土沖/愛し愛され




それは、きっと数えたらキリがない程ではあると思う。しかしそれを改めて聞かれるとは思いもせず。


「土方さん、土方さんって過去の女経験いくつ?」
「え」



愛し愛され







正直言うと過去の女経験は数知れず。荒れまくっていた頃の俺は相当の数の女と遊んだ。総悟と付き合うまでは女は取っ替え引っ替えで、なかなか自分に合う女が見つからずにイライラしていたものだ。まさに来るもの拒まず、去るもの追わずという感じで。女が寄ってくれば大抵向こうも体目当てだ。求められれば俺も求められた分だけ求めた。そこに決して愛なんてものはなかったのだけど。昔の俺にとって女なんてものはただの自分の欲を満たすためだけの道具みたいなものに過ぎなかった。
そんな俺がどうしたことか。すっかり総悟に落ちてしまって。これほどまでに人が愛しいと思ったのは初めてだった。その辺については総悟には感謝してもしきれない。
俺達は普通に好き合って愛し合っていた。それまではそんなこと気にする感じもなくただひたすらに。総悟も、ただただひたすらに俺を求め、受け入れてくれて、触れられたくない部分には触れては来なかった。そんな総悟がついに聞いて欲しくない事を聞いてきた、それも一番聞いて欲しくはなかった事。


「あ、え、あー…よ、よく覚えてねーな」
「正直に言いなせェ」


あからさまに何か不機嫌そうだ。誰か総悟に何か変なことを吹き込んだのだろうか。だとしたらそいつ突き止めてぶっ飛ばしに行かなくては。どうせ昔付き合っていた女か何かだろう。総悟に嫉妬して俺達の仲を引き裂こうって魂胆か。そうは行くか。
しかし、とにもかくにもとりあえずこの状況をなんとかせねばなるまい。


「あ、あ〜…二桁くらい?」
「……細かく言うと?」
「や、あの多分、30、くらい、だと思う、います」
「ああそう」


それだけ言うと総悟は座ったまま俺に背を向けて黙り込んだ。総悟の無言の怒りが一番恐い。よっぽど直接言ってくれた方がいい、それほど総悟の沈黙はビビる。

な、何か言わねば。
これ以上この沈黙に耐えるのは不可能、俺の精神が持たない。


「誰に、何言われた」
「……」
「総悟」
「…アンタの、昔の女を名乗る奴に会いやした」


やはりそうか。
話を聞けば偶然その女に出くわし、総悟が今の俺の恋人と分かるやいなや俺が昔遊んでいた事を暴露したらしい。どうせお前も捨てられる、と。
それを聞いて不安になったのだろう。当たり前だ。目の前の総悟はいつものように自信に満ちた奴ではなく、何とも珍しい弱々しい姿で涙を流して震えていた。しかし口だけは相変わらず達者で。俺は土方さんの過去の女数なんて気にしないですよ、と。震え声で言っても全然説得力なんて無かったが、逆にそれが可愛らしくて。


「ばかだなあ総悟」
「ばかはあんたでィ」
「まぁな、確かに」
「…アンタが俺を捨てるときは、俺がアンタを捨てる時でさァ」
「おぅ」
「捨てられる前に、捨ててやらァ、覚悟しやがれ」
「おぅ」
「…信じてますぜ」
「…おぅ」


そう言って抱きついてくる総悟はお世辞なしにホントに可愛くて。総悟は総悟なりに俺の事を大事に思ってくれてるのだと感じたらとてつもなく嬉しくなった。普段の顔からは見えることのない、弱いお前。俺にだけ見せる顔が見えれば見えるほど自分は特別なんだと自惚れたりする。
恋って、素晴らしい。愛って、気持ち良い。
なんてらしくもない事を考えながら俺は総悟を抱き締めて目を瞑った。





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土沖
かあいいよぅ^p^









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