スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

火花

若手芸人・徳永は、中学の同級生とスパークスというコンビを組み、小さな事務所に所属していた。初めて芸人を受入れたというその事務所は、芸人としての舞台にとことんコネがなく、スパークスはいつも地方の営業をしていた。
営業先で出会ったのは、あほんだらという、まったく新しい漫才をするコンビで、徳永はそのお客さんに受入れられない芸風に強烈な印象を持つ。

あほんだらの神谷から誘われ、営業後一緒に飲みに行くと、神谷は漫才に対して真摯であり、また、独特のテンポや間合いも良く、才能があると思った徳永は、神谷の弟子となる。
あほんだらは賛否両論ありつつも、それなりに営業に出ていたが、大阪が本拠地であったあほんだらと、東京で活動していたスパークスとでは、中々直接会う機会もなかった。しかしそれでもあほんだらの素行の悪さは風のうわさで回ってあり、しかし神谷と仲良くしている徳永は、それが全くの出鱈目である事を知っていた。

やがてあほんだらは大阪での活動に限界を感じ、東京進出を考える。大阪で売れてもいないのに東京に出てきてしまう事や、あほんだらのあまり良くないうわさが、あほんだらの出世を阻むのではないか?と考えつつも、徳永はあほんだらを見守る。

スパークスの後輩として、同じ事務所に人当たりも要領も良いコンビが入ってきて、スパークスはどんどん出し抜かれていく。しかし幸いにも深夜番組に何度か出演する機会を貰え、お笑い好きのお客さんに顔を覚えてもらえるくらいの知名度に膨れ上がった。
一方あほんだらは、相変わらずテレビ出演などもなく、とてもお笑いの給料ではやっていかれない状態のままであった。

そんな神谷の才能を信じ、支え続けていた彼女も離れていき、神谷の借金生活に拍車がかかる。

順調だと思われたスパークスだったが、深夜番組が終わってしまった為、またもや収入が激減してしまう。相方に子供が出来たことから、スパークスは解散し、相方以外と漫才をする気になれなかった徳永は、お笑い芸人を引退する。

徳永から見て、神谷はいつも才能に溢れていたし、お笑いの為なら下ネタも何でもやってのける神谷の一本気さに、尊敬と憧れをいつも持っていた。だからこそ、徳永は理想の芸人は神谷であったし、神谷のように誠実にお笑いと向き合えない自分に、引退という幕引きを選んだのだろう。

やがて社会人となった徳永は、神谷がいなくなったと神谷の相方から聞き、方々探し回るが、神谷が出てこないのなら、それは探すなということだと納得する。借金苦でどこか怪しいところで働いているなどといううわさが流れたが、徳永は信じなかった。

そして1年後、見知らぬ番号からの着信に出てみるとそれは神谷で、なんと豊胸手術をしていた。
面白いことをずっとやり続けたい。その思いで、きっと神谷はこれからもお笑い芸人を辞めないのだろう。

『火花』
著者 又吉直樹
発行元 株式会社文藝春秋
ISBN 978-4-16-390230-2

徳永が神谷の才能に惚れ込むあたりは、芸人ではない私としては、そういうもんなのか?程度だったが、神谷がネット上などの中傷についても本気でぶつからなければならないという持論は、筋が通っていると感じた。
こんにちは、さようなら、ありがとう、いただきます。保育園で誰でも習う事を当たり前に出来る神谷にとって、人間は全て同じ土台に立っていて上も下もない。だから、中傷に答えることは同じレベルに落ちるという考え方が間違っている。そもそも人間はみな、同じレベルなのだから。
最初は良くわからない人だと思っていた神谷の人間性が、徳永を通してだんだんと見えてきて、愛らしく思えたりする。究極の読み手であっても、中々こんなに骨の或る文章を書ける人はいないと思った。又吉さんの才能を感じた。
前の記事へ 次の記事へ
カレンダー
<< 2024年04月 >>
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30
カテゴリー