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AGーO:zl(アナザーグラヴィテイオペレーション:ゼルベリウス)

とある街…

ボロボロになった服を着た少女が雨の街中をふらふらとおぼつかない足取りで宛のない道を歩く。


雷鳴が鳴り響き、ビルとビルの間には、繁華街のネオンが所狭しとひかり主張する。


暗い暗い街中を歩く

すれ違う人々は少女を見ると直ぐに目を背ける

(救いは…無い…いつもそう…)
彼女は、心にそう思い宛もなく街外れまで歩く
疲労と空腹…あげくには心に悪魔が囁く

(盗んでしまえ、邪魔なら殺してしまえ、お前ならできるだろう。)

彼女は、懸命に悪魔を払う…。
だが、冷たい雨と風が当たり意識もうつろとして悪魔の囁きを行動にしてしまいそうになる。
ついには、冷たく濡れたアスファルトに倒れそのまま意識がプツンと事切れた。

次に目を覚ました時には見慣れた建物の中だった。

『気が、付いたか…。』

少女が声の方目を向けると紅髪の女性が横に座っていた。

『えぇ…。』
少女は女性が何者かはわかっていたので彼女の手をスッと撫でると女性は少女の手を握り神妙な面もちで少女にそっと語った。

『アーシェ…もっと自分の体をいたわれよ…いつか、とんでもないことになる…必ずね…。』

女性は、少女の手をスッと離すと他の仲間を呼んで看病を変わる。

『あ…ともえさん…おはようございます…。』

ともえと呼ばれた女性が少女のもとに、寄るといきなり、額に向かって軽くデコピンを打ち笑った。

『アーシェ!あんた、馬鹿じゃないの雨の中ふらふらで街中歩くって…言っとくけど、あたしゃ…病人には優しくないからね…まぁ…見つけたあいつに感謝しなよ…夜通し診てたんだからさ。』

巴はうっかり紅髪の女が少女のことを夜通し看病していた事を口に滑らせた…。
アーシェは、紅髪の女になんて言って良いかお礼の言葉さえ浮かばないほどに嬉しい気持ちになっていた。
嬉しい気持ちが押さえられず照れ隠しにブランケットで顔を隠していたが直ぐに巴に引っ剥がされてしまった。

『照れるのはわかったから、ご飯食いなさいな…お腹に良い喫茶子ぎつねのお粥だからね…ちゃんとお食べな。』
巴は、そう言うとテーブルにお粥の入った茶碗と箸と梅干し、塩を用意した。

