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魔法使いの挑戦と少年の決心




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「ふう、散々だったぜ。熱気がすげえし、あの窓微妙に届きづれえし――いでっ」

ボールがフライトの訓練場に入ろうとすると何かにぶつかった。顔を上げたものの、目の前は開け放たれている。


「おかしいぞ、部屋に入れねえ。まるで何もないところに壁が張ってあるような――」

入り口で試行錯誤するボールに、リュウの声がかかる。彼は部屋の中にいた。

「これどうしたんだよ。入れねえぞ」

「ボール……あのね、僕がこれをたくさん押しちゃったから、僕達ここから出られなくなっちゃって。今、何とかしようと、的に向かってリンゴが魔法を出しているんだ」

「魔法?」

ボールは見たい一心で部屋を覗いてみると、火の玉が的を外れ、床に落ちていく様子だけを見ることが出来た。



「あぁ、また落ちちゃったね……」

「もう一度よ!」

リンゴは魔法を発動させるため、木の杖を両手に集中をする。


「(熱い……リンゴから熱気が――)」


杖の先にだんだんと炎が集まり、それは火の玉に変わってゆく!

「さあ! これがあたしの“ホノオ”よ!」

杖の先に出来た「ホノオ」は、リンゴの一声で的に向かって一直線! しかしそのホノオは的に近づくにつれ、横にそれていく――。


「あぁもう! また落ちちゃったじゃない!」


それからも何度もホノオを放ち続けるが、いくらやっても途中で勢いをなくしてしまうのだった。リンゴの表情が曇る。

「一体、どうすればいいの……」

「リンゴ、一回休憩しよ?」

「……そうね。少し、休憩」

リンゴは崩れるように床にしゃがみこんだ。息を整えようと必死である。



「むー。リンゴ、大変そうだよー」

「お前のせいでこうなってんだぞ。何か手助けしてやれよ」

「そう言われても、向こうにはたどり着けないし、飛び出た床は登れそうじゃないし――」

「その床、どの位の高さなんだ?」

「全部同じ高さだよー」

「全部? っつーと、同じ高さの床が、たくさんあるってことか?」

「うん、いっぱいあるー」

「……そうか! おいリュウ、二人を呼べ!」

「二人共ー! ボールが呼んでるよー」

「ボール……?」
「機械室から戻って来たんだ! どうしたの!?」

「聞こえるか!? そこから場所を変えろ! 的との距離を縮めるんだ!」

「的との距離を縮める……?」

「そっかー。的に自分から近付けば――」

「当たりやすくなるっ!」

感付いたマルーが軽々と、別の盛り上がった床に飛び移る!


「リンゴ! こっちに来て!」

「ここから飛び移るなんて! 落ちたらどうするつもりよ!」

「私が受け止めるから心配しないで! さあ!」



リンゴはためらいを持ちながらも足を引き、構えた。


「はぁぁぁぁあっ!!」


リンゴは勢いよく飛び出した!


「よしっ!」

そしてマルーが手をとる!


「やったね! 上手く飛び乗れたよ!」

「ひとつ先に進んだだけで、こんなに距離が変わるのね」

「リンゴ!」

「ええ!」

リンゴは改めて、杖を両手に合わせた。


「これで決めるわ! 行けっ“ホノオ”!」

リンゴのホノオが飛び込むように的へ向かってゆく! そしてホノオは見事に的の中心を焦がす!

「当たったわ! やったぁ!」

「リンゴ! 床が下がっていくよ!」

盛り上がっていた床はそれぞれの速さで下がってゆく! マルー達は見事、挑戦を成功に収めたのだった。



「ああ疲れた! リュウのバカ!」

「ごめんー」

「とんだ災難だったな。でもすげえぜ! 見直しちまった」

「それはどうもっ! ……それで、機械室の小窓はどうだったのよ」

「おう、それが……」

─━─━─━─━─


――フライト「機械室」


「へえ! ここは棚になっているんだ!」

ボールが手にかけた小窓は外に繋がっておらず、手の平大の棚になっていた。

「ここからズラーっと、こういう棚になっているんだぜ」

「すごいねー!」
「それに、どこから見ても分かりにくいものね!」

「じゃあ、この蒼い玉を入れてみて!」

マルーがボールに蒼い玉を手渡す。


「ちゃんと収まったぜ。それにしても、きれいな色してるよなあ――」

「……ちょっとマルー! ボールの意識が飛んでるわよ!」


「大変っ!」すぐ近くにいたマルーが意識もうろうのボールを棚から引き下ろした!


「いっってっ――!!」

「良かった! 大丈夫そうだね!」

「……うっす」

仰向けに倒れたボールの上に、マルーが覆うように乗りかかっている。薄暗い機械室の中で、マルーの笑顔がひときわ眩しい。


「あら! いいカンジ!」
「何がー?」

「あんたは分からなくていいのよ――二人共! さっさと起きなさい!」

「ごめんごめん! ……さて、今日は帰ろっか!」

マルーはそう言いながら立ち上がりスカーフを腕から外す。一方ボールはその場で座り込んだまま動こうとしなかった。


「(くそ、あの日から――)」

 あいつの自由研究に
  付き合ってからだ――

「(あいつの顔が……眩しく見える)」



「――! ケン! どうしたの座り込んで?」

ボールが気が付いた頃、マルーが作ったアースへの扉は開かれており、その扉の前でマルーが手を差し伸べていた。

「別に」
返事をしたボールは自ら立ち上がり、マルーの横を黙って通り過ぎてゆく。



─━─━─━─━─

「じゃあ、また明日!」

「また明日ね、マルー!」

「ケンまたねー」

「じゃあなタッツー」


ローブンから帰って来た四人は、それぞれ帰路についた。
マルーとケンが二人きりになる。


「あーあ。まさか俺の時計が電池切れだったとはな」

「でもリンのおかげで時間が分かったよ! 向こうに丸一日いても、こっちの世界では四時間くらいしか経たないって!」

「そうだな――」

一番強い日差しを真正面から受けるケン。それは痛いほど自然に、ケンの目を細めさせた。


「なんか俺ダメだな。全然役に立ててねーや」

「そんなことないよ! さっきのアドバイス、とっても助かったよ!」

「別に。つーか俺は劣っている」

「……どうしてそう思うの?」

「アイツがただの人間じゃねーからだよ」

「アイツ?」

「俺はな、ここの世界の人間――つまり俺達が、魔法を使うなんて無理だと思ってたんだ。でもアイツが。よりによってアイツが、さっきのように簡単に利用しやがってる」

「簡単じゃないと思うよ、魔法。だってリン、大変そうだったもん」

「その大変さすら感じられねえ俺にとっちゃあ。正直、悔しい」

「ケン……」

「だから決めたんだ。俺も覚えてやるって」

「まさか、魔法を?」

「ああ。アイツに出来るなら俺にも出来るはず――絶対覚えてみせる」

「何を覚えるつもりなの?」

「人を助けられる魔法をひとつ――いや、ふたつみっつ、それ以上。あるだけの魔法をだ」


ケンがマルーに向き直った時、彼の夜のような瞳には日差しが宿っていた。
それを見たマルーは、再び輝く笑顔を彼に向け、うなずく。

「頑張って! 私、応援する! そういう魔法があるなら助かるし、意外と優しいとこがあるケンなら、きっと覚えられるよ!」

「なんだよその、意外とかきっととか――」

「あれ? 変なこと言ったかな、私?」

「言っただろ――おい待て逃げるな!」





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Episode49 魔法使いの挑戦と少年の決心

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