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柳くんの悪夢12

頬に鋭い痛みが走った
それに続いて弦一郎の声
目を開くと、目の前に弦一郎の顔

「…何処だ…ここは…っ」

真っ黒な空間
居るのは幸村に弦一郎に夏乃、そして…

「化け、物…」
「柳…!」
「やっと起きたか!!」
『ちっ…目覚めたか…しかし…お前達に何が出来る?そんな弱い奴が目覚めたところで…どうにもならん!!』

嘲笑うように、俺を見下ろす化け物
こいつは…

「貘、此処は彼の心の中だぞ?」

貘?これが…?

『それがどうした、弱い弱い心だ』
「ばぁか、彼は強い…な!!柳くん!」

強い…のか?これは肉体の問題ではない
心の問題、心の強さのことだろう
貘に、俺は…
…思い出した…俺は…俺、は…

「赤也を…」
『そうだ!お前があの小僧を傷つけた!!』

首を絞めた、ラケットで殴った
俺が…仲間を苦しめた

「ぅっ…ぐ…」

全身を痛みが襲う
ズキンズキンと、刺すような痛みに
きつく目を閉じる

『お前が悪いんだ!!』

貘の言葉が頭の中で響く
俺が悪い、俺が…止められなかった

「赤也くんを傷つけたのは柳くんではない、柳くんを操って、お前が傷付けた!!」
『俺じゃない、そこの人間の意思だ!キシキシキシ』
「黙れ。」

静かに発せられたその言葉
冷たく、辺りに響き渡る
あの幸村や真田ですら、顔を青くしてかたまっている
先程まで奇妙に笑っていた貘も、動かない

「貘、お前のせいだと、私が言ってるんだ。あれだけ後輩や仲間を大切にしていた柳くんが、そんなことを思うわけがないだろう…幸村くんや甘夏をお前が殴ろうとした時も、柳は止めようとしたんだろ?なぁ、柳くん?」

夏乃と目が合う
そうだ、俺の意思なわけがない
俺は、止めようとしたんだ

「柳くん、ここで君が負けたら、また…仲間が傷付くぞ?切原くんだって救えない」
「…嫌だ…」
「なら立て」

体に力を入れて、自分の両足を地に付け、立ち上がる
今、俺は…一人ではない
こんなところで、負けていられない…
貘を睨む
あいつが…

「そうだ、柳くん」
『っぐ、人間ごときが…一人では何も出来ない人間が!!』
「ああ、一人では何も出来ない…だから弱く、だから強い」
「仲間を頼り、仲間を守る」
「仲間を作らず、一人ぼっちのお前にはわからないだろう。仲間を想う気持ちの強さを」

貘から黒い靄が出ている
なんだ、あれは…

『はっ、笑わせるな!!何が強さだ!!』
「お前こそ笑わせるな、すでに、柳くんの気持ちに負けているくせに」
『黙れぇええ!!此処で一番強いのは俺だ!!お前達人間ごときになにができる!!』

貘が暴れだし、空間が揺れる
地面から何やら黒い物が出てくる
なんだ…これは…

「また…!くっ、蓮二、下がっていろ!!」

状況がよくわからないまま、弦一郎が持っていた刀で黒い物を斬る
黒い物は斬られればすぐに消えていく

「…ん?弦一郎、その刀は何処から持ってきたんだ?」

ふと疑問に思う
こんな時にこんなに落ち着いている自分に少し驚くが
気になった物は仕方がない

弦一郎からは
願ったら出てきたのだ
と説明をされた
願って出てくるものでもないだろうに…
しかし、夏乃に言われた、と聞けば信じるしかない
自分にも出せるのだろうか…

