17/07/16 00:16 (:妄想)
別れの日と知らぬふり



「――じゃあ、…キス…してみるか??」

茜と強引にも付き合い始め、何回かデートっぽいものを重ねたある日

手をつないだり、腰を抱かれたり

付き合うということを未だに実感していないまま

やっぱりよく分からない、と言うと茜の口から告げられた言葉

「…は?」

普通のカップルならとっくに済ませているであろう行為を提案され間抜けな声が出る

―そう、“普通のカップルなら”だ

私たちは普通のカップルではない

私は茜を異性として好きではないし、茜もきっと…そう

そもそも好きという感情が私には分からない

だから、こんな面倒くさいことになっている

「…燈?」

「っ!」

いろいろと考えていたら顔を覗き込まれていたらしい

いつもはムカつくくらい高いところにある茜の顔がすぐ目と鼻の先にある

「な、に」

警戒心がぐんっと上がったのを感じた

何だかんだそこはお互い触れなかったし、触れようともしなかったはずだ

付き合い始めたころはもっとすぐに奪われると思っていたから

いつもいい加減で、遊び歩いているように見えた茜にしては珍しく思えた

今、この瞬間までは

じりじりと下がっていき、距離をとる

茜の瞳が不安げに揺らいでいた

…なんで、そんな目をするの?

―――じくり、罪悪感が生まれる

…なんで、罪悪感?

―――本当は気づいている

知らない、

ゆっくり距離を詰められ

手を掴まれる

「、」

びく、と震えた

それが伝わったのか、一瞬だけ掴む力が弱くなったけど振りほどけなくて

茜に顔を上げられる

なんだか悲しそうな顔をする茜の瞳の中に怯えた自分の顔が見えた

目を閉じて近づいてくるその顔を避けることもできずに

なぜか動けなくて

(―い、や――っ―逢音――、―)

「!」

ぎゅっと目をつぶったと瞬間に浮かんだ顔にびっくりして目を開けたのと同時に

額に柔らかな感触

「、…ほら、分かったろ?」

目に映ったのは何かに耐えるかのように苦笑する茜の顔

抱きしめられぽんぽんと頭を撫でられ

…なんでか、涙が出た

「…ごめ…なさい」

何に、対してなんて分かってる

付き合ってみて気づいてしまったのは茜の優しい視線と仕草

見て見ぬふりをしてた

気づかないふりをしてた

いつから、なんて私が聞いてはいけないのだ

「…燈」

―――人前で、泣くなんて

ましてや茜の前で

ぼろぼろ零れる涙を拭えなくて

茜の肩を濡らす

名前を呼ばれて

「…ありがとな」

一層強く抱きしめられた

「っっ」

茜はこうなるって分かってて…付き合おうって言ったんだ

こうなるって分かってて、キスしようなんて言ったんだ

なんで今更?なんて、茜なりに先延ばしにしたかったんだ…きっと

私が、気づいていないだけで

私は…逢音のことが好きだって知ってて

茜は、私のことが…――――

付き合っている間

大事にされていた

大事にされていたんだ

気づいてしまった

でも、答えられないことも茜は知っている

残酷だと思う

でも、私は…

「、あり…っ、がとう…っ…ごめ、…なさ…っ…」

嗚咽交じりにそう言うと

一瞬ぐっと強く抱かれ解放された

「っ、あかねっ」

「ほーら、行ってこい」

顔を上げようとすると体を反対側に向けられた

背中から掛けられる声はいつもの声

明るくて適当で…

でも、振り向くなと言っているような気がした

「まーた明日、なっ!」

ぽんっと背中を押され

ゆっくり離れていく音がした

その音をしばらく泣きながら聞いて

逢音に逢いに行く為に、私は走り出した―――


more..




* ← top#

-エムブロ-