈月が今まで纏っていたじりじりとするような殺意の気配は冷たく、ピリピリとした感覚に急変。
ルナは、その気の変化を肌で感じとると笑う顔が次第に真顔に戻り…戦闘差を感じた。

ルナ『ワカラナイ…戦力差ハ優位ナハズ…。』

烈月『分からないって、だろうなぁ…てめぇが死ぬまで理解できねーよ!』

焦りを感じる…ルナには纏えない気の混合である…その気に惑わされてルナは攻勢をかけると、烈月は冷静に一撃、一撃を丁寧にかわしてそこに、また丁寧な一撃を加える…。
烈月は、仮にもロボットのAIだが…純粋な武道を会得しており自らの気をコントロールできる…量産品のルナにはできない芸当である…。
ダメージは有るが手の内や間合いを確かめ…そして今、ルナと決着を着けようとした…。
烈月『真武刃流の真髄を見せてやるよ…ポンコツ女郎が…。』

ルナ『データベースニハ無イ…ブドーノ一種か?』

烈月『ったりめぇだ…古き良き武士に伝わる近接格闘…剣術…それらを統合した戦闘術だ!』

ルナ『真髄…見セテモラオウカっ』

二人は距離を離してしばらく様子を見ていたが交戦の火蓋を改めて切ったのは、烈月だ…丁寧かつ洗練された面打ちと共に左右への袈裟切りの細かなコンビネーションを繰り返し、繰り返し打ち出し、左右へ避ける素振りを見せだすルナに対しては、痛烈な蹴りを出し逃がさない、まるで振るう剣が神主の振るう梵天のような振り方から、拝み打ちと言われ純粋な剣術の一種を洗練された姿で烈月は体現するがルナも馬鹿ではない…左右がダメならと距離を一気に詰めるが烈月は、その動きに合わせ後方へ飛び退くと斬馬刀の重量に任せて横へ一回転する大薙をするとまた、はじけたルナに距離を詰めてそのまま…空いた左拳を思いっきり突き出しルナの腹にうずめた…。
ミチミチっと内部への手応えを感じると、とどめとばかりに烈月は、斬馬刀を再び横一閃に薙払おうとしたがルナの一撃で斬馬刀を弾かれてしまった。
息を吹き返したのだ、仕返しとばかり烈月を押し返す…。
見えない線につながれたエッジは、まるで生き物のように烈月を囲い込んで切り裂いて再びルナの周りに戻ると腕に収まる…

今度は、そのエッジを手先に集めて剣を作ると膝をつき血だらけになった烈月の首を掻かんと髪をムズッとつかんで腕を喉に押し当てると烈月は、やけに笑顔だった…。

烈月『へへへへっ…てめぇには戦略っていうのが抜けてらぁ…。』

笑い声をあげると首に押し当てられた腕を払い、蹴り飛ばし合図をすると低い銃声がルナの左肩を砕きおびただしい血が辺りを濡らし腕が地面にぼとりと落ちる…。

後ろからいきなりの射撃である。
ふっと振り返るとそこには、対戦車ライフルを構えた流奈がいた。
流奈『量産型…墜ちろ!』
量産型との戦いでボロボロになっていたところをユウキに助けられたようである…。
対戦車ライフルを取り出して確実に砕く姿は、どうやら完全にキレているようだ…。

ルナ『005プロトッ!!馬鹿ナ潰シタハズダ。』

流奈『馬鹿めが!あれしきで潰れるものか!』

流奈は、対戦車ライフルをルナに向けて連射する…まるで落雷の雷鳴の如く撃ちまくる。
マガジンがからになり対戦車ライフルを捨てると流奈は、デスサイズを取り出して八つ裂きにしようと距離を詰めるとルナはそれに合わせて部分損壊したエッジを流奈に向けて飛ばすが致命傷になりそうなエッジをはじき、多少の傷をものともせずに詰め寄り、ルナの胸を目掛けてデスサイズを振り下ろす!

