「別れる」
その言葉に、息が止まるかと思った。
焦りも悲しみも動揺も押し込めて、話を聞こうと必死だった。
事の始まりは、自分の所為で。
あの子を責める資格なんて、自分には無い。
この詰めの甘さというか、あの子の心を乱す事に於いては、多々あることだ。

あの子が終わるときが、自分の死に時だ。
あの子の居ない世界で生きていくことは、もうごめんだ。
毎日のように、あんなにも死を夢見ていたことはない。
昔みたいに自らを傷付けることは無くなったにしても、ただひたすらに、ぼんやりと、自分が死ぬという想像をしていた。

色のない世界で、あの子だけが、きらきらしている。
あの子と過ごす毎日が、今まで見たこともないほど綺麗なものに思える。
この命は、あの子のためにあってほしい。
あの子の不安も恐怖も痛みも苦しみも全部請け負って、あの子が笑えるのなら、それでいい。
そんなことを言うと、あの子は大きな瞳から涙をこぼすんだ。

あの子は自分よりもあたしが大切だという。
命にも代え難い、宝物だと。
“たいせつ”が未だむず痒くて、違和感しかない。
自分を大切にしろ、とあの子も他の子たちもいうけれど、まだ本当にそれを理解してはいないのだろう。
自分の死を望まれたその瞬間から。
あの子にどれほど愛されているかを知りながら、自分に「死ね」と呟いたあの人たちを消そうと必死なんだ。

別れるなんて冗談ではない。
自分から離れるくらいなら、縛りつけてでもどこにも行かせない。
どうしても置いていくなら、その時はあたしを殺してからにして。

頭のネジが2本3本ぶっ飛んだと思われても仕様がない。
それでも、ただ思うんだ。
なまぬるい、べたべたした気持ち悪い愛情の皮を被ったエゴはもう必要ない。
あの子を殺して切り刻んで食べてひとつになれるような、そんな、溺れるような、どろどろとしたこの感情が心地いい。
細い首に手をかけて、力を入れれば、縋るように手を伸ばしてくる。
ただ、ただ、いとおしい。

離しはしない。
逃がしはしない。
ようやく、傍に居ることができる。
あの子の傍で笑えるなら、あたしはなにもかもを捨てて、その先へ進むだけだ。