それを、見てアーシェは、茶碗と箸に手を伸ばすと一杯のお粥をあっさりとたいらげてしまった。
『大した回復力だよ…あんたって子は。』

巴は驚き混じりに笑いながらアーシェの茶碗を受け取るとおかわりを茶碗によそって再びアーシェに返すと笑わないはずのアーシェが少し笑ったように見えた。

『ありがとうございます…。』
静かに答えるアーシェは茶碗を受け取るとお粥をサッと流し込んで立とうとしたが足が多々良を踏み。

ドスンとその場に、しりもちをついてしまった。
巴が笑いながらアーシェを起こすと背中をバシッと叩いた

『バッカだねぇ…あんた!自分の体を気にかけなって…まだ、体力も戻って無いんだから。』

『〜ッ…すいません…。』

巴の平手打ちが効いたのか表情を歪める…アーシェは彼女らがまるで家族のようだった…。

毎日では無いがまるでいつものように、変わらずに接してくれるSencoの連中である。

アーシェは、巴に礼を言うと再び眠りに就いた…。

眠りに就いて何時間経ったのだろうか…。

頭の中に、ざわついた声が微かに聞こえて来る…。
【コノ連中ヲコロセ…コイツラヲコロセ、オマエがコロサレル…シニタクハナイダロウ…サァ、サァ!】

その声に、驚きアーシェは飛び起
きると呼吸は肩でし、汗が頬から落ちる…。

『な…何…嫌な…夢にも程が…。

起きた時には、既に窓から日の光が差し込み空は藍色に染まっていた…。

アーシェは起き上がると自分の体の調子を見る…。
しっかりと、動けるのを理解すると部屋を出る…。

目の前のソファーで横になっている大女を起こさぬように歩くがそれは直ぐにバレてしまい大女は、ムクリと体を起こした。

『よう…体はもう良いのか?』

『はい…とりあえずは…もう大丈夫…です。』

『あぁ?とりあえずは…?オイオイ、アーシェ、冗談はやめろ…顔色が真っ青だぜ…それで大丈夫って言えんのか?』

『烈月さん…私は、大丈夫…大丈夫なんです…だから…行かせてください…。』

『行くって…何処だよ?場所は?目的は?場合によっちゃ…ッ』

烈月が言いかけた途中でアーシェは、無理に押し通してそこを後にしようとしたが彼女の前に烈月の大きな体が立ちはだかった…。

『オイ冗談は大概にしろよ…テメエのその顔面蒼白を見りゃわかんだ…完全なコンディションじゃねぇってな、それで…どっかほっつき歩いて、勝手に野垂れ死んじまったら…コッチの後味も糞悪りぃし、どっかの誰かさんに対して裏切ることになるだろうがよ!』

烈月の言ってることにも筋が通っている…看病してもらって体がまだ本調子でも無いのにアーシェは、そこを出て行こうとした…目的は、理解している…某製薬会社をつぶして、最愛のリクを救う…ようやく手に入れた情報をもとにたどり着いた世界…それが…今までに訪れたことのある世界だった…。
だが、アーシェには時間が無い…それでも烈月の言った言葉を無視して小さな体は、烈月を押しのけて進もうとした…。

その瞬間、グイッと肩を掴まれ強烈な力で引き倒されて烈月が見下ろしていた。

『オイ…テメエ…言ってる事が理解できてねぇのか?ノータリンでも分かるように簡単に言ってやるよ、体が悲鳴あげてんのがわかんねーか?…それでも行くってんだったら…力ずくでぶちのめしてでもテメエを止めてやる…!』

烈月は、語調を荒らげ止める気も無いくらいに強烈な殺気を放つと頑固になるアーシェは、腰のポーチに納めた短剣を取り出しすっくと立ち上がり身構えた…。
『行かなきゃならない…どうしても、やらなきゃいけない事が、ある…だから邪魔、どいて!』

アーシェもまた負けじと、語調を強く啖呵を切って睨んだのが烈月に響いたのか烈月はニヤリと笑みを浮かべ、しばらく沈黙が二人を包み込んでまもなく、一呼吸を置いた途端にアーシェの眼前に迫り寄り、そのまま拳を振りぬいた…。

ドタンッ!
ガラガランッ!
激しく、体が床を叩いた音と金属が床に落ちる音がエントランスに響き巴や眠い目をした紅髪の女が何事と飛び出してくる…。
その光景を見た二人は、理解が一瞬遅れた…どちらが悪いのかもまた同じだった。

『ユキ!烈月を抑えて…!あたしゃ、アーシェをベッドに連れ戻す…!』

『わかった…烈月!落ち着け…!落ち着いて…何があった…!』

紅髪のユキは、烈月をなだめようと前に躍り出て彼女を制止すると烈月は、大きく深呼吸をし荒ぶった拳をゆっくりおろす。
『あぁ…オレは、冷静だ…落ち着いてる…。』

『わかった…なら向こうで話そう…。』
ユキは、烈月を喫茶子狐の席に連れていき腰を掛けさせると対面にすわり訳と経緯を問いただす…確かに烈月の話にも筋が通っている…だがしかしやりすぎたと言う事を口にすると珍しく烈月はシュンとしてしばらく沈黙していたが烈月は珍しく弱ったような顔をしてユキに向かって口を開いた…。

『なぁ…ユキ、アーシェは何者なんだ?あいつは作られた人間なのか…?』

烈月は、アーシェからにじみ出る何かを感じ取っているようで彼女が普通では無いことを口にするがユキは、首を横に振った…。
ユキでさえアーシェの本質的な存在が何者なのかを理解できておらずただ、アーシェが人間であると思い続けたいと口にする…。
『アーシェは、アーシェ…わかりきったこと…普通にただ、普通に向き合って居れば良いだけのこと…何一つ変わらないよ…。』

ユキの言葉は釈然としないが存在は存在と烈月は納得せざるおえなかった…。

一方で巴に付き添ってベッドに向かうアーシェもまた表情を変えずに言葉に切なさを口にしていると巴は優しい眼差しでアーシェをあやした…。

『無理もないさ…あんたの事を思う気持ちが強く出て烈月もやっちまった事だし…。』

『ごめんなさい…烈月さんの事を思えなくて…ムキになって…。』

アーシェはどうやら反省はしているようで口にする言葉に弱々しさが出ていた…巴は、アーシェベッドに寝かせるとすぐに救急箱を用意し、殴られた跡に湿布を貼り笑ったがすぐに真剣な眼差しをし唐突に切り出した…。
『アーシェ…あんた…先が長くないんでしょ…あとどれくらいなの…?』
唐突すぎる質問にアーシェは驚いた…自分の命が短いとすぐに巴に看破されたのだ…アーシェは視線を落としゆっくりと答える…。
『あと…1ヶ月…1ヶ月しか…。』