まがまがしいしいほどの風きり音が唸りをあげる、流奈のデスサイズは空を切ったものの、着実に奴をとらえ右腕を切り捨てた…鎌とは言え流奈が一度、デスサイズを振るうと予想外の位置で切れる…ルナのエッジもそうだったように…しかしながら、オリジナルの流奈が段違いの殺意を向けてくるために量産型のルナはそれに圧倒されるような形になった。
両腕を吹き飛ばされたルナは再生の為に距離を取ろうとしながら、意地とばかりに体中のありったけのエッジを流奈に投げ飛ばすがまたもや、致命傷になるような部分だけをはじいて
距離つめられてからが一瞬だった、流奈が量産型の足を切り裂いて使い物なら無くしたのだ。
無残に残る胴を動かしそれでも生きながらえようと動くルナの姿を見て流奈は、足で背中を押さえつけて身動きを封じるとふと笑いがこみ上げてきた。

流奈『自分そっくりの奴を自分で殺せるのは…また一つ…一興…だが、貴様は所詮、ただの駄作だ…。』

薄気味悪い表情を浮かべながら、ルナの最期を与える…それも一瞬…ルナの首をいとも簡単にはねた…はねた首はしばらく…断末魔ならぬ声をあげながら、目を閉じたり開いたりしていたが…しばらくしてぴたりと止まると、ノイズが走って遺体は消えて行った…。
すべての出来事を終えたのを分かった烈月は、ため息をついて流奈をみたは眼帯を要求した…。

烈月『流奈姉…眼帯を出せよ…オレは、この前じゃ巴にどやされらぁ…。』

流奈『良くってよ…戻ったら返して下さる?…って私は道具箱ではありませんわ…!』

とは言いつつ先ほどまでの恐ろしい殺意は量産型ルナが消えると共に無くなりいつもの流奈に戻って居た。

流奈が突然現れたのは、烈月がルナと戦っている間にユウキが施設内で見つけた流奈を助け出していたのだ…。
ユウキが施設から出てくると流奈はユウキに礼を言う…。
そして、三人は少し眺めると施設をあとにした…。


今回起こした事件は精神の異常を来した量産型RAルナが月の家を襲撃、直接、流奈の手で即応処理したと報告をすると合わせて量産化計画の廃止嘆願書を軍本部へ投げつけてやった…。結果として量産化計画は廃止…今後は、残存するRAのみの稼働だけと決定した。

この事件の原因は軍の行き過ぎたトライアルプログラムの一環が要因だった…。
RAプロトタイプを破壊が可能な戦力か否かで量産化の決定する試験だ、更には予算を低くした影響から、量産型は手段も選ばず感情も無く、ただただ、目的のクリアを目指すためのロボットに成り下がった…そのため、AIとして、兵器としての性能は上がった反面、ヒトとしての品性…品格、自覚は失い…プロトタイプに遭遇する、できるならばどんな手も使う残虐性が際立ち、今回の事件を引き起こした…。

流奈は、自分も一歩考え方を間違えていたら…そんな風になっていたのだろかと切ない思いをめぐらせていた。

遺体は埋葬したあとで葬儀をしめやかに執り行うと流奈は途中で巴にボソッと話すとどこかへ歩いていった。
ユウキは、それを見て後を追うと直ぐに流奈に見つかった…。

流奈『心が…痛くって痛くって…私は耐えられないのです…。』

ユウキは、黙って流奈を見ていると彼女は言葉を続けて言う声が震えていた。

流奈『私は、沢山の人を殺して来て…それらは、敵だからで割り切ってきた…でも…子供達が目の前で殺されて横たわるのを見て他人とは言えどうしてか胸の奥で重たい痛みを覚えたのです…。』

しんみりした流奈はしおらしく空をぼんやりと見ていたのをユウキはため息を深く吐いて笑うと口を開いた…。

ユウキ『流奈姉がそう感じてるなら…まともな神経を持っているって証拠だ【慈悲】も【慈愛】も人として当然の神経を持っている…そうだろ?』

ユウキは、流奈の後ろ姿を見て何か励ましの言葉を言い続けようとしたが完全に見失うとはっきり意識すると振り向いていた、流奈がユウキの顔を伺い何か言いたげな顔を笑った…。

