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2012/4/3 Tue 23:39
世界【柳生×仁王】 長編SS




それは全ての始まりで
全ての終わり――


お前以外なんていらなかった
何一つ必要なかった。


その笑顔も、声も、
表情の一つ一つ全て、
俺だけのために見せて欲しかった



だけど、もうこの願いは、
届かないことを俺は知っているから



涙を、流すしかなかった


声にならない声で…、
泣き続けるしかなかった




なぁ、この声はお前さんに届いとるか…?



あれから俺は何も変わっとらん。

止まった時間の中で生きてるんかも分からんまま。
ただ、息をしとるだけ…




せめてあの時、
お前さんを好きだと伝えたら…




運命は変わってたんかのう……




世界 仁王side




初めてアイツと出逢った時、こんなに付き合いが長くなるとは微塵も思っとらんかった。

初めは俺と全く違うタイプに見えたんじゃが、案外中身は似ていて…面白い奴じゃと思った。
口も異常に上手いしの。俺を口だけで負かす奴は久しぶりじゃ。
テニス部に入らんかと聞いたんも俺じゃった。
"君がいるならテニスも楽しいかも知れませんね"
そう言って笑うアイツの顔を思い出す。


あの頃から掴めない奴じゃと思っとった。俺と同様、否寧ろそれ以上に。
それが一層俺の興味を惹いた。


今まで色んな奴と話してきた。言葉遊び、駆け引き…楽しめるなら何でも良かったが、柳生と話すのが一番楽しくて…夢中になったのう。懐かしい限りじゃ。



夏休みに入る一週間前。
委員会があるからと教室を出て行く柳生を見送った後、俺は教室で携帯片手に空を見上げた。よく澄んだ青空に走る飛行機雲。

(天気いいのう……)

その日は、なんだか直ぐに部活へ行く気にならなくて柳生を待っていた。
…が、いつの間にか眠っていたらしい。




「仁王、君…?」

暫くして、一瞬声が聴こえた気がして身じろいだのは覚えとる。しかし、その先は全く覚えとらん。


無理矢理起こされたりでもせん限り基本的に俺は起きんからのう。叩き起こさん辺りそんな急用でも無いんじゃろうと俺は再び睡魔に身を委ねた…




「――ん…っ」

それから一体何時間経ったのか、時計まで見んかったから忘れたが…起きた時、既に空は真っ赤じゃった。夕方じゃと言わんばかりに烏もカァカァ言っとったしのう。
うっかり寝過ぎたと後頭部を軽く掻けば隣の席から声がする。


「起きましたか?仁王君」

そこに柳生が座っとった。
まさか隣の席で本を読んどるとはほんに予想外じゃったからの。流石の俺もこれには驚いた。



「…柳生。お前さん、部活はどうした?」
「行ってませんが?」

至極当然だと言わんばかりにアッサリ答える姿を見詰めながら俺の頭は寝起きのせいもあって若干なり混乱しとった。"ダブルスパートナーが居ないのでは練習になりませんからね"
何も答えられん俺を見ると、柳生は小さく笑ってそう答える。
例えただのダブルスパートナーであっても、その一言は嬉しかった。


「のう、柳生……、お前さん、彼女は作らないんか?」

「さぁ?必要だと思いませんし…」

「そうか。健全な中学男児にしては珍しいのう…」

「何か言いた気ですね、仁王君」
「い〜や、別に」

次第に夜へ溶けていく空を見詰めながら、俺達は他愛ない話をした。
そして笑い合った。毎日一緒に居て、語り合って……そんな日々がいつまでも続いていくんだと、信じていたんじゃ。




全国大会の翌日。
トルマリン石のシンプルなストラップを携帯に付けとったんやが、恐らく大会で落としたんじゃろうな。
結構気に入ってた俺は些か残念に思いながらいつものように柳生と屋上で昼休みを過ごす。



