「あれ、王子じゃね?」
「マジだ!」
「ヤバイ格好いい!」

そんな声がヒソヒソと聞こえる中、柚多佳は至って平然と隣を歩いていた。
どんだけハート強いんだお前。

「りょう、顔色ヤバい」

それもそうだ。歩くだけでこんなに声が聞こえる事なんてないからな。

「気持ち悪い?」
「いや、大丈夫だ」
「流石スポーツマン」
「なんだよそれ」

少し背中を丸めて、そう会話をすると酸素が行き渡ったように頭がクリアになる。

「ショップまでもう少しだから、頑張れ」
「あぁ」

そうだ、俺はこの後、柚多佳の言っていたショップでモデルとやらをやらされるのだ。
服にあまり興味は無いが、柚多佳の頼みなら断ることができず、ずるずると此処まで来た訳。
バシバシと背中を叩かれて、その手を掴むと意外とというか、男とは違う女子特有の細さを実感する。
折ってしまわないように、慌てて手を離したが、このドキドキは伝わっていないかと不安になる。

「ったく、背中丸めてるから直してやろうと思ったのに」
「!悪かったな、姿勢悪くて」
「スポーツマンには致命的じゃね?」
「うっるせぇなぁ」

うん。案外普通に返せてる。良かった。赤面とかもしてないだろう。
まぁ怒ってるように見せて顔色は誤魔化してるけどな。
背筋を戻すと、柚多佳はけらけらと笑う。

「そう。モデルやるんだから頼むぜ?」
「やるんじゃなくて、やらされる、だろ」
「あー、あはは」
「笑って誤魔化しやがって」

柚多佳の頭を乱雑に掻き回せば、今度は俺が腕を掴まれる。
こうやって柚多佳とは接触があるのだけど、本人は全く気にした様子はなかった。藤代が抱き着いたりするせいもあるんだろうな。

ふと。
俺の腕を掴んだままの柚多佳は吃驚したように、俺を見上げる。

「なんだよ」
「…いや、やっぱ男子は違うな」
「は?」
「大した事じゃねぇよ」

ははっと笑った柚多佳は俺の腕から手を離し、前に回り込む。
そして意地悪そうに笑う。

「ショップの店長、オネェっぽいからな」
「っ!どういう注意だ」
「気に入られるだろうなぁって思って」
「はぁ?」





注意された通り、ショップの店長はオネェだった。
ガンガン胸筋触られた。