流奈『まぁ…結局、私は誰かの為に悲しむ事ができる…涙も流せる…ロボットよりも人間らしいですわね…むしろ人間臭いですわね…。』

笑った顔でごまかしていたが頬に涙が静かに伝い、流奈は、少し呼吸を置いてその涙を拭くと言葉を続けて話す
流奈『子供達の顔を見ると不思議と、私はこの子達を守りたい守り続けたい…と思って今まで支えになってきたのです…。』

子供たちの存在が彼女にとっての戦うための大きな意味であったことを吐露されユウキは、余りにも自分では大きすぎる意外性に返す言葉は完全に見失い二人の間には重いどんよりとした間がのしかかって放さない状態になった。
この空気を引き裂こうと必死になるユウキと流奈の間を偶然引き裂いた者がいた。

奈都『助けを必要としている子供たちは…ここだけじゃない、だから…また、創ればいい…月の家を…。』
奈都は、ユウキと、流奈のやり取りを静かに聴いていた、だから自分から自分の思った答えをこの重苦しい空気の中へ投げ込んでみたくなったのだ、そして二人は、突然、居もしなかった様な奈都がそのような事を言い出すものだから鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした、だがしばらくしてようやく理解したのか流奈は、少し落ち着いた表情を取り戻したようだ。
今まで、気がつかなかった、起きてしまった事はしっかり悲しみ前へ進む事、結局、前へ進んでいなかった、今ここではしめやかに行われた葬儀は、二度と起こさないそして、惨劇が再び起きないような対策を整えるのが必ず必要になると言うこと…。

それから…数ヶ月…。

悲劇のあった多摩月の家は新しくなり新しい子供たち、新しい施設、新しいスタッフを向かえ流奈はいつもの優しいママ先生を再び始める、奈都の言葉を元に日本各地にも月の家を展開、戦災孤児達を保護する家として再スタートをきったのだった…。
ただ…時々、赤い目をした流奈の姿が暗闇の中でうっすらと影のように多摩月の家を見ていることが細々とささやかれている。

Lnatic Marder END

unknown IN めがほほ番外編

A.D.20XX年秋
とある山中の施設にて一機のメカが掘り出された…。

機体は、ボロボロであちこちが激しく損傷し、8割りも原型を留めていないため…【ソレ】がなんだったのかがかろうじてわかるものだった…。

怪しげなガスマスクをつけた軍服達は、【ソレ】をAG搬送車に載せるとどこかへ走り去っていった…。

それから…数ヵ月…。
雪が珍しく降るニュートーキョーシティ…上空…。

キラリと反射で光る機体が高い空から、街を見下ろしており、その機体を見張るように周辺を警戒に当たった国防軍の戦闘機がぐるぐると回っていた…。

国防軍や空軍に情報が無い未知のメカが、目的も不明のまま上空に留まっていて次に何をするのかも分からない状況に不安になる。


しばらくしてだった…。
二機のRA、巴と烈月が近づくとソレは、クスクスと笑い出した。
?『やっぱり、武闘派の13と智才派の04が来ましたか…予想通り…。』

ふぅとソレは、静かに振り向いて腕を組みジッと二人を見据えて笑うと烈月が猛烈な殺気を放ちだした、それに気が付いた巴は、制止するように前に立つとやや威圧的な口振りで口を開いた…。

巴・『所属部隊と国籍…日本領空に留まっている目的、全て答えて。』

はっきりとした質問にソレは淡々と答えて笑う。

?『家族なんて居ない、帰る家なんて無い…目的なんて…そんなものも無い…。』

その答えに二人は唖然とする、理由すらなく、そこにいる、敵意すらなくただ、そこに居て地上を見ていただけ…しかも、一塊のメカが上空に居てである。
不自然過ぎるその答えに我慢がならず烈月が怒り混じりにソレを問い詰める。

