銀神/門限破り





時刻は7時ちょっと過ぎ。
俺は一人ソファーに座り貧乏揺すり。とてつもなくイライラしている。




門限破り





今日神楽は遊びに行った。確か場所は公園だと言っていた。よっちゃん達と缶けりするネー!とか言って大はしゃぎで家を飛び出ていったのを覚えている。そしてそんな神楽に俺は 6時までに帰れよ!と叫んだことも覚えている。言ったのだ、確実に。ジャンプを読みながらではあったがそれだけは絶対だ。多分。
…いやでも言った気がしただけだったのだろうか。本当はしっかり伝えられていなかったのだろうか。それとも俺は言ったけどアイツに届かなかったのだろうか。
いずれにせよ門限破りは門限破りだ。いつも遊びに行っても6時までには帰ってこいと脇が酸っぱくなるまで言って聞かせていたのだから。
しかし、今は7時過ぎだ。アイツは帰ってこない。


「ちっ、ったく!」


とうとう痺れを切らした俺は気がつけば家を飛び出ていた。外を夢中で駆けていた。
ただただ、無事でいて欲しいと、彼女の無事を祈って。
公園に辿り着くとひたすらに探し回った。息を切らして彼女の名前を呼びまくった。すると、後ろから俺の探し求めていた声が聞こえた。


「銀ちゃん」
「!」


俺を呼ぶ声はいやに楽しそうで。バカにしているのかという感じだった。


「はぁ…お前…何してんの」
「いひひ、来てくれたアル」
「…はあ!?」
「迎えに来てくれたアル」


訳が分からなかった。俺はこんなに必死だと言うのに、目の前の彼女は楽しそうに笑っているのだ。訳を聞けば彼女はわざと帰らなかったなどとぬかした。元々訳の分からない少女ではあったがここまで訳が分からないのは珍しい。今日の神楽のおかしさは今月のベストスリーくらいには入るだろう。


「銀ちゃんが捨てないかなって」
「は?」
「私が帰ってこなくても探しにきてくれるかなって」
「神楽?」
「銀ちゃん来てくれた、えへへ」
「…心配して損した」


一気に馬鹿馬鹿しくなった。心配なんかして本当に損をしたと。こんなことなら家でゆっくりジャンプでも読んでれば良かったと。
いやだがしかし神楽は一丁前に俺を試していた訳だ。俺がちゃんと神楽を必要としているのかを試していたのだ。これで俺が神楽を探しに来なかったら下手すれば家出するとか言い出していたかもしれない。これはこれで良かったのかも…。


「さっ、帰ろっ」


この厄介娘。何て回りくどいやり方をしやがるのだ。14の娘に振り回される俺って一体…。

















-エムブロ-