1ヶ月の寿命をもってアーシェの存在がこの世界から消える…非常に短命である…彼女の事をおもんぱかって巴は、何か出来ないかと思案するがそれはすぐに解決する…。

『なんだ…アーシェ…てめぇ…゙1ヶ月も゙生きれるのか…。』
部屋に入って来た烈月はちょうどその話を聞いていたようで安堵した顔を見せた…。

『兵士っつうのは戦場に出て…生きれて、たったの5、6分だ…その中で1ヶ月も生きれるんだ…十分じゃねえか…。』

何か希望の有るような含みを持たせて烈月は戦場での凄惨さを語りそして、先ほど殴ったことをわびると巴が部屋を後にする、そして、何をするためにこの世界に入って来たのかをアーシェはゆっくり語り…烈月は、頷いて耳を傾けていた…。
アーシェが寝つくまで…烈月はアーシェが大切な人の為に某製薬会社と飽くなき戦いに戦っていることなどを全て受け止め、自分がこの華奢な少女のために何ができるのかを考えしばらくしてアーシェが寝付いたのを確認したあと…その隣でゆっくり目を閉じる…。

しばらくしての事だった…ウトウトとしていた烈月の肩をポンポンと軽く叩く誰かが居る…すぐに頭が回りだし眼もしゃっきり、その方向へ目を向けるとユキが立っていた…。

『交代…しばらく寝てて…。』
ユキがそう言って近くの椅子に腰を掛けて本を開いて目を通し始めた、烈月は軽く返事をするとアーシェが起きないように部屋を出て行った…。

しばらくは沈黙が続き比較的早いスピードで本をめくる音だけが部屋に通る…。

しばらくしてのアーシェは目が覚めると本をめくる音の方向に視線を向け薄暗い明かりに目を凝らしぼんやりとした明るさの中にユキが座って本を読んでいた…。

『目が覚めたみたいね…。』

『ユキさん…それは?』

アーシェは、ユキの読む本に興味を持ちそれを聞くとユキは本を閉じてアーシェに表紙を見せた…。
大分痛んでいる所を見るにとても古い本である…。

『その昔、ヨーロッパっていう国の集合体が有ってね…そこに実在したとされる怪盗紳士、アルセーヌ・リュパンの伝記…作者はモーリス・ルブラン。』

『リュパン?』

『そう、リュパン…ミステリー小説だったり、冒険小説だったりする作品ね…結構、私は好きなの。』

リュパン伝記の冒頭を簡単に語るユキ普段からいささか物静かで堅い雰囲気のユキが柔和な表情を見せアーシェを落ち着かせていた…確かにアーシェは先日から堅い表情をしていたためそれを和らげるつもりも無く嬉々として語るユキ、二人の関係は少し近づいた気がした。

『さて…もう少し寝て…体の状態もよろしくはないしね…お話はここまでだ。』

ユキはアーシェを寝かしつけるとまた再びリュパンの本を開いて読み進め…静かな時間が訪れる。

日も上り昼間ともなると喫茶子狐の店内は注文を取る人間の声、客の談笑が聞こえアーシェは目が覚める…その横には、巴が座っており…書類に目を通しているのが伺えた…。

『ともえさん…おはようございます…。』

『あぁ…おはようさん…顔色も良くなったわね…なら…今晩か…。』

意味ありげに一言言うと少し部屋を後にししばらくすると暖かなオートミールを運んできた…。
『これ食ってまた寝る!』

有無を言わさず、オートミールを用意し再びベッドに寝かせつけられる…アーシェはこの動きに戸惑いながらオートミールを完食し巴に半ば押し倒されるように、毛布を被せられた…。