烈・『テメェ、理由が無いってだけでそこに居るのはおかしいだろ!目的はなんだ、さっさと答えろ!』

威圧感と迫力を詰めた質問にも、ソレは淡々と答えて笑うと豹変したように鋭い一言を烈月に刺す…。

?『さっきも言ったじゃ無いですか…あなた、馬鹿ですか?馬鹿ですよね?』

烈月は、ピリピリしていたところその言葉を真に受けて頭に血が登ると腰に付けていた斬馬刀を分割したマチェット(鉈)で斬りつける。
烈月の、鋭い剣撃はしっかりとソレを捉えて、一筋一筋が破壊的であったが、ソレはまるで水のようにひらりひらりとよけて行く。
そして、烈月の放った一撃が、確実にソレの体を捉えて次の斬撃が入ろ
うとした瞬間…ソレは、左腕をかざした…。

腕一本、とった!烈月は、確信し力いっぱいにマチェットを握り威力を増すためにスラスターをふかしてソレの腕が切り落ちる様な手応えを感じた…。

バキィッンッッ!!

金属が砕けてへし折れ断ち切れるけたたましい轟音が空に響いた…。
すると…巴の横を、黒い何かが高速で飛んで行き…烈月は、驚いた…そして、ソレは不気味に勝利したかのように笑う。
重装AGですら難なく断ち切る、烈月の硬く鋭い斬馬刀の片割れがあっさりと砕け折れ、吹き飛んで行ったのだ。

烈月は、折れたマチェットを捨て後ろに下がると今度は、リニアライフルを取り出してソレへ向かって撃ち込んでいく。

低い発射音に合わせ弾丸がソレに当たって居る音がし爆煙が立ち込む、烈月がライフルの全弾を打ち切って鼻で笑うと立ち込む煙が流れ、その中に、ソレは平然と立っていた。

烈・『刃も、弾も通らねー…新型の装甲かよ…。』

烈月は、自分の怒りも冷めるほどに、今の女神隊の技術を凌駕する圧倒的なソレの存在に…烈月は、戸惑うと構えた銃をゆっくり下ろした…。
烈月の機体の兵器とは世代が違うようで彼女の装甲を撃ち貫く事ができなかった…のもある。

?『13…それで良いです…何もしなくて…わたしは、ただここに、居るだけなのですから。』

落ち着いたようにソレは、また静かに烈月に言うと振り向いて背中で話をする…。

?『攻撃される理由はない…だから攻撃する理由はない…わたしは、ちんけなあの街を火の海にするつもりは無い…おとなしく、周りの飛行機とおバカさんを連れて04も帰ってください…。』

静かに話すソレは、何事もなかったように落ち着いていた…。
巴は、周辺に飛ぶ戦闘機に帰還の指示を出すとうなだれる烈月の肩をひっぱりソレのもとを後にした…。

また、静かな空が訪れると、周りは、ゴーッと風の流れる音が通り、ソレは静かにその音に聞き入るとふぅと髪型スタビライザーがなびく、ソレは少し満悦そうだった。
だが…しばらくして風の音が変わった…何かが飛んでくる…。
位置が分からないが確実にこちらに飛来する物が有るソレは、わずかな風の音で感じ取った…。

?『飛行物…大きくない…レーダー展開…周囲をモニター…。』
レーダー網を広く張りソレは、詳しくの方向、速度を見る。

レーダー網から返る小さな反応から飛来する物体の姿を経験則で捉える…。ミサイルだ…それも単なるミサイルでは無いかなり高速で飛ぶ巡航型のミサイルである。
ソレは、更にミサイルの位置を把握すると自機より上空15000mの位置にミサイルがあり、まっ直ぐに首都圏に落下、着弾するコースをたどっているのも分かった…。

位置も高さもわかった所でソレは、ミサイルの元へ飛んでいく…。
ミサイルの姿が見えてくるとソレは、絶句した…。

?『核弾頭…!!』

核ミサイルが真っ直ぐ飛んでいる…ここで落とさなければトーキョーの街が消えて無くなる…そう思ったソレは、ミサイルの羽に二、三、弾をあて軌道を変えその上空でライフルの斉射をかけて撃墜する…。

