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それでは師匠シリーズいってみよう。
(・e・)

傷 4

俺は半年目にして初めて敷地の外に出る事になった。




門の外にマサさんの車がある。


俺は手渡されたアイマスクをして、目を閉じて結界を越えた。


粘り付くような、厚いビニールの膜を押し破るような強い抵抗を感じた。


マサさんに習った「技法」に従って、丹田から両手に「気」を集めて熱を持たせ、その手で「膜」を破って俺は結界の外に出た。


結界の外に出た瞬間、俺は意識を失った。


気が付いた時、俺は車の中だった。


運転しているのは行きに付き添ってくれたキムさん。


頭がガンガンする。


酷い船酔いをした時のように目が回って気持ちが悪い。


「調息」を試みたが全く効果がない。


今にも吐きそうだ。


俺はマサさんに渡されたビニール袋に大量に吐いた。


吐いた後、暫くすると鼻血が出てきた。


「もう少しだから我慢しろ」とマサさんが言う。


キムさんがマサさんに「この兄さん、持たないんじゃないか」と言う。


マサさんが


「一通りのことは出来るから大丈夫だ、手伝ってくれ。」


と答えた。


やがて車は狭い空き地に着いた。


車が一台止まっている。


行きに乗ってきたキムさんの車だ。


若い男が車外でタバコを吸っている。


キムさんに指示されていたのだろう、2リットル入りのミネラルウォーターのペットボトルが2本入ったビニール袋をマサさんに渡した。


マサさんはボトルの中身を捨てると神社?の階段を昇って行った。


キムさんは、俺を神社の階段の前の石畳の上に寝かせ、頭頂部と胸に手を当てて、半年間毎朝行ってきた瞑想と呼吸法が合わさったものを行うように言った。


キムさんの手を通じて頭から冷たい気、胸からは熱い気が入ってきた。


やった事がなければ判らないが、両手に冷・熱両方の気を通す事は非常に難しい。


俺やPなどは「熱」は作れても「冷」の方は殆ど出来ない。


キムさんも俺たちと同様の修行をした事があり、恐らくは今でも継続していて高いレベルにあるのだろう。


暫くするとマサさんが水の詰まったペットボトルを持って階段を下りてきた。


どうにか落ち着いてきた俺は一本目のペットボトルの水を鼻から飲み込み、 限界まで飲み込んだら吐き出すということを3回繰り返した。


2本目のボトルの水は、マサさんとキムさんが、俺の全身に吹き付けた。


それが終わると俺は階段を昇って神社の境内に入り、「激しい」呼吸・瞑想法を行った。


3時間ほど続けると俺は完全に回復した。


若い男が用意してあったGパンとTシャツ、ジャンパーを着て車を乗り換えて俺達は出発した。


キムさんの家で丸三日休み、俺とマサさんは女のマンションの部屋に向かった。


女はここ暫く出勤していないそうだ。


女の在宅はキムさんの方で確認済みだった。


マサさんがインターホンを鳴らす。


訪問は伝えてあったのだろう、女は俺たちを部屋に招き入れた。


女はやつれていたが、かなりの美人だった。


ちょっと地味だが清楚で上品な雰囲気。


とても風俗で働くタイプには見えない。


やつれて憔悴してはいたが、目には強い力が在った。


非常に綺麗で澄んだ目をしていて、見ているだけで引き込まれそうな魅力がある。


凄まじい霊力を持っていると言われれば納得せざるを得ないものがあった。


しかし、この女からは人を恨むとか呪うといった「邪悪」なものは微塵も感じられなかった。


ドアを開けたとき女はギョッとしたような顔をしていた。


マサさんと話しをしている時も俺の事をしきりと気にしている様子だった。