次第に意識が遠のく…まどろみが襲う…そして、意識がぷっつりと途切れた…。


気が付くと、そこには再び、巴がいた…。
『アーシェ、早く起きる!出るわよ!』

出ると言われこれまた、無理やりに起こされ、今度は慌て壁にかけられたポーチを手に部屋を出るとそこには、整然と整列をしたSENCOの面々がたっていた…。

『傾聴せよ…これより作戦の概要を説明す!』

巴が整列した面々の中心に立ち淡々と概要を説明を始めアーシェは、これに理解ができていない状態になる。

『多摩にある某製薬会社の支社は、まず警視庁で上がっていた一連の人物の失踪事件に深く関与している…だがしかし、警視庁は国営に近い特別扱いの某製薬会社に対しての捜査が入れられずじまいとなっておりこちらで゙強制捜査゙の依頼が入って来た…これにより、我々女神隊の預かりとなり強制捜査に踏み切る!』

どうやら警視庁から特別捜査令状発布のもとで、舞い込んだ捜査のようだ…巴は、それも見込んでいたのかもしれないし、それを根回ししたのかもしれなかったがアーシェは大分理解してきた…。

端的に言えば、某製薬会社に乗り込むと言うことだろう…。
『総員…装甲車に乗り込み多摩に向かう…車内で作戦の子細を通達する…流奈、予定装備の搬入は?』

巴は、容姿端麗な流奈に装備を確認する。

『問題なし、ですわ…それと、例のアレも積載済みでしてよ!』

例のアレと言うのがアーシェは今一理解できなかったが、ユキが考えるなと首を横に振るためアーシェは深く考えずただ、女神隊の面々についていき…車両庫に足を運ぶと堅牢な装甲を纏った装甲車がエンジンを唸らせて待っていた…アーシェが最後でそれに乗り込むとハッチは閉められエンジンは大きく唸りを上げ多摩に一路走り出したのだった。


Zl2へ続く

AGーO:Ae(アナザーグラビティオペレーション:イージス)

暗く、何も無い谷底…。

そこに、白いパーカーにフードを被った少女がひとり暗い空間目に立つように立っていた…。

肩には、大きなカラスを止め、そのカラスの胸を優しくなでる。
しばらくしてだった。
ごーっと風の音が遠くから聞こえて来たかと思うと地面が激しく小刻みに波をうつと今まで、土が被われていたところに金属質の何かが次々に顔を出し始めた。

少女は、音もなく走り出し谷の端、大きな崖を飛び降りた…。

空に舞う小さな体は、丈夫なロープで固定され飛びきったあと弧を描き金属質の壁に向かって行く…。
少女は、ボロボロのウェストポーチから二本の短剣を取り出しそれを壁に突き立てると見事に刺さり簡単な足場になった。

それを足場にし身軽に体勢を整えると彼女から少し前側が突然開きライフルを携えた男が現れた。

少女・『リック…お願い…。』

少女は、カラスに声をかけるとカラスは軽く返事をしライフルの男に襲いに飛びかかって行った…。
ほんの数秒…ほんの数秒も経たず音もなくに事は済んだようで開口部からカラスが顔を覗かせていた…。
リック・『アーシェ…終わったぜ〜全く、スカーヘッドの親衛隊のヤツらよりヌルいぞコイツら…。』

カラスのリックは、笑いながら少女を見ると少女は、その開口部の端へひょいと飛び移り身軽に入り込むとベラベラしゃべるリックのながったるいクチバシをつまんだ。

アーシェ・『喋っちゃダメ…あなた、いつもうるさいから…気付かれる…。』

つままれて、もごもご言い、羽根をばたつかせるとアーシェは、つまんだクチバシを離すとリックは、おじさんのようにぶはぁと大きく息を吐いた。

リック・『へへへっ…悪かったよぅ…しばらくは、黙っているからよ。』

軽く謝罪をリックはするとアーシェの肩に止まろうするが外を指差して彼女は、リックに指示をする。
アーシェ・『剣の…回収よろしく…急いで…。』

アーシェは、何かを感じ取ったのか言葉の端に焦りが入る、それを感じたリックは、素早く壁に突き刺さった短剣に向かって飛んでいった…。
アーシェは、感じ取った何かがある方へ、ゆっくり歩いて行く…。
廊下の角の向こうに何かがある…アーシェは、息を潜めて、様子をうかがうと、ライフルを携えた男が二人…何やら雑談をしている…そこへもう二人が近寄って行く…。

A・『最近、本社が警備を強化しろとうるさいようだ…何か有ったのか?』

男Aがボヤくように話すと後から来た男Dが身振り手振りをしながら溜め息混じりに答えを返す。

D・『理由は単純だ、あいつだ…アーシェだろ…かわいい顔してやっている事が立派なテロリストだ…ここしばらくは、なりを潜めているみたいだから、こそだろう。』

アーシェを知っているような口振りでDは、話すと一同は納得したように相づちをうつ、その様子をうかがっているとアーシェの肩を誰かが叩くと彼女は不意をつかれたようにそちらを向くとリックが二本の短剣を持って立っていた。
アーシェ『リック…脅かさないで…。』

