銀神/朝起きて君がいる幸せ





朝起きても一人じゃない、それがどんなに幸せな事か。
朝起きたら誰かが"おはよう"って言ってくれることがどんなに幸せな事か。私は知っている。



朝起きて
君がいる幸せ






子供の頃はひとりぼっちだった。私と同い歳くらいの子の笑い声がただ外から聞こえてくるだけで、私はひとり、家の中でずっとひとりぼっちだった。
皆私を恐がって逃げる人達ばかりで、友達もいない。パピーもマミーも兄ちゃんもいない。
ひとりだった。寂しかった。
朝目が覚めても、おはようと私に声を掛けてくれる人はいない。誰もいないのだから当然だ。それがどんなに寂しい事か、私は知っている。目が覚めても食卓にもうご飯が並んでるなんて事も当然ない。静まり返る部屋にカチャカチャ、と食器の音だけが響き渡るのだ。
寂しかった。
それでも弱音は吐きたくなかった。それでも、私はパピーと兄ちゃんの帰りをずっと待ってた。待っていたんだ。



「…ら…ぐらちゃん…」
「ん、んー…」
「神楽ちゃん起きて、もう朝だよ」


パチッ!と自分でも驚くくらいすっきり目が覚めた。
嫌な夢を見た。ひとりぼっち立った頃の、夢。


「おはよう神楽ちゃん。ほら、もう朝ご飯出来てるから」
「…朝…ごはん?」
「そうだよ?覚めちゃう前に食べよ」


そう言われて押し入れを飛び出し食卓を見てみると、ほんとに朝ごはんが並んでいた。私の好きなお茶漬けもある。
そうだ。さっきのは夢、ただの夢だったんだ。ほら食べよ、と私の背中を押す新八の手が温かくて安心した。
こっちが現実だ。あの頃の辛い、ひとりぼっちとの闘いはもうない。私には、もう一つの家族が出来たから。ここには温かい食事も、温かい家族も、私が欲しかったものが全部ある。
時々あの夢を見て、不安になるけどそんな必要ももうないんだ。そう言えばさっき新八がおはようって言ってくれた。


「し、新八。おはよう!」
「ん?うん、おはよう」


よし、これで新八には挨拶が出来た。自分がしてもらえることがこんなに嬉しいんだ、きっと相手も嬉しいはず。
そうだ。肝心の奴がいない。見当たらない。どこだ。
慌てて居間を飛び出すと広い胸板にぶつかった。銀ちゃんだ。どうやら厠に行っていたらしい。


「銀ちゃん!」
「お、神楽。はよ」「おっおはようアル!」


どうしたんだ今日コイツ、とでも言った顔をされるかと思いきやそんな事はなく寧ろ逆だった。まるで私がさっき見た夢の事も、私が今何考えてるかって事も全部分かっているかのような顔をして、銀ちゃんは優しく笑うと私の頭を撫でた。するともう一度、銀ちゃんは私におはよ、と言った。なんて幸せ。意識して無かったせいで気付かなかったけどこれだけのやり取りが、ここの空間が、こんなにも心地良いものだなんて。
新八も笑ってた。皆して私の考えてる事なんてお見通しみたいな顔してて少し癪だったが今日は気分がいいので見逃す事にする。






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銀神というより万事屋?
家族いいよ家族














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