大観園の記録
◇長沢背稜
2023/04/24 22:11
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東日原の集落は谷に這いつくばうように孤立していて、これが東京都です、と写真を見せれば怪訝な顔をする人もいるだろう。それくらい山深く、緑豊かだ。

奥多摩の山の特徴は始めは人工林の急登で、杉檜の間をつづら折れに高度を稼いで行く。
尾根に上がれば広葉樹が広がり、ミツバツツジが目に鮮やかに生える。楽しいのはこの辺りからだ。起伏に富み、小ピークに隠れている地形が待ち遠しくなる。次は岩か?痩せ尾根か?珍しい花や、立派な木は?
そうこうしている内に三ツドッケ、天目山の避難小屋に至る。平成の世に山賊が出た、で有名な小屋だ。古びているが整理は行き届いており好感だ。
小屋の裏から天目山へのラストスパートで、登り切ると360度に近い眺望が得られる。奥武蔵の武甲山、石尾根、蕎麦粒山、大岳山、御前山、富士山。
低山でこれだけ開けている眺望が得られるのには訳があって、かつてチェーンソーで違法伐採が行われたからだ。何かと話題に尽きない山だ。

この天目山より芋ノ木ドッケまでの東京と埼玉の県境を長沢背稜と言う。東京でも一番山深く、歩く人もあまりいない。観光地化されていない本当の山だ。とは言っても道はある程度しっかりしており、靴一足分しかない落ち葉の付いたトラバースや、余り信用出来ない木橋を除いて快適なトレイルではある。
すれ違ったのは2人だけ、追い越しも追い越されもせず、酉谷山の避難小屋へ。

酉谷山の避難小屋は最高だ。窓を開ければタワ尾根、石尾根の稜線、富士山が見える。おまけに綺麗で整理されており、登山者に愛されているのが分かる小屋だ。水を汲みコーヒーを淹れる。15キロを超えるテント泊装備を担ぎ上げた価値を確認する瞬間だ。自由で、開放されていて、誰に気を揉むでもない。リスクを許容して、他人に依存せず、自分の求める物と自分の力量を天秤に吊して、担ぎ上げた愚行権に応じた自由…、これが本当の自由だ。あー、仕事辞めてぇ。

翌日は酉谷山、滝谷ノ峰、水松山、長沢山、小屋背戸ノ頭を経て芋ノ木ドッケへ。この変な名前のピークは台風によって発生した倒木と豊かな苔が魅力だ。朽ちるものは朽ちるに任せ、芽吹くものは芽吹くに任せ、といった風で、居心地が良く長居してしまいそうになる。誰に見られる為でもなく咲く苔の花が愛らしい。

そのまま雲取山を経て七ツ石山、七ツ石小屋にてテント泊、翌日に石尾根で奥多摩駅に戻る。計42キロ、奥秩父全山縦走の予行練習としてはまずまず。

*new past#


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