アーシェは、不意打ちをしたリックから短剣を受け取り、鞘に納めると再び、男達の様子をうかがうと男Bがこちらに歩いて来る…距離も無くアクションを起こすと見つかってしまう…。

アーシェは先ほど納めたばかりの短剣を取り出して身構えた。

一瞬…男と目が合うと男はビクついて後ろへ飛び退きアーシェにライフルを構えたが視界から消える…。

左右を見回して下を覗いた途端アーシェは、短剣で男の腕を切り捨てると残る三人が気づいた居たようでアーシェに向かって発砲する…!

A『奴がアーシェかっ!なんだ…あの速さは…化け物かっ!』

弾丸は全て空を切る、アーシェの前では弾丸は全て無意味の様相を呈していた、アーシェは、男Dを間合いに捉えると鋭いその短剣は、ライフルの銃身を容易く切り落とし…避ける様にひらりと身を翻して男Dの首を刺す。
深々と突き刺さった短剣を引き抜くと動脈を押し切ったようで血が吹き出し当たりを赤黒くする…当然、その血の一部は、アーシェの白いパーカーにもかかりべとついたように重くなる…。
男Dを刺したのはほんの数秒だが、その空間だけ長い時間が経つような感覚が包んだ。

C『殺せ!奴を殺せ!ここから進ませるんじゃねぇ!!』

半狂乱になったCは、取り回し辛いライフルを捨て拳銃に持ち替えてアーシェを狙い撃つと、あっさりかわされ、Cの首は曲がっては、いけない方向へぐるんと曲がりそのまま白目を晒して倒れ伏す、撃つと同時に距離を縮め、首をへし折ったアーシェは何事もなかったかのように倒れたCを見て動かないのを確認すると、男Aに目を向けた。

アーシェ『仲間はいない…あなたひとり…どうする?抗うなら抗って…しないならどこかへ消えて…。』

小さな体で大の大男三人を潰して圧倒的な戦闘力の違いを見せつけ…Aに自身の行動を問う。

A『嫌だ!死にたくない…死にたくない…死にたくない…。』

座り込み頭を抱え、びくびくと怯えるAを見て戦意は無いと判断したアーシェは、短剣に付いた血を払って鞘に収めると男を背にしてどこかへ歩いて行った。
しばらくして…。

先に、盾を構え整列し廊下を塞ぐように構える警備兵が一指違わぬ黒服を着込んで待ち構えていた…。
アーシェを先に進ませない対策のようだが彼女には、プラスチックの盾はパンを切るような物…。
切り結で突破しようとするが…盾の向こうから擲弾が放たれ足下でジューッと煙を吹き出し始める…。
始めは何てことがなかったが、しばらくして、リックが苦しみ出す…。

リック『ゲホっ…ゲホゲホっ…催涙…弾…かよ!ゴホッ…アーシェ…きをつけ…がはっ…。』

羽をバタバタさせてもがいて転げ回るリックを拾うとパーカーのお腹に彼をしまい盾に向かって走り男達の手前で立ち止まるとポーチから大きなリボルバーを取り出し盾越しに見える黒いヘルメットに向かって撃ち込んでやった…。

プラスチックの透明な暴徒鎮圧用の盾は、あっさりと貫通し正面に盾を構えた一人が、吹き飛ぶと将棋倒しに男達が倒れアーシェは、そこをひょいっと飛び越す…。
催涙ガスをまともに吸っているはずなのに何事もなかったかのように飄々と走る…。

しばらく廊下を走ってだった…。

アーシェは、突然咳き込むとそのまま、床に膝を突いて荒く呼吸をする…。
催涙ガスに耐えていた様でそれが限界に達したようだ、酷く呼吸も乱れ、目も虚ろとしていた…。
視界も歪み…意識も朦朧とするその中でアーシェは、最愛の人リクの声を聞き、声のする方へ虚ろな目を向けると白衣を着た女性が走り寄ってアーシェの肩をゆする。

リク?『もし?もしっ?大丈夫?しっかりして…今、助けるから』

抱え上げられ、どこかへ運ばれる様で意識の薄れかけたアーシェを女は、肩に掛けどこかへ連れて行くその途中で、アーシェは、ぷっつりと意識が途切れた…。
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