思い切って俺は女に理由を尋ねてみた。


女は震える声で語った。


女の話では、ホテルが建って暫く経った頃から、昔住んでいた家の夢を良く見るようになったそうだ。


家の中には幼い自分一人しかいなくて、家族を探して広い家の中を歩き回るのだと言う。


そして、いつの間にか目が覚めて、涙を流しているのだと言う。


ある晩、酷い悪夢を見たそうだ。


風呂場と自分の部屋で繰り返し、何度もレイプされたのだという。


夢と現実の区別が付かないほどリアルな夢だったそうだ。


気が付いた時、自分の手に刀が握られていたそうだ。


彼女は恐怖と怒りや憎しみで我を忘れて、彼女を犯した男を切り殺したと言う。


その男が俺だったと言うのだ。


それ以来、彼女は毎晩悪夢に襲われるようになった。


客に付いた男達が彼女を酷いやり方で襲ってくるのだという。


彼女が恐怖と絶望の絶頂に達した時に手に刀が握られていて、彼女は恐怖と怒りに駆られて、我を忘れて刀を振るったのだと言う。


しかし、その悪夢は一月ほどすると見なくなったと言う。


その代わりに急に体調が悪くなり、仕事中にボーッとして、接客中の記憶をなくしてしまうことが多くなった。


生理も止まってしまったらしい。


また、彼女は暫くすると新しい悪夢を見るようになったそうだ。


目の前に小さな男の子が2人いて、自分はいつもの刀を持っている。


そして、鬼の形相の亡くなった父親が彼女を棒や鞭で叩きながら目の前の子供を斬り殺せと責める。


父親の責めに負けて刀を振るおうとすると母親の声がしてきて止められるのだという。


マサさんは女に


「あなたのお父様は自殺なさったのではないですか?お母様もそのときに一緒に亡くなられたのではないですか?」


と尋ねた。


マサさんが言うとおり、彼女の両親は彼女の父親の無理心中により亡くなっていた。


彼女の父親は朝鮮人に対して激しい差別意識を持って嫌っていたらしい。


しかし、彼女の父親に金を貸したのは在日朝鮮人の老人だったそうだ。


彼女の祖父に戦前世話になった人物で、破格の条件で金を貸してくれていたそうだ。


バブルの絶頂期、手持ちの株などを処分すれば、それまでの借金は十分に返せたと言う。


彼女の母親も強く返済を勧めていたそうだ。


しかし、彼女の父親は


「朝鮮人に金を返す必要などない。」

「家族のいない爺さんがくたばればチャラだ。」


と。


借金を踏み倒す気でいたらしい。


彼女の父親の話は聞いていて胸糞の悪くなる話ばかりだった。


彼女も母親は慕っていたが父親の事を嫌っていたようだ。


バブルが弾け彼女の家の資産は大きなマイナスとなった。


マイナスを取り返そうとした父親は悪あがきをして更に傷口を広げた。


金策が尽きた父親は老人に更なる借金を申し込んだが、断られた。


その過程で彼女も借金の連帯保証人となった。


彼女の父親は娘を連帯保証人にしても当たり前で、借金を断った老人と朝鮮人を呪う言葉を吐き続けたそうだ。


間もなく老人は亡くなり、相続した養子も不況の煽りで破産した。


老人の持っていた債権は悪質な回収屋の手に渡った。


土地や屋敷を失い、それでも残った多額の借金に追われ自殺した彼女の父親の遺書には恨み言しか書かれていなかったそうだ。


彼女は母親の死を知っ時、勤務していた会社の給料では借金の利息も払いきれず、風俗で働く事が決まったとき自殺を考えたらしい。


しかし、その度に母の霊に止められたそうだ。




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傷 3

マサさんの話の宗教観ないし心霊観は正直、俺にはピンと来なかった。




ここに書いた話も正確に再現できているのか心許ない。


