このお話はフィクションです、実際にはあり得ないので、うわ、こいつの頭ほんとやべぇな。という気持ちで読んで下さい。私の小説は。そしてここ最近。いや、ずっと前からか、桐谷率高すぎて自分でも驚いております。そろそろ変態主将の話とかも書きたいなぁと思ったここ最近。はい、ネタいきまーーーす!!




医者の父さんが深刻な顔をして言う。躊躇い、重い口を開く。お前は記憶をなくす病気だと。ここ最近頭痛が酷く、物忘れが酷かった。物忘れと言っても勉強内容とかは覚えている、人をよく忘れていた、担任を呼びに行く途中担任の顔と名前が分からなく職員室の前で立っていた事。顔と名前が一致しない、女だっけ?いや、男だったような気がする。毎日会っているのに忘れてしまうことに違和感を感じて父さんのところに行けば、俺は病気らしい。治す方法は見つかってて、でもそれは日本じゃ治せないから海外に行かなくてはならない。父さんじゃ治せないの?と聞いたら、静かに首を横に振っただけ。
でも今海外に行ったら春高に行けない。春高連覇がかかっている今、セッターの俺がチームから退けるのは痛い。だったら病気を治すよりバレーがしたい。記憶が無くなってもいい、バレーさえ覚えてればそれだけでいい。

父さんと約束をした。
春高が終わったらすぐに海外に行くことを。
一度失った記憶は戻らない可能性がある。戻る事例案もあるが、絶対に戻る確証はない。
その日から日記を書くようにした、日記なんて小学校の夏休み以来だ。とりあえず自分の事も忘れてしまうらしいから自分のことから書く。
俺の名前は桐谷彰弥、今は17歳。鴉原高校2年、部活はバレー、ポジションセッター。左利き。好きな食べ物は唐揚げ、あとコーヒーも好き。ユニホームの背番号は5。あと、バレー部の事も書いた。
主将は3番大久保叔、ボジションミドルブロッカー。性格は性悪。同じ歳。エース、1番篠久保瑛太。ボジション、ウィングスパイカー、性格はうざい。2番リベロ、すげぇリベロ、俺は蒼崎梓を超えるリベロを知らない。4番、七瀬蒼空、俺の幼馴染。いつも世話になっている人。6番茶葉靖昭、1年エース、とりあえずすげぇ。7番大倉京治、同じく1年、こいつもすげぇ。でも2人してうるさい。

家族は4人。
医者の父さん、デザイナーの母さん、双子の妹

本当に忘れちゃうのかな?
バレーしてる自分も。


今日も朝から頭痛が酷い。
日記帳を鞄に入れ、学校に行く。すれ違う人がおはようと挨拶をするが、思い出せない。誰だっけ?クラスメイト?同じ教室に入ったからクラスメイトか。俺は自分でも人とあまり関わらないタイプだから、あと顔に出さないから思い出せなくてもクラスメイトは気付かないだろう。でも違和感はある。昨日まで覚えていただろう人間の顔が今日になって忘れている。普段気にも留めなかったのにどうして俺はこうにも必死にクラスメイトを思い出そうとしているのか?

失うのが怖い、恐怖感。
あっちは覚えているのに俺は知らない。一方通行。分からない、勉強は分かるのに人の事は分からない。分からない事がこんなにも怖いのか。
全部忘れてしまったら俺はこの世界で独りぼっちだと思ってしまうのか?

-----忘れてしまったらしい。クラスメイトを。
-----今日のお弁当は大好きな唐揚げ
-----今日も晴れている、バレーがしたい。

たまたまバレー雑誌を見た。
鴉原特集、そこに書かれていたのは、天才セッター桐谷彰弥。俺は天才なのか?でもここに書かれているということは天才だったのだろう。
どこか天才なのか?
でも俺って天才なの?って聞いたら。お前何言ってんの?って言われそうだから聞かない。天才セッター。何だろう、このフレーズ、とても嫌だ。

俺を天才と呼んだのは誰だっけ?
思い出せない。あぁ、今日も頭が痛い。




-----桐谷彰弥は天才セッター
-----でも俺は天才が嫌いだったような気がする
-----覚えてないけど。

雨が降っている、帰り道、傘を持ってないから雨宿りしていた。多分通り雨だからやむだろう、それまで待っていよう。気圧の変化があるといつも以上に頭が痛くなる、今日は先生を忘れてしまったらしい。
でもそこまで先生とは関わらないから大丈夫だろう。早く雨やまないかな。

「桐谷さんっすか?」

傘をさして、黒いジャージ姿の4人。
鳥野か、影山が声をかける。あれ?影山ってバレー部だよね?ポジションどこだっけ?
隣にいるのは誰?でも試合した時結構印象残っている、背番号何番だっけ?ポジションは?嘘?忘れちゃった?顔には出さないけど、正直驚いている。俺は影山と仲が良かったのか?それともライバルとかだったのか?分からない、何も分からない。メガネの男はなに?そばかすの男は誰?

