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――イロハ・シティ「西門」外


「――お姉さんを、助けてほしいの」

黄金色の稲穂畑を前にして、しゃんとした着物をすっかり汚してしまった幼い少女・ノルアが、マルー達にこう声をかけた。突然言われた「お姉さん」という単語に、マルー達はいまいちぴんと来ていなかった。


「お姉さん達はあの……アスカお姉さんのお友達、でしょう? だから――」

「アスカだって!?」
「アスカですって!?」
「アスカさんだってー?」

「アスカに何があったの!? 教えてノルアちゃん!!」

「――番人さんから、お姉さんの様子を見られるから――」

「番人さんってあの、かかしみたいな、あれ?」

ノルアの言葉を聞いたマルーが、遠慮がちに番人さん――マルー達にとってはかかしに見えたらしい――を指す。


「こいつ、この間襲ってきたやつだよな」
「また襲ってこないでしょうね?」
「平気じゃないー? 多分」

「……どうして皆私の後ろに隠れるのさ」

「そんなに怖いの? 番人さんのこと」

「え? そんなことないよ? ねえ、皆?」

「「 …… 」」

「だからどうして私の後ろに隠れ――!!」

マルーの文句をよそに、番人さんはマルー達との距離を詰めてきた。マルー達より二回り大きいそれは、傘帽子を被っているせいで表情が読み取れない。


「番人さん、お姉さんお兄さんの為に、アスカお姉さんの様子を見せてあげて?」

こうノルアが言うと、番人さんはその場で跳ねて自分の足元を地面に突き刺しそして、その場でぴったり90度回転!
マルー達に棒先を向けた。

「ここから見られるから――」

ノルアが言うは、番人さんがマルー達に向ける棒先。そこはよく見ると、片目程の大きさをしたレンズが埋め込まれていた。
マルーは恐る恐る、番人さんのレンズを覗き込む――



─━─━─━─━─

イロハ・シティの、西の外れ。

そこで決闘が行われていた。


一方は、白い獣のような光を全身にまとった、双剣を使う少女。
もう一方は、影のような光を使いこなす、ローブの人物だ。

互いの力は一歩も譲らず、何度も何度もぶつかり合う。この戦いに進展は無く、互いの体力をすり減らすばかり。


「はぁ、はぁ――」

「おや? これからが良いところじゃないか。もう限界なのかな?」

ローブの人物がこう、肩で息をする少女を見て言い放った。
振る舞いも口調もいたって落ち着いているその人に対し、少女は立っていることがやっとようだった。


「――それでも、戦わなくてはいけません」

  あの子の願いと

  私の家族の
   仇のために――



「そう。ならいい」


 ――この場で殺してやろう


「また私の頭の中に話しかけ――い、いない!」


少女がローブの人物の声を認識したときには遅かった。
ローブの人物が姿を消したからだ。


「一体どこに――現れなさっ! 」

「ふふ。また引っかかってくれたね? 」

「(う、動けない、なんて)」

「私から目を離した瞬間」

「(背中が、暑、い……)」

「君の負けだよ」

「 !! 」


少女は黒い炎に包まれた。
暗闇の底から湧いたような色が、少女がまとう白い獣を焼き尽くす。
そして黒い炎は、容赦なく少女の背を焦がしていった。

ピリピリと続く痛みを訴えようにも、少女は全身の動きを封じられていた。それゆえに声を上げられず、もがくことも許されなかった。



「ふふ――」


やがてローブの人物は、自ら放った黒い炎を、腕振りひとつで消し飛ばす。


「このくらい焼けば、君はもう助からないね」

「い――!!」

「ああ可哀想に。どんなに痛くて苦しくても、声を上げられなければ助けも呼べない――」

赤黒い背中を触って確認したローブの人物は、少女に背を向けて歩き始めた。すると、少女は硬直から解かれ、大きく崩れ落ちた。
崩れ落ちた音を聞いたローブの人物は、身体半分、少女へ振り向く。


「どうかな? 動けるようになった気分は」

「……」

「おっと。意外と繊細なんだね。肌がなくなるだけでこんなにも動けないなんて……でも心配することはない。じきに君は救われる。君が信じる、君を愛してくれた者達にね」

こう言いながら、ローブの人物は西へ歩を進めた。



「(不覚でした。私が隙をみせてしまうなんて……)」

 でも――

「(あんなやつと戦えるのは今、私だけ。だから――)」


少女は、意識がもうろうとしている中でも、ローブの人物が歩んでいる方へ顔を向けそれから、びりびりと痛む身体を少しずつ起こした。

「(ノルアの願いが詰まった「あの場所」へは、どうしても、行かせる訳にはいかない)」

想いを胸に立ち上がり、息を大きく吸いこんだ。


「待ちなさい! 」

こう叫んだ少女は、一歩。また、一歩。脚で地面を踏みしめた。

「まだ……終わって、いませんっ」

一方、ローブの人物は――少女の声が届いていないのか――振り返ることなく歩み続けていた。無反応なその人に、少女はめげずに声を上げる。

「あの樹には……指一本も、触れさせません。触れようとするなら、私が、動けなくなるまで……」


「倒してしまえばいいのだろう?」


「 ――!! 」

声の方へ振り返ろうとした瞬間だった。


「がっ!」
「ぐふっ!」
「がっは――」

少女の背へ、腹へ、そして背へ、芯のある衝撃。


「(いつの間に私、宙を浮いている――?)」

「おかしいなあ。反応が良くないね」

「 ?! 」

こう言われてすぐ入ったかかと落としは、少女の腹に向かってローブの人物が放ったものだった。


「さっきまでの蹴りも今のかかと落としも避けられたろうに」

こう言ったローブの人物は少女が落ちる先で「にやり」と笑い構えた!


「とどめだ」

ローブの人物は、両手で生み出した黒い火の塊で、少女を前へ突き飛ばす!


「ぁあ゛あ゛あああ――!!」


黒い火は少女を飛ばし、消えることなく覆いつくした。



「――これで、あの子がもう二度と、私の手を煩わせることはない」

こう言って、ローブの中で小さく笑ったその人は、少女を飛ばした方向へとゆっくり歩き出した。









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