螺旋状に突っ走って死にたいプロフィール
2012/10/24 Wed 05:26
暴かれた世界


話題:怖い話

ある日職場の先輩が古い櫛を持ってきた

半月型で元々赤かったのだろうが、髪の脂のせいか黒ずんでいて年期が入っている

恐らく女性のものと思われる、海藻のように絡み付いた髪の毛達が気持ち悪い

そんな代物だ


「これ、どうしたんですか?彼女さんのですか?」

気味の悪いその櫛にまとわりついた雰囲気を吹き飛ばすように、からかい半分で言うと

先輩は、なんとも神妙な顔をして口を開いた

「いや、部屋に落ちてたんだよ。正確には落ちて、きた。」



落ちてきた?
部屋に落ちてきたとはどういうことなのだろう

心当たりがないものが落ちていただけでも不気味なのに


落ちてくる


というのは一体どういうことなのか


俺の顔に浮かぶ疑問に答えるよう、先輩はさらに続ける

「変だよな。俺の部屋さ、高い家具ないのに。でも、昨日座ってボケッとテレビ見てたらさ、目の前にいきなり落ちてきたんだ、ポトリって感じで」

先輩の部屋に一度入ったことがあるが、たしかに高い家具はないし、座った目線の高さを越える場所がない

つまり「落ちてくる」場所自体が存在しないのだ


確実に、この櫛が良い物じゃないとわかる

「気持ち悪いし、怖いから部屋に置きたくないし、持ってきた」

と、言いながらも口元がニヤついている


「捨てればいいじゃないですか!」

半ば諦め顔で言った

この後の台詞は想像がつく


「だっておもしろいじゃん」

やっぱりこれだ



休憩時間が終わり仕事に戻っても、嫌な気分は拭えなかった

何かがおかしい
元々状況もその物も完全におかしいけれど、何か違和感がある

その日は仕事に集中できず、何度か失敗をしてしまった

当の本人が全く動じてないのが腹立たしかった


「うち来いよ」

案の定、先輩に部屋に誘われてしまった

これが異性からの誘いで、なおかつ俺が女であればその強引さに惹かれる可能性もあるが、残念ながら俺は男で先輩も男である

そして嫌な予感しかしない

「この櫛が落ちてきた原因探ろうぜ」

ほらやっぱり

しかし不気味だと思いながらも好奇心には勝てない

君子危うきに近寄らずということわざがあるが、俺は君子ではないし、好奇心の奴隷だ


「じゃあ一回帰ってシャワー浴びてから行きます」

と言ったら

先輩は顔をしかめて
「なんか気持ち悪い」と吐き捨てた





部屋に戻る途中もずっと違和感について考えていた

何かがおかしい


そりゃあ、あの櫛自体が変だ
変の塊だ

それでも何か見落としている


俺はイライラして髪の毛をぐしゃぐしゃに掻き回した

手にまとわりつく何本かの抜けた髪の毛を見て気がついた





心臓が跳ねる

これはまずい



俺はすぐさま携帯を取り出して先輩にかけた



頼む出てくれ!


2コールほどで先輩が出た


「もしもしーどーしたー」


間の抜けた声に安堵した


が、電話の向こうでカギを開ける音が聞こえる

まずい
もう部屋の前だ


俺は半ばパニックになりながら早口で叫ぶように言う

「部屋に入らないで!櫛!櫛が!おかしいんだ!髪の毛が!」

構わず先輩は部屋に入ったのだろう
ドアが閉まる音が聞こえる

「え?何?櫛がどうした?」
脳天気な声だ

こっちが焦っているのに

「変でしょう!櫛は古いのについている髪の毛が新しすぎる!そのツヤ!まるで直前まで梳かしていたみたいに!」

言い終わった瞬間だった

ゴッ

と鈍い音がした
さらに耳障りな雑音が耳を襲う

思わず電話から顔を話し出たがすぐにまた叫ぶ

「先輩!聞いてるんですか?もしもし?」





次の瞬間




物凄く冷たく平坦な女の声が聞こえた

「よく、わかったね」





そして、電話は切られた




終わり



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