「どういうつもりだ!!説明しろ!!!」



ラビの怒鳴り声が辺りに響く。

ラビの右手には、怯えきった表情で奥歯をガチガチと震わせながらラビを見上げる探索部隊の胸ぐらが捕まれている。

そして僕の腕の中には……傷だらけで気を失っている、有紀。

有紀は気を失う前に阿修羅姫を発動させていた。
有紀が気を失っても阿修羅姫を発動した姿…長い髪や耳等の容姿が戻らないのは、阿修羅姫が有紀の傷の治癒を促しているからだろう。
現に有紀の体にある傷は、いつもより早い速度で治癒されていく。


アクマではなく、『仲間』によって受けた傷が。


それと同時に、阿修羅姫でコピーした黒い靴が霧のように消えていく。それを目の片隅で見送りながら傷の治癒とは違って適合者の意識がないと武器を構成する能力は維持できないと有紀が話していたな、と思い出す。




「何で有紀を撃った!?有紀は仲間だろが!!有紀が何したってんだ!!」



ラビが再び探索部隊に怒鳴りつけるように問う。
普段の友好的で、どちらかといえば穏和なラビとは正反対の怒り心頭した様子のラビに、探索部隊は「ひっ」と小さく短い悲鳴をあげる。

その手には、有紀を撃った銃がガタガタと震える両手で握られていた。

探索部隊は、ガチガチと奥歯を鳴らしながらも口を開く。



「し、仕方なかったんだ…もしあの人が暴走したら俺達が殺されちまうっ…!」

「有紀は暴走なんかしてねぇだろ!!ちゃんと阿修羅姫をコントロールしてアクマと戦ってたのが見えなかったのか!?それに、お前を守る為に駆け付け…」

「だからだよ!!助けに来たフリをして殺しにきたと思ったんだっ…暴走してないフリしてるだけだ…あの姿が証拠だっ…」

「てめぇ…いい加減にしろよ!!?見た目が変わったってだけで有紀が暴走してるなんて誰が決めたんさ!?」



ぶつぶつと怯えきった顔で、もう弾の込められていない護身用の銃を抱き抱える探索部隊は、ラビが何を言っても有紀は暴走しているの一点張りで聞く耳を持たない。

彼は新人らしく、阿修羅姫を発動させた時の有紀のあまりの力の大きさに、味方であるにも関わらず自分を守る為に駆け付けてくれた有紀を見て自分を殺しにきたと錯覚し、撃ったらしい。装填されていた全ての弾丸が尽きるまで。

有紀は仲間に撃たれた事に動揺してそれを避けきる事が出来ずに撃たれた反動で着地に失敗して、頭を打って気を失ってしまった。


完全に錯乱している探索部隊に、ラビは何を言っても無駄だと判断したのか深い溜め息をついた。



「…アレン、有紀は?」

「大丈夫、ちゃんと呼吸もしてるし怪我ももうほとんど治ってます。有紀は僕が宿に運びますからラビは彼をお願いします」



僕は淡々と、そうラビに告げてから有紀を横抱きにして歩き出した。一切後ろを振り返らずに。
歩き出す時に、普段なら僕の方が怒り任せに探索部隊の彼を怒鳴りつけると予想していただろうラビが少し戸惑った様子で僕を見ていたのが目の片隅で見えたが、僕は歩みを止めなかった。

振り返ったら、怯えている彼を責めてしまいそうだったから。
有紀が、それを望まない事も知っているから。







**********
月明かりが優しく部屋に射し込む頃に、有紀は目を覚ました。



「…あ、れ?ここ…」

「目が覚めましたか?」



きょろきょろと不思議そうに辺りを見回す有紀に、微笑みながら声をかける。
有紀はその金色の瞳に僕を映すと、どこか安心したように微笑み返してくれた。



「アレンが運んでくれたのか?ありがとう…ごめんな、迷惑かけて」

「そんな事無いですよ。むしろそれこっちの台詞ですよ…あんな沢山のアクマが一気に出てきて、有紀が来てくれなかったら探索部隊も僕らも無事じゃすまなかったと思う」



実際、僕とラビだけで街の人々と新人の探索部隊を守りながらアクマの群れを相手にするのはなかなかに苦労した。
リナリー達とは別行動をしていたのもあって、二人だけで全てのアクマを破壊するのに時間がかかっていた。
そこに有紀が阿修羅姫を発動して駆け付け、街の人々と探索部隊を守りつつ阿修羅姫で力を増した黒翼で僕らをサポートしながら戦ってくれたおかげで大きな被害も出さずに済んだ。
なのに…



