話題:キッチン雑貨・食器類


航空祭の下見に行った時、中が暗くて陰気臭い瀬戸物屋を見つけたので入ってみた神田です

こういう店には、何年も客の目に触れないお宝的な商品があったりするんじゃないかと思って

よく行く商店街の時計店には20年前に仕入れたという手巻きの腕時計があったしね

商店街の店でさえ珍しい物があるくらいだから、こういう一般人が立ち寄りにくい店だともっと期待できるんじゃないかとワクワクしながら戸を開けた

だが、ごめんくださーい!と言っても誰も出てこない

再びごめんくださーいと叫んだ

すると奥から「ちょっと待ってー」と声がした

何か手が離せない用事をしているかトイレ中だと思ったが、ゆっくりでいいですよーと言っていいものかわからなかったので黙って暫く待った

湯呑茶碗が欲しかったんだよね

愛用の湯呑茶碗が欠けちゃったのよ

その欠けた湯呑茶碗を暫く使ってたんだけど、貧乏くさいと思い始め、そんなに高い物じゃなければ買おうと思ってた

デパートで選べば?と妹は言うが、デパートの食器売り場だとデザイン的に新しいのが多いよね

そういうのは好きじゃないんだよ

古臭いのが好きなんだよ

古臭いのは古臭い店にありそうじゃない



奥からズボンのベルトを締めながら初老のおっさんが現れた

トイレ中だったのに急がしちゃって悪かったなと思いながらも、湯呑茶碗ありますか?と聞いてみた

するとその初老マン、どんな湯呑がいいかと聞き返すから、少し大きめの自宅用と答えたら、壁の蛍光灯のスイッチを入れて店内を明るくした後、床に無造作に置いてあるタンボール箱の中から新聞紙にくるまった商品らしき物を取り出した

「お兄ちゃん大きいからこんなのどうだい?」と言いながら、新聞紙を剥がす初老マン

出てきたのは回らない寿司屋で見かけるような湯呑だった

一目で気に入った

大きさは勿論のこと、色が良かったから



「これはね、夫婦茶碗のかたわれなんだよ。小さい方だけ売れちゃって大きい方が残ったんだよな」と歴史を語る初老マン

「表面が滑るんだよな。年取ると手が乾燥して札を数える時に指をナメるだろ?そういう人には好まれないんだよな。お兄ちゃんみたいな若い人が使う分にはいいけど」と続ける初老マン

僕が使うのでそこは気になりません、と言うと初老マンはニッコリ笑った

前歯が1本抜けていた(^^;)

値段を聞くと、今度はノートを出してきて、親指で下唇をブルンと弾いてページをめくる初老マン

独り言なのか、「千円て書いてあるな。でも千円もしないだろ、よわったな…」とブツブツ言いつつ、「お兄ちゃん、これいくらで買う?」とこっちに振ってきた

正直困った

千円なら千円出すつもりだったが、本当は千円しないのであれば損をすることになる

夫婦茶碗のかたわれならば半分の五百円でどうかと言ってみようと思ったが、大きい方が高いのじゃないかと疑問を持ち、考えるのが面倒くさくなって千円でお願いします、と言っちゃった

すると、「千円もしないと思うんだよなあ。でもお兄ちゃんがそれでいいなら千円でいいか」と言って、初老マンは元の新聞紙にくるみ直して袋に入れてくれた

そして、さっきのダンボールの箱の中から別の湯呑茶碗を取り出した

「これね、近所にあった寿司屋がご贔屓さんに配った湯呑なんだけどさ、これつけてやるから」と言って、それも袋に入れてくれた

2つで千円なら悪くないなと思った

寿司屋のは表面がテカってるのにツルツルしない

しかも内側が白いのでお茶の緑が映える

茶色い方は内側が灰色

でも高級感は勝る

寿司屋湯呑より軽いので、安物ではないような気がする

どちらも口が広いので熱いお茶がすぐ冷めるのが欠点と言えば欠点かな

でもなかなか面白い体験をした神田でした