爆発は、小型ながらに凄まじく首都機能ならば一瞬で焼くことができる破壊力であった…。
しかし、安堵もつかの間…次々にミサイルの反応が現れる…。
ソレが一つのミサイルを撃墜する直前だった。

ミサイルは分散し子機を射出、目標を増やすことになった、ソレは次第に焦り始める…街を守るためにこうして居る時間がもう少し早く欲しいとしかし、うまくは行かない…次々に飛んでいきソレを抜き越すミサイルは多数…街に当たる事は有ってはならない!

とある一本が抜き越して行った瞬間だった…。

突然、ミサイルは、爆発大破した…。

更に、抜き越して行ったミサイル群も下の方で次々と撃墜されて行くではないか…。

巴『どうにか間に合ったわね…レイス!迎撃での時間稼ぎありがとう!助かったわ!』
ソレに向かって巴がレイスと呼ぶとソレの肩を軽く叩く。

?『04?今なんて…何故わたしの名前を…?』
レイスと呼ばれてすこし戸惑うが巴はまた、軽く肩を叩いてミサイルの撃墜に向かった。

ソレも巴を追いかけるように撃墜に向かうとまだミサイルの群が多く飛来して来る。

巴『そんな事はどうでもいい、それより数が多い、出来るだけここで墜として少なくする…抜け出したヤツは足の速い烈月に任せる…レイス、分かった?』
巴の問いにソレは、二つ返事で返すと巴から離れて行った。

レイス…自分の名前…数ヶ月前に山中から運ばれて今の身体になって以来一度も呼ばれていなかったその名前を呼んで任せてくれるヒトがいて少し嬉しかった…。

ミサイル群は、順調に迎撃され落として行くと次第に、心にも余裕が生まれてくる…。
それに漬け込んだようにそれは突然、襲いかかってきた…。

とある一本の破壊をレイスは、確認し次のミサイルに当たろうとした瞬間…撃墜したミサイルから小型のミサイルが分離、その子機は、真っ直ぐとレイスへ襲いかかってくる。

レイス『しまった!マイクロミサイルか!?』

無数のミサイルがまるでスズメバチのように波を打ち、レイスの姿を捉えて離さない、レイスは上に下にきりもみをうちながら着実に襲ってくるミサイルを迎撃する…。

小型ミサイルの迎撃を終えて一息をつき巴の方に目を向けると先ほど、自らが破壊しマイクロミサイルを射出したミサイルを撃墜しようとしているではないか、レイスはフルスロットルで巴の元へ飛んだが間に合わず巴は、親機を破壊、マイクロミサイルを射出させた。

巴の機体は、自分の速度より低くミサイルを振り切るのは無理と判断したレイスは、巴に追い付くとそのまま後ろに立ち迎撃しようとした瞬間だった…。

一発が脚部に被弾するとそのまま、なだれ込むように次々とレイスに被弾していく…。

もうもうと立ち上る煙にズタズタになって落下していくレイスの姿があった。

巴『レイス!!レイスッ!!答えなさい!』

巴が叫ぶようにレイスの名前を言うが動きは無くそのまま、湾上のゴミの島に墜ち爆発をおこした…。

巴の、モニターには今まであった[RA-10c]の信号は途絶え勝手にリンクしていたレイスの機体状態表示には[destroed]の文字が浮かんでいた。

巴『身を挺してまで…あたしを守る必要が…あったのかい…レイス…あんたってヤツは。』

巴は、言葉をつまらせて墜落の痕を眺めると振り向いて、烈月に指示をしミサイルの撃墜の迅速化をはかると共に事態を収束させて行った…。

それから…数ヶ月が過ぎ…新聞には、あのミサイル事件以降、夜な夜なゴミの島には、白い服を着た白髪の若い女性が現れるようになったと書かれおり…それを読んだ巴は、いつものブラックのコーヒーをグッと飲んで、一息つくと烈月を連れて、何でも屋sencoを出て行った…。

END
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