ただ、傷が楽になってきているのは確かなので、そんなものなのか、そんな考え方もあるのだなと思った。


マサさんの話では「内」の傷が治っても「外」の傷はそのままでは治らない。


そのまま放置すると「井戸」の影響で「外」の傷から「内」を侵されてしまう。


傷は早急に治さなければならない。


マサさんは家の表に出て一斗缶の中に火を起し、鉄の中華鍋のようなものを炙り始めた。


やがて鍋が焼け、鉄の焼ける独特なにおいがしてくると、鍋の中に白い粉末を入れた。


石臼で擦った「塩」らしい。


それを一斗缶の火が消えるまで何かを唱えながら混ぜ続けた。


火が消えると黄色い粉末を一つまみ塩に振りかけた。


「硫黄」だという。


鍋を缶から下ろすとペットボトルに入った水を鍋の中に注いだ。


塩の量が多くて全然溶け切っていなかった。


マサさんは俺達に服を脱げと言った。


猛烈に嫌な予感がした。


そして、予感は的中した。


マサさんは、手で掬った「塩」を俺達の傷に塗りつけ、物凄い力で擦りつけた。


湿って乾き切っていない瘡蓋とも膿みの塊ともつかないものが剥がし取られた。


酷くしみる。


焼けるようだ。


傷の数も面積も大きいPは目を真っ赤にして声も出せないようだ。


マサさんは鉄鍋の中身がなくなるまで交互に擦りこみ続けた。


その晩はひりひりと痛んで眠る事も出来なかったが、あれほど治らなかった傷は3日ほどで瘡蓋が張り、更に1週間ほどで綺麗に治ってしまった。


マサさんの話によると、死霊や自縛霊といったものは、鉄杭で七方の地脈を絶って、一方向を開けて、霊格や神格の高い神社仏閣との間の地脈を開いて繋げる事で、1年ほどで浄化されてしまうらしい。


浄化された土地に、お寺から貰ってきた護摩や線香の灰や神社から貰ってきた水を撒いて鉄杭を抜けば「普通の」土地になるらしい。


呪詛には呪詛返しの方法があり、生霊は、祟っている方か祟られている方のいずれかが死ねばそれまで。


色々方法があるらしいが、人形などの身代わりと火を使う方法が良く使われるのだという。


この辺りは日本も朝鮮もやり方は大差ないらしい。


元々、日本の神道の形式と朝鮮の呪術や儀式の形式は良く似たもの多いのだそうだ。


故に日本の祈祷師や拝み屋と朝鮮のそれは素人目には区別がつかない事も多いのだという。


俺にはどちらも良く判らないのだが。


生霊が「場所」に憑くというのは比較的、珍しいらしいのだけれども、多くの場合は上記の自縛霊に用いた方法と人形を用いた方法の合わせ技で浄化できるのだそうだ。


いずれにしても、これらはマサさんの仕事の範疇ではないらしい。


マサさんが扱うのは、儀式を踏まないで神社や祠を破壊して「神」を怒らせてしまったり、盗まれてきた神社の「御神体」や寺の「ご本尊」を知らずに買ってしまって「一族」が根絶やしにされるような祟りを受けた場合だそうだ。


話を聞いた時「そんな罰当たりな真似をする奴がいるのか?」と聞いたら、 朝鮮人には神社仏閣に盗みに入って盗品を売り捌いたり、神社や祠に火を放ったり破壊したりする輩が今でも少なからずいるそうだ。


自分の中に「神」を持たない故に、他人や他民族の宗教や信仰に対する配慮や、その対象に対する「畏れ」に著しく欠けているのだと言う。


「畏れ」のあるなしに関わらず、そんな真似をすれば日本人でも地獄行き確実で救い様がないけれど、先日書いたように高位の「神」の助力が得られない朝鮮人の場合は更に深刻で、一族全てが祟られて絶えてしまう危険があるらしい。


一族を絶やすようなレベルの祟りになると地脈や鉄杭を用いた方法では浄化以前の「鎮める」段階で100年、200年といった時間がかかってしまうし、一族に祟りが行き渡り絶えてしまう。


