銀土馴れ初め?話。
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その日早めに仕事を終えた土方は、たまに訪れる飲み屋の暖簾をくぐった。
広くはない店内をさっと見渡したが、目当ての人物は見当たらない。
ーやっぱ来てねぇか…
その人物とこの店で何度か偶然一緒になったことがあり、今夜ももしかすると来ているのでは…という土方の期待は裏切られた。
ため息と共に空いていたカウンター席に腰を下ろすと酒とつまみを幾つか注文し、ひとり飲み始めた。そのとき、入り口の戸が開き新たな客がやってきた。
「いらっしゃい、銀さん」
店主の声に、土方は弾かれるように顔を上げた。
テーブルも空いてますが、どうします?と問い掛ける店主に銀時は
「あっ俺ここでいいから。それから、いつもの冷やで」
と酒を頼むと当然のように土方の隣に座った。
「よォ久しぶり。今日はもう仕事上がり?」
「ああ。大きなヤマが片付いて明日はひと月ぶりの非番なんだよ」
「そっか。そんでしばらく見掛けなかったのか。今日あたりお前が来てるんじゃねぇかと思ってのぞいてみたんだけど、正解だったな」
えっ、それって…
まるで自分に会うことが目的でこの店に来たようなことを言う銀時の笑顔に、土方の胸はドキンと高鳴った。
酒が運ばれてくると、銀時は何食わぬ顔で土方が注文した、まだマヨネーズの餌食になっていないつまみに手を伸ばした。
「オイ、なに勝手に食ってんだ!?欲しかったら自分で頼めや!」
「俺だって自分で頼めるぐれぇなら頼んでるっつーの!今月ピンチなんだからしょーがねぇだろーがァ!!」
「開き直んな!お前がピンチなのは今月だけじゃねぇだろ…って、わかった…そういうことか」
「ん?何が?」
「なんだかんだ言って俺に奢らせようって魂胆なんだろ?大体おかしいと思ったんだよ、俺に会いに来たようなこと言いやがって」
土方は内心の落胆を押し隠し、平静を装っていた。
「違う、そんなんじゃねぇって!」
「じゃあ何なんだよ」
「俺は…土方の顔が見たい、声が聞きたい、少しでも一緒に居たい、そう思ってここに来てみたら、お前に逢えたからすげぇ嬉しくて…ただそれだけだ!それ以外に目的なんてねぇよっ」
銀時は土方の誤解を解きたくて必死に自分の想いを口にしていた。
「んだそれ…なんで…」
「なんでって、そんなもんお前のこと好きだからに決まってるだろ!」
土方は信じられない思いだったが、自分を見つめる銀時の、いつもとは違う真剣なまなざしから嘘や冗談でないことが伝わってきた。
「お前ずりぃんだよ…俺だって同じようなこと思ってたけど言えなくて、ずっと我慢してたのに…」
「俺は自分に正直になっただけだよ。土方くんもさ、我慢なんかしねぇで俺に会いたくなったらいつでも会いにきてよ」
「出来るわけねぇ」
「何で?」
「んなことしたら、仕事する時間も寝る時間も無くなって、ずっとお前といることになっちまうじゃねーかッ」
そう言ってそっぽを向いたまま銀時の方を見ようとしない土方の横顔は、耳まで真っ赤に染まっていた。
ーそんなに俺のこと想ってくれてたんだな…
銀時はそんな土方がたまらなく愛おしくて、今すぐ抱きしめたくて仕方なかった。
「出るぞ」
銀時は土方の手を掴み、いきなり立ち上がった。
ちょっ、何する…と言いかけた土方を無視し、
「おやっさん、悪ぃ。急用できたから帰るわ。つけといて」
と言い残すと、土方の手を引き店の外へ出た。
「おいッ、どこ行く気だ」
「ふたりっきりになれるとこ。
…あのさ、うち今日誰も居ねんだけど、
くる?」
「……」
銀時の問いに土方は無言でこくん、と頷いた。
そして、まだ銀時に掴まれたままだった手に力を込めてぎゅっと握った。
「じゃ早くいこう」
手をつないで歩き出したふたりの姿は夜の闇に優しく包まれ見えなくなった。
end.
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テーマは「似てる二人は恋をする」でしたがどうでしょう…
思ったより長くなりました(^^;)
最後までお付き合いいただきありがとうございます(*^^*)