「高砂!」
牧から左側のゴール下にポジションを取った高砂へ、鋭いパスが入る。
高砂はそれを受け取ってすぐ、右足を軸にして前を向いた。マークマンは当然花形。
高砂は勝負に出た。シュートフェイクから、すぐにジャンプ。ゴールを狙いに行った。
花形はそれを読んでいた。シュートのほうにタイミングを合わせて、ブロックを狙う。
「高砂さんっ!」
高砂は声を聞いた瞬間、後ろにボールを放っていた。
受け取ったのは清田。永野のマークを持ち前のスピードで外し、高砂を助けに来ていた。
清田はもらった位置からすぐにジャンプシュートを狙う。
花形はまだ着地したばかり。少し離れている清田には届かない。
「一志!」
藤真が喜びの声をあげて呼んだ名前は、長谷川のもの。長谷川は、清田をブロックしに来ていた。
清田は高砂と同じように後ろへパスを出す。長谷川が跳んできたのを見てからの判断。
絶対にマークを外してはいけない選手がパスの先にいた。
「神!」
海南ベンチ、応援席が沸いた。
神はベンチの期待に応え、スリーポイントを決める。これで、46対44。
海南が同点を追いかける立場だった前半とは違い、翔陽が追いかける側になった。
「一本大事に行こう!」
藤真が4人に声をかける。前方には牧。藤真にとって最大のライバル、最高の壁だ。
牧に勝てない部分は諦め、勝てる部分で勝負をする。それが藤真の出した解答だった。
「藤真!」
長谷川がスリーポイントラインより少し遠い位置でパスを求めた。
宮益が届かない少し上へパスを出す。そして再び牧と向き合った。
「勝負しないのか、藤真」
「こっからが勝負だ」
牧はその一言で、藤真が何を言いたいか全て理解した。
ボールをもらうところから1対1を仕掛けようというのだ。
藤真は左方向にいる長谷川をチラリと見た。長谷川は頷き、ドリブルを始める。
もちろん、5秒持ったままでいてバイオレーションをとられないためだ。
藤真は左に動き始め、すぐに右へ切り返す。さらにもう一度左向いて長谷川を見た。
「一志!くれ!」
藤真がボールを呼ぶ。長谷川はすぐに藤真にパスを出した。
フェイク2つ程度では牧は離されない。藤真はわかっていた。
藤真は左から来るパスに対し、空中でそれをキャッチ。左足で着地をして、すぐにトップスピードで右へ。
「何っ!?」
驚いたのは高頭。ベンチから見ていて、確かに藤真の切り返しは早かったが、牧が抜かれたのが信じられないのだ。
牧はすぐに藤真のほう、つまり後方を見たが、すでに藤真は右手を高くあげてレイアップに跳んでいた。
ゴール下の高砂はそのブロックを狙いにいった。
このまま撃たれれば決められるのは当然。あまり確率は変わらないが、フリースローに賭けたのだろう。
しかし、藤真の技術は高砂の遥か上にあった。
高砂が藤真の右手を叩たこうとした瞬間、手首を軽く返してボールを左手に持ち替え、左手で高く弧を描かせた。高砂の手はそのまま右手を叩き、笛がなる。
ボールは高砂を越え、リングに吸い込まれる。レフェリーが高らかにコールした。
「バスケットカウント、ワンスロー!」
会場は大盛り上がりとなった。ここで藤真はまず外さない。まだ勝敗はわからない。
―――to be continued...