特に祟りの元となったもの、祈りや信仰の対象であったものを「物」として「金で買う」と言う行為は、非常に強い祟りとなるそうだ。


霊力の高い品物だと移動する先々で祟りを振りまき「売買」される事により纏った「穢れ」により、非常に性質の悪い悪霊となってしまうのだそうだ。


だから、出所不明のアンティークの品物、特に宗教に関わる品物は売り買いしない方が良いらしい。


マサさんが「祟られ屋」だと言うのは、金銭やその他の対価を受け取って儀式(内容は判らない)を行い、その一族の代わりにマサさんの一族が祟りを受けるからだ。


マサさんと例の「井戸」は繋がっていて、マサさんを通して井戸に送り込まれた「祟り神」は祟りや呪いだけを井戸の「悪霊」に吸い取られ、結界の外に拡散してゆくのだと言う。


井戸の中にはマサさんの父親の遺髪と血、マサさんの髪の毛と血と臍の緒が入っているらしい。


これは聞き出すのに苦労した。


鉄杭の結界は「神」や「清いもの」は外に通すけれども、「穢れ」や「悪霊」は外へは通さない。


外からは引き寄せているらしい。


簡単に言うとそんな原理らしい。


マサさんがPと俺を呼び寄せたのは、Pの一族(父方)は朝鮮半島にいた親類縁者が朝鮮戦争で死に絶えてしまっており、Pは一人っ子で、Pが死ぬとP一族が絶えてしまうかららしい(母方の一族、嫁いで家を出た女は関係ないそうだ)。


俺がPと同様に呪われた原因は、Pから祟りに関連して金銭を受けた事によるらしい。


ただ、事故や病気(癌や心筋梗塞、脳溢血)といった形ではなく、外傷という形で現れた非常に稀なケースらしい。


そして、生霊と女の家の「守り神」がどうやら一体化しているらしい事。


「神」の霊力も強いが、生霊を飛ばしている女の「霊力」が非常に強いらしい。


しかるべき修行をすればテレビに出ているインチキ霊能者が束になって掛かっても適わないレベル。


その霊力ゆえに「神」と一体化したとも言える。


P家に売り込みに来た祈祷師のオバサンも、市井にいる祈祷師・霊能者の中で、彼女よりも強い霊力を持つ人は10人いるかどうかというレベルの力を持った人だそうだ。


ただ、傷を受けた原因は俺とPの個人的要因もある。


俺はユキと何度も交わる事により精力や「気」を極度に浪費していた事、Pは深酒をして酒気も抜けていないような状態で、しかも寝不足で、俺と同様に非常に「気」の力が落ちていた事だ。


俺達のように極端な例は稀だが、薬物や大量のアルコールで精神のコントロールや気力が下がった状態、荒淫によって精力を浪費した状態で心霊スポットなどに足を踏み入れる事は「祟り」や「憑依」を受ける危険や可能性が非常に高くなって危険なのだと言う。