「うおおお、桐谷さん今日部活休みっすか?」

「うるせぇぞ、日向」

小さいのが日向。
日向日向と頭の中で何回もリピートする、早く日記帳に書きたいけど今は書けない。日向、忘れないように。鳥野の日向。

「休みだよ、鳥野も?」

「うっす。今から月島の家で勉強会っす」

「頭の悪い王様とチビのために時間を使うなんて本当に勿体無い」

なんだと。と言い争っている。
メガネの長身が月島。チビは日向。

「まぁ、いい勉強になるって、ツッキー」

「山口、2人を甘えさせないで」

そばかすが山口。
影山と日向と月島山口。
忘れるな、覚えろ。日記帳に書くまで忘れるな。

「そう、頑張ってね」

「傘貸しますか?俺、日向の傘に入れてもらうんで」

「大丈夫、もうすぐ止むと思うから、それまで待ってる」

多分借りても忘れちゃうから返せない。
4人は一礼して帰る。すぐに鞄から日記帳を出して書く。

------鳥野のバレー部に会った。
------黒髪が影山、小さいのが日向、長身のメガネは、月島、そばかすは山口。
------次会っても大丈夫なように書いとく。


「お前最近人の顔を見て考える事多くね?」

部活中に篠久保に言われた。
最近顔と名前が一致しない。誰が誰だか不安な時がある。でもまだ少し考えた、思い出せる時があるから考える。その場面が多くなったから問いかけたんだろう。バレーだけは忘れたくないとか言ってたけど、バレー以外にも鴉原の人間は忘れたくない。勿論家族も。失うには大きすぎる。忘れないように毎日喋って毎日顔を見て、頭の中で名前を繰り返す。まだ奪わないで欲しいから、俺はこのメンバーとバレーをしたい。春高に行きたい。

「気のせいだよ」

気のせいじゃない。
気付かないでよ、バカ。お前は変なところで勘が鋭いから嫌いだよ、昔から。いつお前と会ったかも忘れちゃったのに、昔からとか言っちゃう俺本当に嫌だ。

-------鴉原のエースは篠久保
-------エースに最高のトスを上げるのが俺の役目。早く春高に行きたい。忘れないうちにオレンジのセンターコートに立ちたい。まだ忘れたく無いから。


朝起きたら忘れていた、茄智を。部屋に入って来た女が誰だか分からなかった、一瞬驚いて何も言えなかったけど、同じ家にいるという事は家族だ。間が空いてしまったけどおはようって言ったら、泣いてしまった。忘れちゃったんだねって何回も繰り返してた。日記帳を見て、彼女の名前は茄智、俺の双子の妹。
傷付けてしまった。
妹を。どうして俺は記憶を取り戻すよりもバレーを選んでしまったんだろうか?今になって後悔した。俺が忘れた事で人は傷付いている。ごめんって言っても許されない事。俺はバカだ。バレーを選んでしまった。強がっていた、記憶を失っても大丈夫だと。でも全然大丈夫じゃない、むしろ精神的にきつい。あの人は俺の何だった?分からない、不安。

何回も謝った。ごめんって。
思い出すから、絶対に思い出すから。だから今はごめんなさい。

今は俺のわがままを聞いて下さい。

ーーー妹を忘れてしまった。兄失格だ。

あぁ、今日も頭が痛い。

目の前にいる人たちは誰だ?
青葉城西と書かれているジャージ。どこだっけ?どうして俺に話かける?知り合い?俺を知っているって事はバレー関係者かもしれない。隣にいる蒼空と喋っているって事はそうだ、確信は出来ないけど。
今までは顔を見て暫く考えたら名前が出てきたけど、今は違う、名前が出てこない。あなたは誰ですか?先輩?後輩?それとも同級生?本当に分からない。

思い出せ。頑張れよ、俺の記憶力。

「おーい、彰弥。ぼーっとしてどうした?」

「え?あ、ごめん。何か言った?」

「言ってねぇけど、顔色悪いよ、帰る?」

「大丈夫」
目の前の人がこちらに向かって歩く。ココア色の瞳、世の中の女性が騒ぐイケメン。甘い瞳でこちらを見ても俺には分からない。誰だ?誰、思い出せ、目の前の人は俺とどういう関係だったのか?
頬に触れた手が暖かいのに、涙が出そうなるのを必死
堪える。この大きな手を知っているのにどうして名前が思い出せないんだ。

