[ことりだま]
2015.09 ()



2015.9.10 04:39 Thu [文庫感想]
ハーモニー






21世紀後半、「大災禍」と呼ばれる世界的な混乱を経て、人類は大規模な福祉厚生社会を築きあげていた。医療分子の発達で病気がほぼ放逐され、 見せかけの優しさや倫理が横溢する“ユートピ ア”。そんな社会に倦んだ3人の少女は餓死することを選択した―それから13年。死ねなかった少女・霧慧トァンは、世界を襲う大混乱の陰にただひとり死んだはずの少女の影を見る―『虐殺器官』の著者が描く、ユートピアの臨界点。第30回 日本SF大賞受賞、「ベストSF2009」第1位、第40 回星雲賞日本長編部門受賞作。

*

伊藤計劃の2作目にして、最後の長編小説。
前作『虐殺器官』の続編となる?作品。
大災禍から学んだ賢人たちは、人間の意志をなくし、争いのない『ハーモニー』の世界を作る鍵を握っており…。
後天的に意志を獲得したミァハは、優しさという名で統制された世界に不意打ちを与えるように、メディモルを操作し、『集団自決』というテロを図ります。
この事件は、メディケアによる統制された世界の脆弱さをついた…まさに不意打ちの一撃であったわけですが。
ミァハの真の目的は、世界を混沌にさせることではなく、賢人たちから最終手段であるハーモニーの世界へのスイッチを押させるため。
誰にも支配されず、支配することもない、意志の必要としない世界へ向かうための、戦いであったわけです。

前作が、自国の平和を保つための戦いであったなら、今作は平和という名の鎖を断つための、人間のアイデンティティに投石した作品ということになるのでしょうか。

作品全体の印象として、ミァハがピアノの調律をとるかのように世界を指揮しているイメージがあって…まるでハーモニーという音楽作品を聞いているかのような気がしながら読んでいました。

しばらく、これを超える作品には出会えないかもしれないな…。





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2015.9.9 01:49 Wed [文庫感想]
虐殺器官






9・11以降の、“テロとの戦い”は転機を迎えていた。先進諸国は徹底的な管理体制に移行してテロを一掃したが、後進諸国では内戦や大規模虐殺が急激に増加していた。米軍大尉クラヴィス・シェパードは、その混乱の陰に常に存在が囁かれる謎の男、ジョン・ポールを追ってチェコへと向かう…彼の目的とはいったいなにか?大量殺戮を引き起こす“虐殺の器官”とは?現代の罪と罰を描破する、ゼロ年代最高のフィクション。

*

自国を守るという『良心』のもとに、他国に争いの種を蒔くと話すジョン・ポール。

テロから守り抜くための情報管理システムの脆弱さ。己を守るために、不要な良心をマスキングする、心理カウンセリング…。

彼を追い詰める度に、世界の表情や、人間のもつ本能を垣間見ることとなるクラヴィス。


9.11以降の世界を意識した作風になっており、宗教という表面上の問題しか見えていない現代のテロリズムのやや核心に迫っているというか…果たして、虐殺の根元はどこにあるのかを言及したものとなっています。

作者は、どうしてこの作品を命を削って残そうと思ったのか。
この現代社会に伝えたい意思というか、遺志が伝わってくるようでした。

…なんかもうこれ以上書くと、管理人の頭の悪さが浮き彫りになってしまうからやめとくけど、この作品に出会ったことで、『決して目をそらしてはいけない』という現代を生きる自身への警鐘を鳴らすきっかけにもなりました。

残念ながら映画の公開が延期となり、村瀬修好監督ファンの一人としては、早く彼の描く『虐殺器官』を拝みたい気持ちでいっぱいなのですが。
2016年の公開が楽しみです。
…マルドゥック・スクランブルみたいにならなくて、本当によかった。


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2015.9.8 02:13 Tue [文庫感想]
谷崎潤一郎犯罪小説集






仏陀の死せる夜、デイアナの死する時、ネプ チューンの北に一片の鱗あり…。偶然手にした不 思議な暗号文を解読した園村。殺人事件が必ず起 こると、彼は友人・高橋に断言する。そして、そ の現場に立ち会おうと誘うのだが…。懐かしき大 正の東京を舞台に、禍々しき精神の歪みを描き出 した「白昼鬼語」など、日本における犯罪小説の 原点となる、知る人ぞ知る秀作4編を収録。

*

『柳湯の事件』
狂乱する男が見た幻覚がやばすぎた。

『途上』
私立探偵の安藤の推理が的中しすぎて、戦慄が走った。

『私』
他人事かと思いきや、結局犯人は自分だったという。こいつが一番サイコパス。

『白昼鬼語』
男の首を絞め、薬で溶かして殺してしまった女に恋心を抱いてしまった友人。女のそれを理解して付き合いはじめ、ついにかの男のように殺害されてしまいましたが…
最初から最後まで演技だったというね。
騙された。



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2015.9.7 06:59 Mon [ラノベ感想]
"文学少女"と飢え渇く幽霊






文芸部部長・天野遠子。物語を食べちゃうくらい愛しているこの自称“文学少女”に、後輩の井上心葉は振り回されっぱなしの毎日を送っている。そんなある日、文芸部の「恋の相談ポスト」に「憎い」「幽霊が」という文字や、謎の数字を書き連ねた紙片が投げ込まれる。文芸部への挑戦だわ!と、心葉を巻き込み調査をはじめる遠子だ が、見つけた“犯人”は「わたし、もう死んでるの」と笑う少女で―!?コメディ風味のビターテイスト学園ミステリー、第2弾。

*

エミリ・ブロンテの嵐が丘をオマージュした、第2巻。
キャサリンに裏切られたヒースクリフが、夏夜乃を愛する―後に雨宮蛍の後見人となる黒崎で。
キャサリン―夏夜乃の娘で、夏夜乃として演じることを命じられ、虐げられても尚黒崎を愛した蛍。
まさか親子だったというのは…
夏夜乃の横暴な決断が、こんな結末を引き起こしてしまったかと思うと、なんだかやりきれない気分です。
「愛している」
「お母さんではなく私を見て」
数字に隠された秘密を知った瞬間、もう釘付けになるくらい本にかじりついていて、気がついたら呆気なく読み終わってました。

その一方で、蛍―夏夜乃と黒崎との関係に、自分と美羽との過去を重ねる心葉。彼の抱える傷は、癒えるにはまだ時間がかかりそうです。

今回一番苦労したのは、言わずもがな櫻井流人でしょう…。
蛍を追いかけてしまったがために、黒いスーツの男に襲われ、蛍に腹部を刺され、終いには詫びの手紙を残して彼女は亡くなってしまったり…。
散々女遊びをしたツケが回ったのでしょうか。


前回の作品から読むのがだいぶ空いてしまったので、どんな雰囲気だったのか忘れていましたが、読みごたえがあって心にずっしりきました。
次巻はなるべく期間の空かないうちに読みたいです。





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