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傷 2

Pの話だと、俺たちの傷は医者に治せる類のものではないらしい。




放って置けば傷はどんどん深くなり、やがては死に至ると…。


そして、「祟り」の性質から、普通の拝み屋や祈祷師には手は出せないらしい。


だが、Pのオヤジさん、商工会の会長の伝で朝鮮人の起した祟りや呪といったトラブルを解決してくれる「始末屋」がいるらしい。


Pはその始末屋のところに一緒に来いと言う。


そこに行けば3ヶ月から半年は戻って来れないという。


俺は迷った。


しかし、あのホテルでの出来事や傷の事、Pの様子から俺は腹を括った。


俺は勤め先に辞表を出して、Pと共に迎えの車に乗った。


その紹介された「始末屋」がマサさんだった。


半年間、俺たちはマサさんの下で過ごし「機」を待った。


色々と恐ろしい思いもしたが、半年後、事件は解決した。


事件の解決についてはマサさんの下での生活の話しを読んでもらわなければ判りにくいと思う。


迎えの車が来る前に、俺たちは付き添いのキムさんの用意してくれた黒いスウェットのパンツとトレーナー、サンダル履きの身一つの状態にされた。


そしてキムさんの車に乗って出発。


高速に乗って二つ先のインターで降りた。


車はインター近くの大型電気店の駐車場に入った。


キムさんは俺たちに便所に行って来いと言った。


車に戻ると後部座席に座らされ、薬を飲むように言われた。


睡眠薬だと言う。


俺たちはキムさんの言葉に従った。


薬を飲んで暫くすると睡魔が襲ってきた。


目が覚めた時、俺たちは工事現場などのプレハブ事務所のような建物の床に転がされていた。


少し離れた所に体格の良い40代位の男が胡坐をかいて座っていた。


この男がマサさんだった。


俺が体を起こすとマサさんは無言で冷蔵庫を開けペットボトルの水をわたした。


喉が焼け付くように渇いていた俺は2リットル入りのペットボトルの半分以上を一気に飲み干した。


やがてPも目を覚ました。


Pが水を飲み終わるとマサさんが始めて口を開いた。


「カンさんから話しは聞いている。」

「私の方で調べて状況も判っている。」

「私の指示には絶対に従ってもらうが、判らない事があれば聞いてくれ。」

「長い付き合いになる、遠慮はしなくていい。」

「仕事に差し支えない範囲で要望も聞こう。」


「随分と回りくどい連れてこられ方をしたが、何か意味はあるのか?」


「君たちに取り憑いているのは一種の生霊だ。」

「そっちの兄さんの実家とホテルの部屋を浄化した水を君達に飲んでもらった。」

「キムさんの家に泊まって飯を食っただろう?ガッチリと取り憑いてはいるが、念には念をってやつだ。」


「ふざけるな、何でそんな真似を!」


「生霊って奴は案外視野が狭い。」

「取り憑いたら人にせよ場所にせよ、それしか目に入らない。」

「君等がキムさんの所にいる間にホテルと実家に結界を結んだ。」

「他に行き場のない生霊は君たちに取り付いているしかないが、君達がここに来るまでの道程も、帰る道も判らないように、生霊にも間の道はわからない。」

「とりあえず呪いも祟りも君達止まりで、君等が取り殺されない限りは他に害は及ばないよ。」

「家族が助かったんだ、問題ないだろう?」


…あまりの言葉に俺たちは絶句してしまった。


『…問題大有りだろ!』


言葉を失ってしまった俺たちにマサさんは服を脱げと言った。


もう、まな板の上の鯉の心境。


俺たちはマサさんの言葉に従った。


マサさんはバリカンと剃刀を持ってきて、俺たちの髪の毛と眉毛を剃り落とした。


そして、筆と赤黒い酢のような臭いのする液体を持ってきて、腹ばいに寝かせた俺たちの背中に何かを書き出した。


乾いた文字を見ると十字型に並べられた5文字の梵字だった。


「何ですか、これは?」


「耳無し坊一の話は知っているかい?」


「平家の亡霊から姿を隠す為に全身に経文を書いたのでしたよね?」

「これは俺達に取り憑いた生霊とやらから身を隠す呪文か何かですか?」


「ちょっと違うね、まあすぐに判る。」

「この液体は皮膚に付くとちょっとやそっとでは落ちないけれど、これから行く所では護符が消えると命の保障は出来ないよ。」

「薄くなったらすぐに書いてあげるから気を付けてね。」


マサさんは俺たちの髪の毛とシェービングフォームを拭き取ったタオル、着てきた服とサンダルを火の入った焼却炉に放り込むと、腰にタオルを巻いただけの俺たちを車に乗せた。


