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 ちりん。ちりん。
季節外れの風鈴が、風に揺られて音を響かす。夏はもうとっくに過ぎたのに、その音はまるで夏を呼び戻すかのように感じられた。特別夏が好きなわけではない。それでも夏を意識してしまうのは、あの出来事のせいだ。あれは、決して夢ではなかった。

「時間は戻らない。だからこそ、愛しいのに」

かといって、時間を巻き戻したいなどとは思わないけれど。
利用客の少ない平日の図書館。
私はいつもの席を陣取って、あの日のことを思い返していた。窓から見える空は、雲ひとつない。そう。"あの日"も、こんな綺麗な空だった。