「俺に電話してみて下さい」

「どうして?」

「電話帳全部消しちゃったんですよ、間違って」

彼はいいよ。と笑い、電話を鳴らす。聞き覚えのあるロック調の曲、ディスプレイにある名前は「及川徹」及川さん、忘れるな、目の前の人は及川さんだ。
後ろにいた蒼空は驚いていた、そうだろう、だって電話帳消したのにディスプレイに名前が表示されたから。消していない。
蒼空に腕を引かれる、ちょっとお前と話したいって。そうだよ、蒼空には言わなきゃ、どうして独りで抱え込んでしまおうとしてしまったのか。蒼空はずっと俺の味方だったじゃん。

「すみません、及川さん。ちっと野暮用思い出したんでここで失礼します」

「わかった、じゃあね」

「岩泉さんも、松川さんも花巻さんもお先失礼します」

左から松川さん、花巻さん、岩泉さん。
頭の中で繰り返す、呪文のように。

「ねぇ、お前どうしたの?さっきのなに?」

「ごめん」

「ごめんじゃ分からねぇから」

「俺さ、病気なんだって。記憶がなくなっちゃう」

「え?」

記憶がなくなっちゃう病気。
蒼空の顔を見ずに言う。多分蒼空は怒っている。どうしてもっと早く言わない?もし、蒼空が同じ病気で俺が同じ立場だったら殴ってた。何年一緒にいると思っている?どうして言わない?俺じゃ頼りにならないのか?と。同じ気持ちなんだろう、殴らないのは蒼空の優しさ。

「治るの?」

今まで聞いたこと無い声のトーン。
震えそうな声を抑える。
治るの方法はあると。

「じゃあ治せよ」

「でも海外なんだよ、バレーから離れなくちゃいけないんだ、春高だって近いのに。やだよ、まだバレーをしたい」

「はぁ?」

蒼空は胸倉を掴んで言う。

「お前は記憶を無くしてまでもバレーやりてぇのかよ?バカじゃねぇの?記憶なくしたら戻ってこねぇかもしれない、バレーは出来ても俺らの事は覚えていない。それでお前は満足か?」

「嫌だ、忘れたくない。本当は何も忘れたくない。でも起きたら妹の顔忘れちゃうし、さっきの人達も忘れた。あの人達は誰なのか、分からない。バカだ、もっと早く治してたら妹が傷つかなくてすんだ。でもお前等とバレーがしたい気持ちの方が強かった」

「バレーはいつでもできるだろ。どうして今にこだわる?」

そこで気付いた。
蒼空はその先の言葉を言えなかった。どうして今に拘るのか?答えはひとつ、天才が作り上げた最高のチームが春高2連勝を目指している。という見出しの雑誌を頭の中で浮かべた。いつもそうだ、自分は天才では無い、でも周囲は天才と呼ぶから天才を演じなければならない。昨年の春高も優勝した、プレッシャーが大きい。ここで予選敗退でもしたらマスコミは、桐谷彰弥は天才では無かった。と勝手に言うだろう。それが嫌だった。だったら記憶を無くしてまでもバレーをして、頂点に輝いて、天才のまま姿を消したい。
バカだな、本当バカだよ、お前は。と蒼空は泣きそうになる。お前は天才じゃ無いんだからもう天才というレッテルを剥がしてもいいんだ、なのにお前は。