車に乗ると俺達はアイマスクをさせられた。


暫く走ると舗装道路ではなくなったのだろう、車は酷く揺れた。


砂利道に入って5分もしないうちに車は止まった。


マサさんは俺達に少し待てと言った。


車外からはハンマーで鉄を打つような音が聞こえてきた。


実際、長さ50cm、直径5cm程の鉄の杭を地面に打ったのだという。


鉄杭を打つ事で地脈を断ち切り、外界とこの敷地を切り離しているのだと言う。


この敷地にはこの様な鉄杭が他に7本打たれているとマサさんは語った。


この敷地自体が一種の結界なのだと言う。


俺達はこの敷地から一歩たりとも足を踏み出す事を禁じられた。


敷地の中には普通の民家と大きな倉庫のような建物があった。


民家と倉庫の間に立って、マサさんが敷地の奥の方を指差した。


岩の低い崖の手前に小さな井戸のようなものがある。


実際それは深い井戸らしい。


直径は60cm程でさほど大きくはない。


その上には一抱えほどもある黒くて丸い、滑らかな表面をした、直径80cmほどの天然石で蓋がしてあった。


井戸の周りには井戸を中心に直径180cmの円上に八方に先程と同じ鉄杭が打たれていると言う。


マサさんは井戸には絶対に近づくな、出来る限り井戸を見るな、井戸の事を考えるなと言った。


井戸に引かれるのだと言う。


そして、もし万が一、井戸に引かれる事があっても鉄杭の結界の中に入るなという。


Pがあれは何だと尋ねた。


マサさんはこう答えた。


「地獄の入り口だ。」


と。


季節はまだかなり暑い時期だった。


山に囲まれてはいるが、それほど山奥と言う感じではない。


まだ日も高く、日差しも強い。


しかし、この敷地に入って車から降りた時から何かゾクッとする寒気のようなものを感じた。


流石に、俺にもPにも判っていた。


この土地の「寒気」の中心があの井戸であることが。




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傷 1


以前、俺は韓国人の「祟られ屋」の所に半年ほどいた事がある。




その「祟られ屋」を仮に「マサさん」と呼ぶ事にする。


マサさんは10代の頃に日本に渡ってきた、在日30年以上になる韓国人。


韓国人には珍しい「二文字姓」の本名を持つ一族の出身で、在日朝鮮人実業家に呼び寄せられた先代の「拝み屋」だった父親に付いて来日したらしい。


「マサさん」というのは、その風貌から。


現役時代のマサ斎藤というプロレスラーに似ているから。


俺はある事件で「祟り」に遭い、命を落としそうになった事がある。


その事件が生涯初めての霊体験であり、マサさんと知り合うきっかけになった。


今日はその事件について書きたいと思う。


俺の古くからの友人にPと言う在日朝鮮人の男がいる。


Pの実家は、焼肉屋にラブホテル、風俗店や金貸しを営む資産家だった。


P家の経営するラブホはカラオケやゲーム、ルームサービスも充実して流行っていた。


「事件」があったのは、そんなP家の経営するラブホの新店舗。


新店舗もオープン当初は立地条件も良く流行っていたらしい。


しかし、ある時を境に客足がガクッと落ち込んでしまった。


まあ、お約束ってやつかな。


どうもそのホテル「出る」らしいんだ。


そのホテルに出るだけじゃなく、Pの実家の婆さんが亡くなり、お袋さんは重度の鬱病、親父さんも胃癌になるといった具合に身内の不幸が重なった。


地元の商店街ではPの家が祟られているという噂が流れていたようだ。


そんな地元の噂を聞きつけたのか、拝み屋だか霊媒師だかのオバサンがPのところに売り込みに来たらしい。


そのオバサンはPらのコミュニティーでは金には汚いけれど「本物」だという事で結構有名な人だったようだ。


自信たっぷりに


「お前の所に憑いている悪霊を祓ってやる、失敗したら金は要らない。」

「成功したら500万払え。」


と言って来たらしい。


P本人は信心深いタマではなく、ハナッから相手にする気はなかった。


