自分の知らない、あの子の過去を思う度、ただ抱きしめるしかできない情けなさに苛立つ。
あの子でなくても、あの子たちでなくとも良かったはずだったんだ。
歪んだ愛情を受け止めるには、あの子は優しすぎた。

ここに来てもうすぐ2ヶ月が経つ。
自分の選択が正解だったのか不正解だったのかは、行き着いたその先でされる答え合わせでしか分からない。
逃げる道を選んだそこで、結局、あの子を地獄のような毎日にまた引きずり込んでしまったんじゃないだろうか。
不安の影は、いつだってちらつく。
ただ、一緒に居たいその一心で、その子の手を取って、飛び乗った新幹線。

「遠くへ行こう」

少し肌寒い、10月2日の早朝。
澄んだ空は真っ青で、とても遠かった。
憎らしいほどの快晴に、ただ、あの子を想った。
あの子と、あの子たちと一緒なら、どこへだっていけると思った。
不安が無かったわけではない。
寧ろ、不安しかなかったのかもしれない。
それでも、あの子の傍で、これから先、訪れる最後のその時まで、共に生きて死んでいけるなら、これ以上の幸福はないと感じた。

恐怖は無い。
生きていくなら共に。
死んでいくなら共に。
堕ちていくなら共に。
あの子を、ひとりではいかせない。

もう、いいんだ。
あの子は、もう、怯えるだけのあの子じゃない。
あの子の心は、誰にも汚せない。
汚させやしない。
あの子の心を守れるのなら、それでいい。