「ポルナレフ」
「………なんだ、花京院か」
「何故君はいつもホテルに着くと籠もって泣くんだい?」
「別に泣いてなんかないぜ?顔を洗ってたから、それが涙にでも見えたんじゃねえの?」
「ふぅん。顔を洗う前から頬に水がつくこともあるんだね」
「…見てたのかよ」
「見てたよ。"いつも"ね」
「……最初っから花京院相手に誤魔化せるとは思わなかったけどさ」
「どうして泣くんだい?」
「………、理由ったって、面白いとこなんか一個もない話だぜ?」
「いいよ」
「………多分暗い気持ちになるかもだし」
「それでもいいよ」
「……………………鏡、ずっとみてるとさ、泣いちゃうんだ」
「鏡?」
「うん、鏡」
「それは、Jガイルの事があったから?」
「それも、あるんだろうな、
だけど、1番泣きたくなるのは、
やっぱりさ、
似てるんだよな、当たり前のことだったんだけど」
「……… 」
「 、ありがと……花京院はあったかいな」
「 ポルナレフ……」
「 鏡みるたびに思い出すんだ。むしろ、復讐を果たす前よりも、終わった今の方が、なぜか泣けてきちゃってさ、
なんで、だろう、な」
なんだか騒がしい。
一年は組がまたなにかやっているようだ。
「(あの格好は、水軍?)」
学園内で忍び服でないというのはよく目立つ。
つ、と軽く横目でその水軍をみたのだが、その顔をみて思わず二度見してしまった。
「(似ている…)」
その水軍は委員会の先輩にとてもよく似ていたのだった。
日に焼けたボサボサの髪に、端にむけて太くなる眉、ややつり気味の目元。
なにより、笑顔が、似ていた。
「(僕は、あの笑顔が好きだ)」
人を安心させるような、温かい笑顔。
きっと、他を気遣う彼の心の優しさがにじみ出ているのだ。
先輩に似た水軍をみて思う。
成長した、彼のことを。
(きっと先輩はもっと素敵になるだろう。)
彼は孫兵より先輩といってもまだ少年だ。
彼があの水軍ぐらい成長したなら。
きっと、
雲の切れ間から太陽が覗くように
夏の日差しにひまわりの花がめいっぱい咲ききるように
まるで、
さなぎが、蝶になるように
(光り輝くのだろう。)
「……ねぇジュンコ、先輩は、竹谷先輩は美しいね」
「そして、これからもっと美しくなるんだよ」
彼の成長をみれないことがとても悔しくて、孫兵は涙を流した。
(恋のきっかけは名も知らぬ水軍だった)
「先生、」
「なんですか、ココさん」
「僕、先生のことを考えると、なんだかこのあたりがきゅんとするんです。」
「きっとお腹が空いてるんですね、可哀想に…。あ!今日の放課後、次の授業の為に練習でシチューを作るので食べにきてください」
べつにおなかがすいてるわけではありません
(確かに胃のあたりをさすったけれど)
(小松くんのシチューが食べれるなら、まあ、いいか)
「時と共に変化することは仕方ないことなんです。
季節が変わるように、時代が変わるように、人だって変わっていきます。
ココさんが僕に心を開いてくれたように、
僕とココさんの気持ちが近づいたように。
どうしたって昔と同じではいられない。
それは少し、寂しいことですけど。」
「君は変わってない。
変わらないよ、いつまでも。
出会った頃と同じだ。」
「いいえ…僕は変わりました。
昔のように、些細な味の違いがもう僕にはわかりません。
繊細な包丁捌きだって、出来なくなりました。」
「………それでも、小松くんが作る料理は美味しい」
「ありがとうございます。でも、僕は変わったんです。
……ココさんは今でも変わらずにお若いままです。だからわかりにくいのかもしれないけれど、ココさんの心だって変わっているんですよ。」
「変わらないよ!
君を……昔から………ずっと、好きなままだ」
「僕は、あなたの愛が、過ぎる時間とともに大きく、そして深くなるのを感じました」
「小松、くん」
「僕の心はあなたに惹かれて、一つになりそうな程近づきました。
それでも僕の心は足らず、もうあなたへの想いを言葉にしなければ、愛が溢れて壊れてしまいそうです。
ココさんのことを心から愛しています」
「こ、まつ、くん」
「ねぇ、昔の僕だったらこんなこと恥ずかしがって言わなかったでしょう?
変わることは何も寂しいことだけじゃないんです。
ねぇ、だから、
だからどうか、
泣かないでください。
今の僕にはココさんの頭を撫でることしか出来ないんですから」