籠の鳥3

残酷なのは、幻想を押し付けること。
残酷なのは、他人の心を土足で踏み荒らすこと。
主人が、それに気付いたのは、私を責め続けて10年も経った頃だった。
それも自分で気付いたわけではない。
私が口を開いて、やっと…だ。

謝罪?
そんなものは、もう遅かった。
壊された壁(本体が傷付かない為の心の壁)は、もう戻ることはない。
それでも、主人はもう、私の心に踏み入ることも、愛を強要することも、しなくなった。
ただ、傍にいて…私が生活出来るようにしてくれる…

そして私は、籠の鳥になった。
もう翼は折れ、どこかに羽ばたくことなど出来ない。そんな勇気もない。
それが私にとって幸せなことなのかどうかは分からないが、少なくとも主人は幸せそうだ。

今、私の心は、また修復に向かっている。
自分を嫌悪しなくていいよう、自分を否定しなくていいよう…ゆっくりとだけど回復している。
でも…たとえ回復したとしても、もう此処から飛び立つことは無いんじゃないかな。
だって此処は居心地がいい。
主人がお兄ちゃんみたいに接してくれるからね…

籠の鳥2

次に主人が責めたのは、私が恋愛感情を抱かないことだった。
想いを想いで返さない…
いや、返せないんだ。
だって私は、この世に私に向けられる恋愛感情があるとは思っていなかったから。
想いは、いつか消える…
放っておけば、次の人に向かう。
そう私は思っていたからね。

でも…私は私なりに、主人を大切に思っていた。
恋愛感情とは違うけれど…
しかし、主人は、それでは満足しなかった。
愛を私に強要した。
そして、何年も私を責め続けた。
主人を愛さない私を…

悲しかった…
大切に思っているだけじゃ、何故ダメなんだろうか?
どうして主人は、そんなにも愛に拘るのだろうか?
私を理解しない。それが愛なのか?
私に愛という気持ちを強要する。それが愛なのか?

愛とは何か?
私の思う愛は、相手を否定せず、いつでも見守ることだ。
でも主人は、私を否定してばかりだ。
それが本当の愛というものなのか?

私は次第に、主人に罪悪感を抱くようになった。
主人の思い描いた通りでない自分に嫌悪感を抱くようにもなった。
私は一人で良かったのに…
徐々に弱体化していく自分を感じて、私は悲しくなった。

籠の鳥1

主人は何度も言うようにロマンチストな男です。
だから最初、主人は私を理解出来なかった。
何故私が、恋もしていない相手に体を開くのかが分からなかった。
抵抗出来ない…泣けない…怖いという気持ちが分からなかった。

私が体を開く理由…それは諦めだった。
殴られるのが怖い…脅されるのが怖い…怒鳴られるのが怖い…怒りの雰囲気が怖い…
(嫌がって、そうされた経験がある)
私さえ我慢していればいい。
コトは、すぐに済むのだから…

そういう私に、主人は反感を抱いた。
性行為は気持ちが揃ってするものだ!
それが主人の持論だった。
私は何度となく主人に問い詰められた。
思い出したくない記憶…忘れかけていた記憶を何度も口にしなくてはならなかった。

そして傷つくんだ…
もう終わったことなのに傷つくんだ…
そして自責の念にかられるんだ。
私は私が汚らわしいことを再確認するんだ。

地獄がそこにあった。
主人は私を救うつもりだったらしいが、主人がやったことは、瘡蓋を剥がし傷口をえぐり、塩を塗り込む行為だった。

私は嘆いた。
犬に噛まれたと思えば終わることではなかったのか?
仕方ないことではなかったのか?そして思った。
やっぱり私が悪いんだと…
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