「おはよう!」
教室の扉を開いて入ってきたスザクが、ニコニコと明るい笑顔を浮かべてカレンとその隣にいたシャーリーに挨拶をする。
「おはよう、スザク。なんかご機嫌ね?」
「え、そう見える?」
「わかりやすいくらいね。ね、シャーリー?」
「うん。どうしたの?」
尋ねるとスザクの柔らかな頬の血色が良くなって、おや、とカレンは目を見開く。
「うん、あのね、その……カレンとシャーリーに、一番に報告したいことがあるの」
もじもじと照れたように笑うスザクは女であるカレンたちの目から見ても、文句なしに可愛い。
現に、輪に加わろうと近寄ってきたルルーシュも、スザクを見ると明らかにいつもより顔がデレデレとしている。
「どうしたんだスザク。ずいぶんと嬉しそうじゃないか」
「あ、おはようルルーシュ!そうだ、ルルーシュも聞いてよ」
「なんだ?そんなに嬉しいことなのか?」
「うん。ルルーシュは大切な幼なじみだから……知っててもらいたいんだ」
大切。
その言葉に浮かれた顔をするルルーシュを、カレンはつめたーい目で見つめる。
気付いたルルーシュは慌てて普段どおりのクールキャラを装うが、遅い。その証拠にシャーリーまでもが微妙な表情をしていた。
「っそ、それで何があったんだ?」
「あのね、実は僕……」
と、言いかけたスザクの後ろから巨大な影がヌッと現れた。
「おっはよ〜う!スザクぅ、会いたかったよ〜っ」
──ジノだ。
「ひゃあっ!」
ハートマークを飛び散らせながら後ろから思い切り抱き付くジノに、スザクは真っ赤な顔をして振り返ろうと身を捩る。
この距離感にカレンは違和感を覚え、しかし同時に以前よりも躊躇いなく抱き付くジノと、慌てたり恥ずかしがったりしながらも抵抗はしないスザクに何となく、わかってしまった気がした。
「やっ、ジノ!もうっ、離して……っ」
「やだ!あースザクやわらかい……」
「ば、バカっ!」
いちゃいちゃ。
そんな文字をカレンは幻視した気がする。
しかし、そこで空気を読めない男がいた。
否、スザクに恋するあの男は、スザクに関してのみは空気を読めなくなるのだ。
「な、なぁ……っ!?」
「7?」
古典的なボケで返すジノをブルブルと指差すのはもちろんルルーシュだ。
青くなったり赤くなったりしているあたりは、怒りやら『やわらかい』発言への羨みやらからだろう。
「き、貴様スザクになにをそんな、は、破廉恥なっ!」
ムッツリなお前のほうがよほど脳内は破廉恥だろうに。
とはカレンの心の声だ。
「なんかルルーシュお父さんみたい」
「おとっ……」
スザクの発言に落ち込むも、ポジティブシンキングな男はめげずにジノを睨みつける。
「おい!スザクから離れろ!迷惑してるだろう」
「え、スザク迷惑?」
後ろからジノが覗き込むとスザクは近くなった顔にさらに赤くなってブンブン首を振った。
「いっ、いやじゃないよ!ただ、教室とかは……恥ずかしいから……」
「スザク……うわあっ、可愛いぃいいいい!スザク、すっごく可愛い!」
「な……す、スザク!?」
大袈裟に愕然とするルルーシュを、哀れんだ目で見つめるクラスメイトが多数。
カレンはとりあえず目の前の男に現実をわからせてやろうと、まだいちゃいちゃするふたりに声をかけた。
「結局、話したいことってコレなんでしょ?スザク」
「あ、えっと……うん……そう、なんだ」
はにかむ姿に、なにがどう上手く転んだのかはわからないまでも、良かったと素直に安心した。
「おめでとう。ジノ、スザク泣かせたら許さないわよ」
「俺がスザクを泣かせるわけがない」
「自信家……」
お泊まり会には参加できなかったアーニャが、その鬱憤を晴らさんとばかりにジノとスザクを連写しながら呟いた。
そんな彼女を見下ろしながら、カレンはルルーシュに言い放つ。
「……と、いうわけよ。ルルーシュ、諦めなさい」
「は……?」
「理解が遅い……ジノとスザクは、今ラブラブ」
「……ほぁぁあああああっ!?」
カレンに続きアーニャが放った棘のある言葉を飲み込むまでに数秒。
ルルーシュは、素っ頓狂な声をあげてふたりを凝視するのだった。