「そう言えば、いつぞやに聞いた彼女の話はどうなったんかのう…?」

「嗚呼、アレですか。…好きな方は、出来ましたよ」

「ほほう…それは俺に教えてくれるんじゃろ?」

「ダメですよ。幾ら仁王君でもそれは教えられません。」

そう簡単に口に出したら面白く無いでしょうと呟いて柳生は屋上に広がる空に視線を向ける。その横顔を見詰めて俺も同じ様に空を見上げた。



「好きな方には近々想いを伝えますよ。その子の落し物を届けなければならないですし」

「ほう、なんじゃ意外に照れ屋なんじゃのう…ジェントルマンは」

「からかわないで下さい、仁王君」

すまんと謝りつつ笑い合う、その時間が何よりも幸せだと思えた。



次の日の朝。柳生は登校前、いつもメールを送って来る。
それが来なかった…今まで毎日欠かさずメールをしていたのに、今日は来ない。
その時かのう、何とも言えん嫌な予感がしたんは…

学校に行っても柳生の姿は無かった。
A組に顔を出したが何の連絡も来とらんちゅー話やったしの。

次第に嫌な予感が強くなる。頭の中で何かが叫びを上げ、胸がざわつく。
周りはいつも通りに平穏な毎日を送っとるんに、俺だけは何故か逸る気持ちを抑えられんでいた。その時じゃ。隣のクラスへ大急ぎで駆けて行く教師の姿。そして、耳に届いたのは…、



『先生!柳生君が…!!』


――警鐘。

「――ッつ!!」

その名を聞いた途端、俺はもう座って授業等受けていられんかった。
「お、オイッ、仁王!」
『どうしたんだね、仁王君!席に戻りなさい!!』

ブンちゃんの声も教師の声も耳に届いとらんかった。俺の頭には、アイツのことしかない。
柳生がどうしたんだろうか
何があったのだろうか
それ以外考えられん俺はA組にいた教師に食いかかる様質問を浴びせ、柳生の場所を聞き出した。

それは今日の朝。登校中、携帯を弄りながら歩いとった柳生は、鞄から落ちた物に気付きを拾おうとした。そして、信号を無視し猛スピードで交差点へ近付いて来る車に、そのまま撥ねられたらしい。


意識はなく、重態の状態で病院へ運ばれ、今は手術室にいると。


教師から聞いた情報を元に、俺は近くの病院へと向かった。
看護婦に案内され、手術室の前へ通される。まだランプは点いたままで、柳生の手術が終わっていないことを俺に知らせていた。

助かってほしい。生きていてほしい。
ただそれだけ…

(―柳生…っ)


何も出来ず、俺はただ座って手術が終わるのを待っているしかない。
不意に、手術室の扉前へ視線を移す。何かが光っているのが見えて俺はゆっくりと立ち上がり、その光の方へ足を進めた。
そこに落ちていたのは、見覚えのあるストラップ


「これは…」
自分の携帯に付けとったトルマリン石のストラップ。
血に濡れ、ボロボロに欠けてはいたけれど、それは確かに自分の物だった。

その時、俺は悟る。
柳生が事故間際に落とした物は、コレだったんだと……、そして俺はランプが消えると同時にそれを握り締め、医師に駆け寄る。
じゃが、返って来たのは…聞きたくもない"残念ながら"という言葉だけ。


そうして気が付いた。
俺は、やっと気付いたこの想いも、大切な人も、失ったんじゃということに。



もう、戻れはしない。引き返せもしない。

どうして素直に言えんかったのか
何故気が付かなかったのか…
失った者の大きさに、俺は、ただその場へ泣き崩れた





もう一生届きはしない

この想いも、この叫びも


俺の声すらも…


せめて、あの時、俺がお前さんの想い人じゃと気付いていたら、


「運命は、変わってたんか……?


答えんしゃい…

―比呂士……っ」



まるで、掌に握ったままのトルマリン石のように
俺の心は砕け、以来元に戻る事等永遠に無かった。




〜見上げた空、俺の瞳に映ったのは、愛しい人を失った灰の世界〜







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