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プロローグ

00_プロローグ

砂塵、黄塵、風塵、
熱砂、黄砂、白砂、
見渡す限り、砂、砂、砂、

見よ我が青き故郷(ほし)を、とメッセージを飛ばした宇宙飛行士が見ればさぞかし嘆くだろう。

青い星は、今や見事な砂の星となり果てた。
きっと宇宙から見れば、着古した下着のような、黄ばんだ白に見えるに違いない。

かの偉大な発明家にして、芸術家であり、政治家でもあった偉人の予測は見事に的中したという訳だ。

彼は言った。世界を巻き込んだ三度目の戦争は、人類が経験する戦争の中でもっとも悲惨なものとなるが、四度目の戦争は石の投げ合いになるであろう、と。

幸いにして、 石を投げ合うまでには至っていないが、そう言ってみたところで、五十歩百歩。
世界終末大戦こと、通称第三次大戦により世界は焦土と化し、栄華を誇った時代は軽く百年単位で衰退を遂げた。

しかし──

砂と機械

01_砂と機械

砂ばかりの大地を白い影が、滑るように進む。

その姿まさに飛燕の如し、と当時の開発者達は自分たちの業を讃え合ったそうだが、そんなことはどうでもいい。

翼長三メートル、薄く長く引き延ばした楕円形のフォルム。
厚さ〇.七メートル。横から見れば見事な流線型の飛行する機械。
それが、地面間近──一メートル有る無しの辺りを飛ぶ姿は、確かにツバメを彷彿とさせる。
だが、肝心要のツバメなる生物を知っているものは、残念ながらこのご時世極少数。
あまつさえ、カイト(凧)と呼ぶことが定着してしまっては、もはや形無しといった所だ。


そのカイトの背に、青年が乗っている。

砂が作る激しい地形に対して、時速六〇キロという移動速度は、なかなか易しくはない速度だが青年は平然としていた。
丁度、陸上競技のクラウチングスタート似た、前のめりの搭乗姿勢を崩さない。

砂と風の境界線を疾走する。
飛んでくる砂を避けるためぐるぐると顔へ巻き付けた布、その隙間から覗く偏光レンズがはめ込まれたゴーグルの奥の眼が、すっと細まった。
青年が動く。
後方へ重心をずらし、腕で機首を上げ、カイトの腹へ風を当てる。
彼が纏った着練りのずた袋のようなコートが、風で派手に孕み、うねった。進路に対し、機体を立てる。

そうすればカイトが、正に名の通り。凧と言うからには風を受けて空へと登る。
今まで切り裂いていた風に押し上げられる形でカイトが高く舞い上がった。

- - - - - - - -

「さて、」

目測高度一〇メートル。一息に高さを手に入れた青年は、マスクの中でちらりと唇を舐めた。カイトのコントロールパネルは青年の目的の位置座標の一歩手前を表示している。
このままの進路で、距離にして一〇〇メートル弱。
その地点が目的の場所。

とは言え、そこへ何かがあるわけではない。大陸のあらゆる陸地という陸地に人が暮らしていた旧世紀とは違い、今や見渡す限り砂漠と荒れ地しかないのだ。

だが、その地点を通過することに意味がある。

前世紀の遺物

理由は至極簡単、気づかせるため。
しかし、いくつか注意事項がある。
一つは、素早く通り抜けること。

カイトは、青年が機体を水平に戻したことも関係し、上昇をぴたりと止めた。
宙に浮いた物体の、次なる行動は決まっている。世界が一度壊れたとはいえ、物理の法則が崩壊するまでは至っていない。

重心を前に。
機首から降下の軌道を描く。
向かい来る風、地上からの上昇気流、それが重要。
カイトの駆動機関には、通称向風エンジンが使われている。

これもまた名の通り。
機体前方から吹く風を機体開口部から取り込み、タービンを廻し発電。その電力と流入する風で、取り込んだ空気を圧縮、機体後方のスリットから噴射し推進力を得る。
前世紀に流行った重力制御システムと比べれば、遥かに原始的なものだが、それは技術的な話であり使う分には困らない。

むしろ、飛行においては向風エンジンの方が優れている……と、これは青年の主観だが。

一時落下を描いたカイトは両翼に風を掴むや滑空へと動きを変え、風を食らう。
砂ばかりの地表が滑るように迫り──目標地点。
同時、砂は黄ばんだ白ただ一色の色と化す。
フルスロットル。滑空と共に溜め込んだ空気を一気に解放。
その加速は、瞬く間に景色を吹き飛ばす。
「来た!」
既に通り過ぎた、目標地点を振り返り青年は叫んだ。

叫ぶ声が吹き飛んで行く先で砂が小高く盛り上がる。一瞬で砂の尖閣をへと成長したそれは、次の瞬間、長く伸び上がった身をくねらせ砂を振り払った。

ここで注意事項、その二が出てくる。
決して止まらないこと。
さもなければ、重低音の唸りを上げて動き出したそれの突進に巻き込まれる。

現れカイトを追い猛然と追いすがって来るのは、砂色の芋虫。
そう呼ぶのが一番しっくり来る。
ただし、この芋虫は生物ではない。
獣はおおかた滅びた現代でも健在な芋虫そっくりな姿だが、体表は金属繊維による布で構成され、中身も合金と半導体やらの塊だ。
体液の代わりに電気が流れている。
前世紀の遺物。あるいは置き土産。
つまり──世界を焼き払った戦争で使われた兵器。
ただ追ってくる辺りこれは、末期の代物だろう。
最盛期のものは、友軍識別がないものが近づけば容赦なく、光学兵器を使う。

「さて、……やるか」
カイトを──自分自身がその鉄の芋虫に認識しされたのを確認し、青年は布の下で唇を舐めた。

修正

「砂ネズミの穴ぐら」というタイトルでUPしていたページを丸まる削除。
ちょっと別な流れに変更します。
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