【BL】逃げるのならば地の果てまで【SS】
「そういやぁ、この間ウチに入ってきた新人、元々開発部希望してたらしいぜ」
昼休み、社食でうどんを食っていれば、同期がテーブルを挟んだ向かいに座りトレイに乗ったカツ丼を喰いながらそんな事を話し出す。
「へぇ、どんな奴」
うどんに乗っていた天ぷらを食べながら同期へそう問えば、「嫌味なくらい仕事出来るヤツ。1度言ったら分かるとかロボットかなんかなんじゃねぇのって……しかもその癖コミュ力高いし人懐こいしどんな大型新人だよって感じ」俺は少しアホな方が好きだからさぁ、とケラケラ笑いながら付け足した同期の言葉に「お前の好みは聞いてない」と返す。
「しかし、コミュ力云々は置いといて、有能な奴ならウチに来て欲しかったな。まぁ、コミュ力云々で営業行きだったんだろうけど」
そう言って笑いながらうどんを啜っていれば、「そういやそいつもお前と同じかそれ以上に珍しい名字だったなぁ……あ、あそこに立ってる奴だよ」とカウンターの前でトレイを手にした青年に向けて同期は声をかけて手を振る。その名前が呼ばれる前に、俺はその青年の名前を思わず口から零していた。
「朧江、月夜……」
「おおーい、オボロエ!こっち来いよ、お前が行きたがってた開発部のヤツも居るぞー!」
大声で彼を呼ぶ同期に「ごめん、仕事溜まってるから」とだけ告げ、食べかけのうどんのトレイを引っ掴んで俺はその場から逃げ出した。
「好きです、遼平さんの事が昔から、ずっと」
数年前、学生であった彼に押し倒され、酔ったと片付けるには真剣すぎる表情で俺へと告げられた言葉が脳裏に響く。そして俺は保留にしていた上司からのとある打診を思い出し、昼が終わると同時に戻ってきた上司に「あの話って、まだ生きてますか」と告げるのだ。
こうなったら、もう、地の果てまで逃げるしかない。そこにどんな景色があろうとも。
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瑞原兄と瑞原従弟の話。
逃げまくる兄と追う従弟。
追記に簡単なふたりの設定。
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17.10.17 21:52 Tue
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