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――イロハ・シティ 西の外れ



「皆早く! 戦ってるアスカを助けないと!」


マルー率いるサイクロンズと、イロハ・シティの幼い姫ノルアは、黄金色の稲畑の中を急いでいた。かかしに似た「番人さん」から、アスカが苦戦している姿を見せてもらったからだった。


「ちょっと待ってよお! あたし、足遅いんだからあ!」

「遅いとか言ってられねえぞ!」

「何よボール! 美人がピンチだからって」

「危ない所を助けに行くのは普通だろが!」

「そうだよリンゴ! 今は美人とか美人じゃないとか関係なしだよ! アスカは仲間だから! 仲間だから、絶対見捨てない!」

こう、マルーは仲間達の志気を高めようと、声を上げていた。


「皆待ってー。ノルアちゃんのことも、気にしてあげてー」

「大丈夫です。アスカお姉さんの為に、皆急いでくれているから――」

「でも、靴をはかないで走るのは大変だし、皆がこのかかしさんより前を走ってるのは――ほらー、かかしさん、止まっちゃったよー?」

「本当だ。番人さん! どうしたの?」

突然止まったかかしの番人さんを、ノルアが心配そうに覗き込む。
それを見た、ノルアと一緒に走っていた少年は、「皆待ってー」とマルー達に声をかけた。

「何よリュウ! あたし達は急いでいるの!」

「でもー、このかかしさんが止まっちゃったからー」

「番人さんは番人さんだよ?」

「そー? このかかしさんは番人さん――あ、動き出した」

勝手に動き出した番人さんは、マルー達の左を、少し避けて通った。こうして、番人さんが、サイクロンズの先頭を進む形に。


「どうしたんだろう。さっきより少し左を進んでいるよー?」

「もしかすると、アスカお姉さんがあっち――左方向――に大きく動いたのかも」

「とにかく、番人さんについていかないとだねー。ノルアちゃん、おぶっていくよ。僕の背中に乗ってー」


ノルアは、あのように言ったリュウへ小さくお礼を言うと、彼の背中を覆うように乗っかった。リュウはノルアをしかとおぶり、立ち上がってそれから番人さんを追いかける。

「皆ー。ぼーっとしていないで、早くー」

こう言ってリュウは、マルー達を追い越した。

「あっ! リュウ待ってよー!」

「――とにかく急ぐぞ」
「分かっているわよ!」


─━─━─━─━─


「ふふ――」

草原をさっそうと歩く、ローブの人物。
向かうは、丘の上に立つ、花も葉も生やさない樹。

「ついにあの樹は、私の物だ」

つぶやきながら、途中の小川を軽く越え、丘のふもとまでやって来ると。


「おや――可哀想に。ぼろぼろじゃないか」

ローブの人物は、しゃがんでこう言った。
言葉をかけられた者は、長い黒髪の少女。身体中、火傷で傷ついており、特に背中は、真っ黒に焼け焦げている様だった。
ローブの人物は、火傷を負った少女に冷ややかな目を向けると、立ち上がり、丘の上の樹へ向き直った。


「邪魔をする者はいない」

ローブの人物がつぶやき、片手の平を樹に向ける。
やがて、樹の周辺で少しずつ、地中がうなるように音をたて始めた。


「この樹は根こそぎ、私の物――」


うなりがやがて大きくなると、ローブの人物は広げている片手を、じっくり上へ挙げていった。すると、この手の動きに合わせて、樹とその周りの地面が、ゆっくりと、浮き上がっていった。
この様を見る「当事者」は、ローブの奥でにやりとする――。



「ちょっと待ったあああっ!!」



突然だった。叫び声がローブの人物の耳を突き抜けたのは。
その声は拍子抜けするほど明るく、樹の周りの地面までも黙らせるほどだった。


ローブの人物は、声がした方に顔を向ける。その方向からは、おさげの少女を始めとした五人の少年少女と、それより二回り大きい十字の体をした物体が、こちらに向かっていた。
五人の内、四人の少年少女は、それぞれ違う武器を持ち、目線はローブの人物と丘の上の樹に向いていた。そして四人は、左手首に――色は違えど――スカーフを巻いていた。


「その樹に、何をするの」

こう問いかけるおさげの少女こそ、先程まで稲畑を駆け抜けていた「マルー」である。マルー率いるサイクロンズは、目的地に到着したのだ。


突然現れた集団を「敵」と捉えることにしたローブの人物は、マルー達の方へ身体を向け、しかと地面を踏んだ。それを見た彼女達に緊張が走る。


「あの人、やっぱり怖い……」

こう言ったのは、マルー達をここまで連れて来た少女・ノルア。この場所とシティをがむしゃらに往復した為、着物はすっかり土埃にまみれてしまっていた。

「あの人なんだね。ノルアちゃんが見た人」

「うん。お願い、やっつけて!」

「……大丈夫。あとは僕達に任せて。ノルアちゃんは、かかしの番人さんから、離れちゃダメだよ?」

こく、とうなずいたノルアは、十字の物体――かかしの番人の後ろに隠れ、少しずつ後ろへ下がっていった。


「リュウったら、そんな大口たたいて大丈夫なの?」

「心配しないで。作戦があるんだ」

「その作戦、信用して良いんでしょうね?」

「お前うるせえぞ。あの服装を見て分からねえのか」

「もちろん、それは……分かってるわよ」

「ならもっと引き締めろ。油断できねえんだからよ」


「――皆、準備は良い?」

こう言ってマルーは、両手剣をローブの人物に向けて構えた。そして、三人もそれぞれの武器を構えた。


戦いの場は、整った。



「待って――!」

そのとき、戦いの場に少女の声が投げかけられた。
声がした方では、丘のふもとで倒れていたはずの、長い黒髪の少女が、マルー達に目を向けていた。


「 アスカ!! 」

黒髪の少女を見たマルーが真っ先に応える。

「私達、アスカを助けに来たよ! だからもう安心して!」

「ダメですっ! あなた達じゃまだ、この人には――」

言いかけている時だった。黒髪の少女・アスカが、ローブの人物がサイクロンズの方へ歩んでいるところを見たときは。
ただただ歩くその人は、丘から少し離れ、それから静止した。正面は、マルー達に向けて。


「お願いですからマルーさん! 皆さん! どうかここは、引いて下さい……」

「そんなことはできないよ。私達は、アスカと、ノルアちゃんの願いを守る為に来たんだから。引くなんてことはしない」

「そんな……」

「君達は――」

突如一言。アスカの願いをかき消すように、ローブの人物が言葉を投げかけた。


「君達は、この子の仲間なのかな?」










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