手の平を見て、ラケットを想像してみる

光と共に、ラケットが出てきた

柳くんの悪夢11


柳を助けに来て、暗い空間に化け物が居た
最初は夏乃さんの姿をしていたけど、皮が剥がれて化け物になった
あれが貘らしい
実際目にすると気持ちが悪い

夏乃さんはこういうのに慣れているらしく
敵を倒したりするのが凄く上手い
ここで変に手を出すよりは、柳を目覚めさせる方がいいと思い、必死に柳に呼び掛ける

貘のキシキシという奇妙な笑い声のなか、何かが地面に落ちる音がした
そちらを向くと、倒れる夏乃さんと、それを踏み潰そうとしている貘の姿

よく見ると夏乃さんの足に何か絡まっている

「夏乃さん!!!」

駆け寄り夏乃さんに向かって下ろされた足をラケットで弾く
踏まれるのを覚悟していたのだろう、夏乃さんが俺を見る

「すまない、助かった…」

小さく言われたその言葉
夏乃さんでも焦るのかと、驚いた

しかし、それもすぐに持ち直し
脚に絡まる黒いものをちぎって立ち上がり、貘を睨みつける

「幸村くん、少し、手伝ってもらっていいか?」
「うん、何をすればいい?」

夏乃さんに続いて立ち上がる
貘は相変わらず奇妙な笑い声をあげている
きっと俺達には何も出来ないと思っているのだろう

「あいつが此処…柳くんを完璧に支配してしまうのも時間の問題だ…だから、柳くんが目覚めるまで足止めを頼む…」

「わかった…」

貘を睨み頷く

「だいたいの奴の弱点は目だ、いいか、目を狙え」
「この距離で…?」
「君の武器はラケットだけじゃないだろう?ボールだってほら、出せる」

そう言った夏乃さんの手元にはテニスボール
いつの間に出したんだろう

「君が願えば出て来るいいな?」
「うん…」

少し不安が残る中、貘に向かう
夏乃さんは貘の足や目を撃つ

まず、ボールが出るのか…
ボール、ボール…と、ボールをイメージする
すると手の平にボールが現れた
俺にも出せる!!

夏乃さんと貘の動きを見る

こういうゲーム、前に丸井がしてたな…
急所だけじゃなくて…足とか鼻を攻撃して…
怯んだ所で…確実に…

バシュンッ

『ぐぁ゙あ゙あ゙ああああっ!!!』

貘の目にボールが当たる
叫び声により空間が揺れる
目から黒い液体が流れ出し、動く度にそれが飛び散る

『人間が…許さん…許さん!!!!!』

怒りに満ちた声
貘が暴れ出し、地面が揺れる

「う、わ…っ」
「真田くん!!まだ起きないのか!?」
「真田、早くしろ!一杯気合いをいれてやれ!」

生温い起こし方じゃ起きないなら、少し乱暴だがいいだろう

「む、わかった!蓮二!!起きんかー!!!」

バチン!!

真田の叫び声と、殴る音が響く

どれほどの強さで殴ったのか…


柳くんの悪夢10


「何処だ、ここ…」
「貴様、何をした」
「貴様って私のこと?私は何もしてないよ。因みにここは柳くんの心の中ね」
「柳の?」

呟いて、真っ暗な心の中を見回す幸村くんと、私を怪しむ真田くん
この真田くんは仲間を大切にするよね

「真っ暗なのは…柳くんを何かが隠してるから。今からそれを…倒すよ」

「探そう」と言おうと思ったが、あちらから出てきてくれた
好都合だ
人の形をした黒いものが、うようよと出て来る
その奥には、私の姿をした夢魔[らしき物]と、手足を縛られはりつけ状態にされた柳くん
心を乗っ取られつつ、さっきまでは反抗できたんだよな…まだ、彼自身に意識はあるのか?

「柳くん!!聞こえるか!?」

声をかけるが反応はなし
完璧に意識を失ったか…
それにしても…イケメンは何してもイケメンだな
なんか神々しいわ
いろっぽい…

なんて考えている場合じゃない
黒いものを一生懸命蹴散らしている幸村くんと真田くん

「幸村くん!真田くん!自分の武器を想像しろ!!想像すれば出て来るから!」

何を言っているんだと言うようにこちらを見てくる真田くんと
瞬時にそれに反応し、ラケットを出す幸村くん

え、ラケット?

真田くんは…あれ?刀?日本刀?
扱えるのか?

