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#73 流れの行方

「花形、大丈夫か?」
「ああ、問題ない。清田のジャンプを甘く見てただけだ」
「よし、ならこのまま行くぞ」

花形の精神状態を藤真が確認し、このタイムアウトは終了。
両校とも選手たちに特別な指示を与えず、そのまま行くことを選択した。

選手たちは今、最高の集中状態にある。それに指示を与えて切らしてしまうことを恐れたのだろう。

第三クォーターは残り1分48秒。お互い最強の相手と戦っているので、ここからは体力勝負になるだろう。

「さあ、海南に勝てるぞ。行こう!」

藤真の鼓舞と共に、ホイッスルが鳴らされた。
47対48。翔陽にもまだまだチャンスはある。

―――to be continued……

#72 清田信長

「ナイスだ、清田!」

牧が清田の頭を乱暴に撫でる。エースセンター花形をかわしてダンクを決めたスーパープレイ。

さすがの牧も驚いたのだろう。

「はぁ……はぁ……。ありがとうございます……」

清田は激しく息を切らしている。どんなにスーパールーキーと自称していても、彼はやはり一年生なのだ。

ベンチにも入れなかった先輩、引退を目前に控えた三年生の期待を背負ってのプレイは辛いのだろう。

「武藤、準備しておけ。清田と交代だ」

高頭はすかさず三年生の武藤に交代を連絡する。清田の疲れを見過ごせなかったのだろう。

「監督っ!俺は大丈夫です!」
「馬鹿かお前は!」

牧は立ち上がった清田を無理矢理座らせた。少し声音に苛立ちが含まれている。

「いいから休め。第四クォーターまでに全快しろ。それがお前の仕事だ」
「……はい。武藤さん、後は頼みます」
「ああ、任せろよ」

牧の説得で清田は続けて出ることを諦めた。決着の第四クォーターに向けて、体力の回復をし始めた。

武藤は清田の気合いに応えらろるように気合いを入れなおした。

第三クォーターの残りは1分48秒。その間を全力でプレイするために気合いを入れたのだ。

最強の一年生に後を任せるために。

「行くぞ。一旦下がった清田のためにも、第三クォーターはリードして終わる」
「おうっ!」

牧の言葉に全員が応える。これで、神以外の全員が三年生になった。

翔陽ほどではないかもしれないが、連係も期待できるだろう。

―――to be continued...

#71 勝利への執念

観衆の期待通り藤真はボーナススローを決めた。これで47対46。翔陽が再び逆転した。

「さぁ、ここ止めるぞ!」
「おう!」

エースの活躍で逆転した翔陽、気合いは十分だった。

第3クォーターも残り3分。ここを一本止めて流れを取れば翔陽にはまだチャンスがある。

しかし、今の海南の攻撃力は並のものではない。

「牧のペネトレイトだ!」

海南応援席が盛大に沸いた。牧の強力なペネトレイトで藤真を抜いたのだ。

藤真も必死に追い縋り、後ろからスティールを狙う。

ブロックに飛んだのは花形。牧はすかさず空いた高砂にパスを出した。

そのパスを狙っていたのが藤真。弾かず牧のパスをカットした。

そしてそのままドリブルで駆け上がっていく。

「なめんなこらぁっ!」

左手でドリブルしていたボールが、左側から弾かれる。弾いたのは清田だった。

清田は自分で弾いたボールをそのままドリブルで再び運んでいく。

目の前には自分をマークしている永野。しかし永野では清田のスピードに着いていけなかった。

簡単なクロスオーバーで抜き去る。

そのままゴール下へ向かい、大きく跳びながら叫んだ。

「勝つ!絶対に勝つんだ!」
「ここは決めさせない!」

花形が今度は清田のダンクをブロックしに行く。清田はボールを一回下げ、もう一度上げたボールをリングに叩きつけた。

会場が騒然となる。この会場にいる人は、かつてこのプレイを見たことがある。

インターハイ予選のとき、流川が牧相手に決めたものだった。

清田も超高校級のジャンプ力を持っている。それに加えて勝利への執念。今の清田は、流川に相違なかった。

「おい、見たかよ、流川。あいつあの時のお前と同じ台詞まで言ってたぜ」
「…………」

宮城の言葉に、流川は無言のまま。流川もまた、清田が自分に追い付いたことを認めたのだろう。

「タイムアウト、翔陽!」

レフェリーが笛を鳴らす。藤真はここで一回区切りをつけた。

今の清田のダブルクラッチダンクは間違いなくビッグプレイ。流れを持って行かれることを恐れたのだろう。

第3クォーターは、残り2分を切った。

―――to be continued...