胸倉を掴む手が彰弥を抱きしめる。

「俺はお前に忘れて欲しくない。記憶があるうちに海外に行って欲しい、もし記憶を無くしたら俺の事忘れちゃうんだろう。そんなの嫌だ」

何年の付き合いだと思っているんだ。
もし春高を連覇しても、次の日には初めまして。だったら洒落にならない。

「なぁ、たまには俺の我儘聞いてくれよ」

「うん」

「鴉原の事は俺たちに任せてよ、お前を天才と呼んだ人間達にギャフンって言わせるからさ、お前が安心して海外で過ごせるようにするから」

「もしさ、もしだよ、俺がお前を忘れちゃったら全力で殴って。でもお前は俺を忘れないで、またバカみたいに一緒に居て欲しい。人見知りの俺の隣にいて」

「バーカ。お前の面倒見るのは慣れてるから記憶無くしても全力で思い出させてやるよ。だから、な?行って来い、待ってるから。お前の帰りを。俺も、鴉原のメンバーも」

「うん、ありがとう」

「おー、泣け泣け。目が腫れるぐらいに泣いてスッキリしろや」

マンションに着くまでずっと泣いていた。
歩きながら、蒼空の後ろに隠れて、周囲はどうしたのだろうか?と興味本位に2人を見るが、気にしない。蒼空は呑気に歌を歌い、オートロックの自動ドアの前には妹の茄智と茄智の恋人の篠久保が2人の帰りを待っていた。多分茄智から話を聞いたのだろう、瑛太は彰弥の頭を叩き、蒼空同様どうして言わなかった?と自動ドアの前で説教をしていた。
いつもなら言い返す彰弥だったが、言われるまま、また泣く。うるせぇ、アホ。と小さく言うだけ。
家には父親がいて、蒼空がニカっと笑い、こいつ覚悟決めましたよ。と言う。

そうか。と言い携帯を取り出し、どこの言葉か分からないが誰かと電話をしている。

「明日の午後の便でドイツに行くぞ」

「分かった」

「春高連覇してやっから任せろや。ちゃんと治してから日本に戻って来いよ、分かったか?あとあっちでもバレーしてろよ、いつ戻ってくるか分からねぇけど、高校 は無理でも大学がある。今度は敵として戦うかもしれねぇし、だったらお前をけちょんけちょんに潰してやっからな」

「うるせぇ。お前が唖然とするすげぇセッターになって帰って来てやる」

「日本戻って来たら一番最初に俺にトスちょうだいね」

ーーーー治す、治す、治して日本に戻る
ーーーーそれまで我慢
ーーーーありがとう

朝になって、誰かの記憶を失ったような気がする、でもバレー部は覚えていた、父さんも。昨日のうちに必要な物をバックに入れて家を出る。玄関には茄智と篠久保、そして、玄関を出たら蒼空がいた。2年間は最低でもドイツで暮らす事になると言っていたから一応退学届けを出して、他の事は母さんに任せた。
朝部活に顔を出してそのままドイツに行く。

鴉原でバレーをするのはこれが最後になる。
朝のミーティングでまずは言う、病気の事を。そしてドイツに行く事。

沈黙の中口を開いたのは大久保。

「大学は絶対こっち来いよ、絶対だからな」

「桐谷さん、ドイツ語喋れるんっすか?英語でも危ないって聞いたのに。俺そこが不安っすよ、そこらのチンピラに絡まれないか、いや、その前に身長が小さすぎてあっちでは逆に目立っちゃいます、日本に、戻ってくる時はあと10センチ伸ばしてきてくださいね」

「10センチとか難易度高くない?だって彰弥くん今170無いのに。第三成長期ぐらいこないと無理だよ、そんな、野望。あ、お土産はドイツの美味しいお菓子でいいよ?あと一年に一回は帰って来てよね?」

「あれっすか?もし20歳以上までドイツにいたら俺にビール買って来てくださいよ。ドイツの本場のビールちょー飲みたかったんですよね」

「あれか、飲み会しようぜ、帰ったら」

こいつら本当バカだな。
なんでお土産買わなきゃいけねぇんだよ、アホ。

「まずは俺にお土産でしょう。春高連覇」

「ひゅー。言うねぇ。まぁ、最高の土産をドイツに持ってってやるよ」

授業が始まるまでバカやって、父さんと蒼空と茄智と空港に行く。空港に行く途中蒼空に問いかけた。あの及川さんと俺はどういう関係だったのか。普通じゃない事もわかってる。だって好きな人を見る瞳だったから。もし、恋人だったら俺はどうしたらいいか分からない。勝手にドイツに行くし、記憶も無くしてしまった。このまま及川さんを思い出せなかったら俺は最低な人間だ。

「彰弥にぞっこん、おまけに束縛激しい、嫉妬深い、でもそんな及川さんをお前は大好きだよ」

「そうなんだ、想像つかない」

「そりゃそうだわな、茄智には猛反対されおまけに泣かれ、彰弥傷付けたら殺す。って脅してたぐらい。」

「さすが俺の妹」

空港につき、父さんが手続きをしている。
これから2年間以上は日本を離れる。バレー部と約束した、バレーを続けると。そしてバレー部も約束してくれた、春高連覇する。

行くぞと言われ

「彰弥、絶対治してね。わたしの事ちゃんと思い出すんだよ」

「うん、ありがとう。絶対思い出すね」

「定期的に連絡しろよー。あとあっちで人見知り発揮すんなよ、ぼっちになるからな」

「うるせぇよ」

「 ドイツ着いたら連絡してね、絶対だよ、夜中だろうが朝だろうが電話出るから」

「分かった、じゃあ行ってくるね」

俺はドイツへ行く。
記憶を取り戻しに。