生存確認
 モ゛氷(dcst)
 2020/8/29 01:27

しろく長い指の隙間から覗く、薄くて小さい刃が垂らす液体は、確かに俺の首筋から出たものだ。ついさっきまで皮膚の下で脈打っていた筈の血潮が、鼓動に合わせて溢れ出しては視界を赤く染めていく。

「……あー…、そーいう…」
「私の意思ではありませんよ。ビジネスです」

首筋を這う指の感触に違和感があった。それでも気に留めず自由にさせたのは俺だ。
氷月は、傷を付けるより前に刃物の感触を与えるなんて、そんな間抜けな事はしない男の筈で。だったらあれは、俺に対しての警告だったのか。私を信用するなという。

「君は随分とやんちゃをしていた様ですからね」
「…君と会ってからは、結構いい子にしてたんだけどな」
「今はいい子でも、以前は悪い子だったでしょう。精算出来るものじゃないですよ、過去なんて」

掛けられる軽い言葉に、氷月が刃物を投げ捨てた音が混ざる。とどめは、刺さないのか。…刺す必要がないか、この出血じゃあ。

「これで2ヶ月は生きられる。有難うございます、モズ君」

やっす。

血と同時に口からこぼれた声は、氷月に届いただろうか。
俺の命で氷月が2ヶ月生き延びるなら、悪くはないかなと思うくらいには、俺は氷月を好きだった。

c o m m e n t (0)



[ 前n ]  [ 次n ]
[ 購読 ]/[ TOPへ ]




-エムブロ-