「…傷、痛みませんか?」

「ん?大丈夫大丈夫、もー完全に治ってっからさ!」



言いながら有紀は大袈裟に腕を振り回しながら笑う。
本当に治っているみたいで、僕は安堵の溜め息をついた。



「…ありがとうな、アレン」

「え?」

「約束、守ってくれてさ。阿修羅姫が夢の中で教えてくれた」



約束。

それは、有紀が初めて阿修羅姫を発動したあの時に密かに交わしたもの。

『もし、有紀が暴走したと判断して有紀に武器を向ける人がいても、その人を責めないでほしい』という、有紀の願いでもある約束。



「阿修羅姫はさ、俺から見ても強すぎる力があるし…もし暴走したらって考えたらさ、誰だって怖いと思うんだ。強い力に恐怖を感じるのは普通の事だ。恐怖から自分の身を守ろうとするのも。俺だって同じ立場ならきっとそうするさ」



有紀が目を細めて微笑み続ける。
でもその微笑みは、僕には泣いているように見えた。

寂しそうで、悲しそうな微笑み。



「そりゃ撃たれたりしたら俺も痛いけどさ…俺はそう簡単には死なないから。それに、きっといつか皆にもわかってもらえるって思うからさ、コイツの事を。狼牙との事も…きっと…」


言いながら、有紀は胸元にあるらしい阿修羅姫の刻印にそっと触れた。



「俺は大丈夫。だからさ、アレン…泣かないで」



有紀の右手が僕の頬を伝う涙を優しく拭って、有紀の左手が怒りと悔しさを抑える為に強く握り締めすぎて爪が食い込んで皮膚が裂けた僕の右手に触れる。

有紀の手から淡く優しい、暖かい光が溢れて僕の傷を癒してくれた。
この治癒を促す能力も、阿修羅姫の能力だ。



「ありがとう、アレン」



有紀はまた、優しく微笑んだ。

一番悲しいのは、彼女自身なのに。

一番心身共に痛い思いをしたのは、彼女自身なのに。





阿修羅姫は確かに強大な力を持っている。
だが、それと同時に優しい力も持っているんだ。

今、僕の傷を優しく包んで癒してくれたように。

それは彼女の『家族』である狼牙と引き換えに得た悲しい力でもあるけれど。




わかっている。
皆が皆、それを知ってもそれを信じてくれないかもしれない事くらい。

僕も有紀も、わかっている。

人間の心は、そんな簡単に変わったり出来ないから。


それでも、そうだとわかっていても有紀は…彼女は、





彼女はしく微笑んだ。





いつか、わかってもらえる日が来ると信じて。







**********
わー久々に小咄書いたらわっけわからんわー書き方忘れた感(汗)

原作でもアレンが幽閉されたりとかあったので、有紀なんてもうそりゃもう阿修羅姫が覚醒してしばらくは周りから怯えられてただろうなーと思って書いた…はずなんだ←

でもね、やっぱり仲間だから。
未来ではわかりあえると信じたんです有紀は。

実際こっから信頼されますからねバッチリと(笑)


ちなみに有紀を撃った探索部隊くんは神の使徒である有紀を撃った罪でリストラされます。
ジョニーが飲まされかけた記憶消す薬飲まされて一般人にリターンしました(ちょ)


あーいつか手直ししたいかもコレ(汗)


つか絵がまるで有紀がしんだみたいで紛らわしい(←お前が描いたんやろがい)