武器になるなら何でもいいけど…二人とも…
「…それで黒いのを倒せ!奥に柳くんが居る!」
「わかった!!」
「女は下がっていろ!!ここは俺が…」

バキューンッ

先程出した銃で黒いものの頭を撃つ
目を丸くする二人に微笑む
女だからとなめてもらっては困る
こちら側の事は私の方が詳しく、慣れているのだから

「やーなーぎーくーん!!!!!!!」

黒いものを撃ち、走りながら彼の名前を呼ぶ
聞こえるだろうか…

「柳ー!!!!大丈夫かー!!」
「蓮二!!目を覚まさんかー!!!!」

私に続いて、幸村くんの問い掛けと真田くんの葛がとぶ
その声が聞こえたのか、柳くんが小さく動いたのが見えた
やっぱり仲間の声は届きやすいか…

『お前達は誰だ?』
「…お前は何だ」

私の姿をしているが夢魔ではない、しかし柳くんが作り出した物でもない

「夏乃さんが二人…?」

黒いものの大半を倒してしまった幸村くんが驚きに声を漏らす

「何故その姿をしている…」
『【お前】が本当のこいつか?』

ニヤニヤと笑いながら自分を指差す何か
幸村くんも真田くんも、目を丸くしている
あまり話すのは良くないが、ここまで巻き込んでしまっては説明するしかないだろう

「二人とも、説明は後でする。今は柳くんを助けよう」
『出来るのか?そんな小さな人間ごときが』
「やるんだ」

何かにそこに居られては柳くんを助けられない
柳くんに球が当たらないように注意しながら、何かを撃つ

『そんな物では俺は倒せないぞ?』

言いながら余裕の表情で球を避けていく
避けるということは…当たったらダメージをおうということか…

「二人とも!!柳くんを助けろ!!」
「!!わかった!!真田!!」
「ああ!!蓮二!大丈夫か!」

真田くんが柳くんの腕に絡まる黒いロープのようなものを切ると、支えを無くした柳くんが地面に落ちる
それを幸村くんが支えて呼び掛ける
これで、柳くんはひとまず大丈夫だろう…

『ははっ、それで助けたつもりか?無駄だぞ?』
「五月蝿い奴だな…柳くん!切原くんが君を待っているぞ!!切原くんだけじゃない、仲間全員、君を心配しているし、待っている」
「そうだよ柳!!」
「早く目覚めんか!」
「柳、お前はあんなのに負ける程弱くはないだろう?」
「蓮二、立海三強のお前が何をしている!」

幸村くんと真田くんの声を聞きながら、何かを見据える
よく見ると、私の…いや、夢魔の皮を被っている
奴自身が化けているのではなく、どうやら夢魔から皮を剥がし取り、それを被っているだけのようだ

「お前…夢魔を殺したのか?」
『ん?ああ、先に居た奴の事か?殺した殺した、邪魔だったからな。それで…この姿を貰ったんだ。よく見ないと皮だってわからないだろ?』

鋭い牙を見せてキシキシと奇妙に笑う何か
だいたい予想ができた

『夢魔ってのは馬鹿だよなぁ、この姿で此処にいたら、仲間だと思うのかすーぐ寄って来やがる』
「…食ったのか」
『何匹かな、あまり美味くはなかったが…お前は夢魔じゃないよなぁ、美味いのか?』
「さぁ?食ってみるか?」
『キシキシ…わかってるだろ?そっちの奴らも一緒に、食ってやるよ。そろそろこの体も完璧に俺のものになるしな』