#70 下級生の助け、3年生の意地

「高砂!」

牧から左側のゴール下にポジションを取った高砂へ、鋭いパスが入る。

高砂はそれを受け取ってすぐ、右足を軸にして前を向いた。マークマンは当然花形。

高砂は勝負に出た。シュートフェイクから、すぐにジャンプ。ゴールを狙いに行った。

花形はそれを読んでいた。シュートのほうにタイミングを合わせて、ブロックを狙う。

「高砂さんっ!」

高砂は声を聞いた瞬間、後ろにボールを放っていた。

受け取ったのは清田。永野のマークを持ち前のスピードで外し、高砂を助けに来ていた。

清田はもらった位置からすぐにジャンプシュートを狙う。

花形はまだ着地したばかり。少し離れている清田には届かない。

「一志!」

藤真が喜びの声をあげて呼んだ名前は、長谷川のもの。長谷川は、清田をブロックしに来ていた。

清田は高砂と同じように後ろへパスを出す。長谷川が跳んできたのを見てからの判断。

絶対にマークを外してはいけない選手がパスの先にいた。

「神!」

海南ベンチ、応援席が沸いた。

神はベンチの期待に応え、スリーポイントを決める。これで、46対44。

海南が同点を追いかける立場だった前半とは違い、翔陽が追いかける側になった。

「一本大事に行こう!」

藤真が4人に声をかける。前方には牧。藤真にとって最大のライバル、最高の壁だ。

牧に勝てない部分は諦め、勝てる部分で勝負をする。それが藤真の出した解答だった。

「藤真!」

長谷川がスリーポイントラインより少し遠い位置でパスを求めた。

宮益が届かない少し上へパスを出す。そして再び牧と向き合った。

「勝負しないのか、藤真」
「こっからが勝負だ」

牧はその一言で、藤真が何を言いたいか全て理解した。

ボールをもらうところから1対1を仕掛けようというのだ。

藤真は左方向にいる長谷川をチラリと見た。長谷川は頷き、ドリブルを始める。

もちろん、5秒持ったままでいてバイオレーションをとられないためだ。

藤真は左に動き始め、すぐに右へ切り返す。さらにもう一度左向いて長谷川を見た。

「一志!くれ!」

藤真がボールを呼ぶ。長谷川はすぐに藤真にパスを出した。

フェイク2つ程度では牧は離されない。藤真はわかっていた。

藤真は左から来るパスに対し、空中でそれをキャッチ。左足で着地をして、すぐにトップスピードで右へ。

「何っ!?」

驚いたのは高頭。ベンチから見ていて、確かに藤真の切り返しは早かったが、牧が抜かれたのが信じられないのだ。

牧はすぐに藤真のほう、つまり後方を見たが、すでに藤真は右手を高くあげてレイアップに跳んでいた。

ゴール下の高砂はそのブロックを狙いにいった。

このまま撃たれれば決められるのは当然。あまり確率は変わらないが、フリースローに賭けたのだろう。

しかし、藤真の技術は高砂の遥か上にあった。

高砂が藤真の右手を叩たこうとした瞬間、手首を軽く返してボールを左手に持ち替え、左手で高く弧を描かせた。高砂の手はそのまま右手を叩き、笛がなる。

ボールは高砂を越え、リングに吸い込まれる。レフェリーが高らかにコールした。

「バスケットカウント、ワンスロー!」

会場は大盛り上がりとなった。ここで藤真はまず外さない。まだ勝敗はわからない。

―――to be continued...

#69 対する藤真

「さぁ、返すぞ!」

藤真が声をかけ、長谷川からボールを受け取る。

「2番!」

藤真が番号をコールする。ナンバープレイだ。

長谷川が高野をマークしている神に向かっていく。その位置はフリースローライン。

「スクリーン!」

長谷川をマークしていた宮益が神に声をかけたが、細身の神は長谷川を避けきれずにぶつかる。

そして宮益に声をかけた。

「スイッチ!」

マーク交代、という意味だ。藤真は宮益が高野のところへ向かったのを見て、長谷川にパスを出す。

しかし、宮益はスイッチしていなかった。藤真のパスを読んでのことか、長谷川にダブルチームの形になっている。

長谷川はリングに背を向けたまま、ゴール下へパスを出した。

「ナイスパス!」

パスを受けたのはフリーになった高野。もちろんそのままシュートを決めた。

藤真も、牧とスタイルは違うが仲間を活かすのがとても上手い。

牧が海南のエンジンだとすると、藤真は翔陽の潤滑油だ。

「ふむ、完璧な連携ですね」
「長谷川にパスセンスがあってこそですね。ポストプレイの基本ですが」

安西と宮城が今の翔陽のプレイに感心する。今のプレイは、湘北に必要な、そして桜木がやらなくてはいけないプレイだ。

「ふん、あれくらい俺だってすぐできるようになる」
「おっ、なんだ桜木。殊勝だな」

観客席に踏ん反り返って座る桜木が不満げに鼻を鳴らした。

桜木の発言に少し驚いたのは三井。桜木が、自分のできることとできないことをきちんとわかっているのに驚いたのだろう。

シュート2万本合宿を乗り越え、努力の大切さを知ったのかもしれない。

「桜木君。君はあそこまではできなくてもいいんだよ」
「オヤジ」

安西は振り向き、真後ろに座る桜木を見た。

「君はあくまでもインサイドの中心。攻める気持ちが一番欲しい。君に覚えてほしいのは、いざというときボールを回す方法だけです」

確かに桜木は視野が狭い。

かつて、校内での紅白試合のとき赤木が言っていたように、自分が攻め切れない時は適当なパスを出してしまう。

そこが改善されれば、という目的で桜木にポストプレイを練習させているのだ。

「インサイドの中心……!」

しかし桜木は安西の言葉の一部分にしか反応していない。相変わらずと言えばその通りだ。

―――to be continued...
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