タカリの一種くらいにしか見ていなかった。


しかし、Pのオヤジさんは病気ですっかり参っていたせいもあって、このお祓いの話に乗り気だったらしい。


それでも500万という金はデカイ。


社長はオヤジさんだが、馬鹿な無駄金を使うのを黙って見ている訳には行かない。


そこで、Pは俺に


「報酬10万に女も付ける、出るという噂の部屋に一晩泊まってみてくれ。」


と頼んできた。


ガキの頃から知っている俺が泊まって、何もなかったと言えばアボジも納得するだろうと。


万が一、本当に出たらオバサンにお払いを頼む。


出なければシカトして500万は他のラブホの改装の足しにでもする。


俺はオカルトネタは大好きだけれど、霊感って奴は皆無。


心霊スポット巡りも嫌いじゃないので快諾した。


Pに頼まれた翌週末、午後8時過ぎくらいにPの知り合いが経営する韓デリの女の子と落ち合って、問題のホテルの508号室(角部屋)に入った。


部屋に入った時点では霊感ゼロの俺が感じるものは特になかった。


ただ、デリ嬢のユキちゃんはしきりに「寒い」と言っていた。


夏とはいえキャミ姿で肩を出した服装。


「冷房がきついのかな」位にしか思わなかった。


エアコンを止めてもユキちゃんが「寒い」と言っていたので、俺たちはバスタブに湯を溜めて風呂に入った。


バスルームでいちゃつきながら口で1発抜いてもらって、ベッドで3発やった。


部屋にゴムは2個しかなかったので3発目は生だった。


ユキちゃんはスケベですごいテクニシャン。


3時間以上頑張って流石に疲れて、1時くらいには眠ってしまった。


どれくらい眠っただろうか。


俺は、耳元で爪を切るような「パチン、パチン」と言う音を聞いて目が覚めた。


隣で眠っているはずのユキちゃんがいない。


ソファーの上に畳んであった服もバッグもない。


俺が寝ている間に帰ったのか?


オールナイトで朝食も一緒に食べに行くはずったのに…。


俺はタバコに火を付けようとしたが、オイル切れという訳でも、石がなくなった訳でもないのにジッポに火がつかない。


部屋にあった紙マッチも湿ってしまっているのか火が付かない。


俺はタバコを戻して回りを見渡した。


部屋の雰囲気が違う。


物の配置は変わらないのだけれど、全てが色褪せて古ぼけた感じ。


それに微かに匂う土っぽい臭い…。


俺は全身に嫌な汗をかいていた。


体が異様に重い。


目覚ましに熱いシャワーでも浴びようと思って、俺はバスルームに入った。


シャワーの蛇口をひねる。


しかし、お湯は出てこない。


ゴボゴボ


と言う音がして、ドブが腐ったような臭いがしてきた。


俺は内線でフロントに「シャワーが壊れているみたいなのだけれど」と電話した。


フロントのオバサンは「今行きます」と答えた。


俺は腰にバスタオルを巻いた状態で洗面台で顔を洗っていた。


すると、入り口のドアをノックする音がする。


ハンドタオルで顔を拭きながらドアの方を見ると、そこには全裸のユキちゃんが立っていた。


ユキちゃんの様子がおかしい。


目が黒目だけ?で真っ黒。


そして、左手には白鞘の日本刀を持っている。


「ユキちゃん?」と声をかけても無言。


そのまま迫ってくる。


そして、刀を抜いた。


『やばい!』


俺は部屋に退がりテーブルの上に合ったアルミの灰皿をユキの顔面に投げつけた。


しかし、当らない。


『すりぬけた?』


今度は胸元にジッポを投げつける。


しかし、これもすり抜けて?入り口のドアに当たり


ガンッ


と音を立てる。


ユキは刀を上段から大きく振り下ろした。


かわそうにも体が重くて思うように動かない。


俺は左手で顔面を守った。


ガツッ、どんっ!


前腕の半ばで切断された俺の左腕が床に転がる。


俺は小便を漏らしながら声にならない悲鳴を上げた。






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