再びキシキシと笑い出す
悪夢…夢を食べる
柳くんはクマが酷かった…
多分夢の中が空っぽで、眠れているようで、眠れていなかったんだ…

「おい、悪夢を食うだけのお前が、何故本人になろうとしている…」

その言葉に黙る何か
こいつの正体はわかった、本来は無害であるはずの貘だ

「貘、お前は悪夢を食べるだけのはずだろう」
「貘!?」
「あれは架空の生物だろう…」

横から驚きの声が聞こえる
それが普通の反応だろう

『キシキシ…キシキシ…ばれたかぁ…そこの小僧、架空の生物なんていない、全て実在するんだよ…キシキシ…』

だんだんと、夢魔の皮が剥がれ、本来の貘の姿が現れる
体も倍以上に膨れ上がり見上げるほどだ
いろいろな動物の部位の入り混じった体
正直気持ちが悪い

「柳くん!こいつが君の仲間を傷付けた化け物だ!!」
『言ってどうなる、今のそいつには何も出来まい!!』

貘が大きな鼻を振り、攻撃を仕掛けてくる

「夏乃さん!!」
「私は大丈夫だから!柳くんを起こせ!!」
『無駄だと言っているだろう』
「どうかな?」

攻撃を避けながら答える
大きな体のくせに動きが早い
これをくらったら一たまりもないだろう

『人間が、勝てると思うなよ?』

貘が笑った

「ハッ、笑わせるな…!!」

足を何かに掴まれる
突然の事にバランスを崩し、尻餅をついてしまった
目の前には貘の足
やられる…!!!

柳くんの悪夢9



『おーい!!出てこい!!』

どれだけ叫んでも出て来ない
どんどん闇にのまれていく心
偽物の俺ではどうしようもできない

「おーい、赤也ー」
「無事ですか?」
『!?なんであんたらがここに!!』
「夏乃に言われてきたんじゃ」

夏乃さんが?わざわざ…この二人…
『俺』の存在を知ってるからだろうけど
苦手なんだよ…

こっちの気持ち見透かしてそうな二人
涼しい顔して爆弾をおとしてくる
…今はそんなこと気にしてる場合じゃないな…
【俺】を見つけないと

『先輩、俺を見つけるの、手伝ってもらえますか』
「当然です」
「大切な後輩見捨てたりはせんぞ?」
『っす…』

手分けをするのは危ないと、三人で【俺】を捜す
薄暗い心の中
ひたすら名前を呼んで歩き回る

ゴゴゴ…と、時折地なりがする
心が自身を守るために心を壊していく音だ
闇が濃くなる
ズキンズキン、体が痛む
これは、【俺】の痛み
俺も心の一部なため、痛みは直に伝わってくる

「切原くん、大丈夫ですか?」
『大丈夫っす』
「ならいいですが、無理はしないでくださいね?貴方も、大切な後輩なのですから」
『はい…』

貴方も?俺が赤也じゃないことわかってるのか?
仁王先輩には夏乃さんが伝えた、柳生先輩にも伝えたのだろうか…
いろいろ気になることはあるが
全て後回しだ
痛む体を軽く撫で、歩いていく

柳くんの悪夢8


赤也が柳に殴られた
少し前から様子がおかしかったが…後輩に対して此処までするか?
それに柳は赤也のことを気に入っていた
おかしすぎる
以前にも少し世話になった甘夏?だったか?と少し話しをしたが何も知らないと言われた
殴られて、血を流す赤也を保健室へ連れていくと
夏乃とかいう女がソファーで寝ていた
のんきなもんだ…そう思いながら赤也の傷の手当てをする
どんな力で殴ったのか、かなり血が出ている
暫くして甘夏が気絶した柳を運んできた
何処にそんな力があるんだろうか

幸村くんも何も言えないみたいだった

その後夏乃が目覚めて、赤也と柳の手を握ってろと言った
俺は何も言われなかった、何かできることはないのかと思ったが、余計なことをすると多分邪魔になるだろうからそこでは何も言わない

皆が眠り、起きているのは俺とジャッカルと甘夏だけ

「丸井くんも、ジャッカルくんも、仲間は大切だよね」
「「当たり前だろ(ぃ)」」

なにを当然のことを言っているのだろうか
この女は…

「じゃあ、赤也くんから何か連絡が来ると思うから、一緒に助けてあげようね」
「助けるって…」
「何すりゃいいんだよぃ…」
「赤也くんのことを大切な仲間だーって、言ってくれたらいいよ、耳元でね。想いを伝えるの」

想い?
耳元で言うって…
不思議に思っていたら甘夏が赤也の耳元で話しはじめた
それは「皆君のこと大切に想ってるよ」だとか「大丈夫だよ」だとかそんなことばっかり

「声はちゃんと届くから、言ってあげて?」

その言葉に、ジャッカルが先に動いた
ジャッカルが話している、それに負けないように俺も話す

「赤也ー、聞こえてっか?皆心配してんぞ?おーい」

こんなんでいいのかわからないけど
これが仲間を助けるためならやってやる

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