スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

愛し

先生、そろそろわたしを見て。
わたしに気付いて。
今、距離はどのくらいだろう。
わたしはどのくらいあなたから離れただろう。
もしもまだ手の届く距離にいたら
お願いだからわたしを引き寄せてよ。
声が届く距離にいたら
行かないでって言ってよ。
それも駄目なら
その自慢の足でわたしを追いかけて
捕まえたら叱って。
そして一緒に、生きるか死ぬかの選択に悩んで。
なんてわたしは馬鹿なんでしょう。
なんてわたしは我儘なんでしょう。
もうわたしにはあなたが見えもしないのに。
わたしの想いは腐っていくだけなのに。
なんてわたしは馬鹿なんでしょう。
なんてわたしは我儘なんでしょう。
続きを読む

黄金色の迎

僕は舞い上がりながら、ああこれか、と妙に納得していました。
アデューアデュー
僕は幸せを撒き散らすような気持ちで、そう歌っていました。
だってそれまでの僕と言ったら、全くこの瞬間のことばかり考えていたのだから。

僕はいつか、彼女の元に行く。
彼女はいつか、僕を迎えに来る。
その時は遅かれ早かれいつか来るのだから、その時には僕を止めても無駄だと、僕は身近にいた人(例えば母)に説いていました。
それを聞いた人は皆、馬鹿なことを言うな、と僕をたしなめるか、彼女を思い出して涙ぐむかでした。

そしてその日、僕にはそれが夢か現実かさえわかりませんでした。
空を舞うあの子の影は、僕の足下を暗く照らしました。
自慢の綺麗な金髪をなびかせてくるりくるりと舞いました。
この海が真っ赤に燃え上がる頃、ここまで降りてきて、そっと僕の手を取りました。
続きを読む

奪い取るファイナル(※YJ)

それは僕のものだったのに、横恋慕したのはあの人じゃないか。
そりゃ、最初は僕がそうだったのだと、それは仕方ない、認める。
うん、僕って大人。
彼に近づくために一生懸命背伸びして繕って、やっと手にいれたものを、彼が真剣に奪い去っていった。
その真剣さは、仕方ない、認める。
僕は大人。
だけど譲れないよ。
こんなのいたちごっこかもしれないけれど。
今それが彼のものなら、横恋慕しているのは僕なのか。
それは僕のものだったのに。
続きを読む

幼恋慕

貴方が毎朝城の誰よりも早く起きて、庭に作らせたコースを走り、使用人が起き出す前に隠れるように部屋に戻って、あたかも今起きた体を装うのを、他の誰が知っていたでしょうか。
誰が知らずとも、わたしは知っておりました。
地道に努力する姿を見られたくなかったのでしょうか、主人より早く起きるべきである使用人に気を使ったのでしょうか、どちらにしても、わたしにはそんな貴方が微笑ましくありました。
だから大切な大会のこの日、わたしは誰よりも、貴方よりも早く起きて、いつものように練習をする貴方にお言葉を差上げたかったのです。
いつもならなるべくわたしを視界に入れないようにする貴方は、今日もやっぱりそのようでした。
わたしを一瞥すると、迷惑そうな、不審な目を反らして、溢すようにお早う、と仰有いました。
仰有った癖に、わたしの言葉を待たずに、貴方は走り出しました。
わたしは貴方が走っているのを初めて同じ目線で眺めながら、わたしは貴方に何と申せばよいのか、それすら考えていなかったことに自ら呆れておりました。
貴方はいつもと同じコースをいつもと同じように走り、やがてわたしの元に帰って来てくださいました。
わたしは思っておりました。
貴方はわたしを遠ざけようとなさるけれど、何だかんだ言って結局いつもわたしの元に帰って来てくださる。
息を切らした貴方は立ち尽くすわたしをやはり一瞥して、首に巻いていたタオルで額を拭いました。
わたしは何を申そう。
お疲れさま、やら、今日は頑張ってください、やら、適当そうな言葉はいくらでも浮かぶのに、そのどれも適切には思えない。
ただその言葉は頭で考えるより前に唇を割っていました。
「お慕い申し上げております」
たとえ親が決めた縁談だとしても。
貴方は驚いたような顔でわたしを見上げて、少しの間の後で、うん、とだけ頷かれました。
わたしの頭はもう違うことを考えておりました。
例えば、そう、次の朝には、貴方にかけて差し上げられるタオルを忘れずに持ってこよう、とか。
続きを読む

わたしの愛しい

「僕が望んだのはそんなことではない」
彼はそうきっぱりとわたしの申し出を断りました。
自分はそれほど愚かではないという主張と同時に、わたしの決断を真っ向から否定したのです。
わたしが傷ついたのは言うまでもありませんが、しかしそれよりも彼の強い意思に深く感動させられていました。
彼はいつだってわたしの後を着いてきました。わたしの指導、言い付けに忠実に従ってくれました。
わたしがそれを喜ばしいことと判断するのは、それが自分にとって都合よく、また心地のいいことだったからです。
しかし本に彼のことを憂うわたしならば、少なからずその所動的、器械的な彼の態度を危惧していたのです。
あるいは、彼はわたしの他に新たな指導者を見つけただけなのかもしれません。
それでも彼がわたしに、このようにはっきりと自分の意思を見せつけるのは初めてでしたから、ただそれを尊重してあげたい、そう思うのはごく自然で、致し方ないことでした。
しかしそれを簡単に正しいことと結びつけてしまえるほどに、わたしはまだ幼すぎました。
続きを読む
前の記事へ 次の記事へ