螺旋状に突っ走って死にたいプロフィール
2012/10/26 Fri 11:34
あの日の防空壕 いないないないばあ ここにいるよ


話題:怖い話

防空壕

その密閉された空間はヒンヤリとして、秘密基地みたいだった

薄暗さが良い塩梅

夏の暑さも届かない


しかし恐怖を覚えるのは、薄暗さと密閉への先天的な本能からくるものか

戦争という歴史の教育のイメージのせいか

あるいは両方か


少なくとも防空壕には普通とは違うものを感じる


中学校の頃だった

俺の通う中学校は丘の上にあり、グラウンドの周りはフェンスで覆われている


フェンスの向こうは足元が整備されていない、傾斜が強い森に繋がっていた

夜中にそこを歩けば転がり落ちること必至だった

中学生はワールドイズマインな考えを持ちやすい

自分達が中心で自分達が全てだ
放課後に俺達はそのフェンスを越えた

夕暮れ時は太陽が死にかけていて、暗闇が起き出す間際の時間だ

それは俺達を掻き立てる時間でもあった

夕暮れ時は人の判断力が鈍り、事故が起こりやすいという
あのヒットラーはそれを知っていて、わざと演説を行い洗脳をしやすくしたとか


その日の夕暮れ時もまた俺達の判断力を鈍らせた

元々判断力なぞなく、勢いだけで突っ走る若さゆえの愚かさを含んだ中学生なのだけど

それを後押しするように、いつもは部活動で賑やかなグラウンドも今日に限って人っ子一人もいない

好都合だった


フェンスの先の雰囲気は時間帯も相まって独特であった

俺達は慎重に森を下った


目的地は一つ

防空壕である


昼休みに何度か探検をして、防空壕を見つけていた

そこは俺達だけの秘密基地だった


放課後に入るのは初めてで、なぜかその日はそこで話をしようぜと俺達は息巻いたのだ


いつもと違う雰囲気だからか、なんとなく口数少ないまま防空壕にたどり着いた

誰も口にしなかったが、夕暮れの防空壕はなんだか不気味だった


中に入るとヒンヤリとした空気に包まれる
土の匂いが心地好い

なんだか昼間とは違う匂いがしたがそれを気のせいだと一蹴するくらい判断力は低下していた

さて、とこっそりと持ち込んでいた段ボールに座り混んで話をするかというところで、一人が「あっ!」と言った

その声はくぐもって反響し、皆がビクっと反応した


「やばい、今日早く帰らなきゃならないんだった!」

そいつは早口で言うと防空壕を飛び出した

「おい!待てよ!」

俺と他の奴らはすぐに追い掛けた

一気に戻りフェンスを越えるそいつに続いて、俺達もフェンスを越える

ふとフェンスを振り返ると、だいぶ薄暗くなってきたその向こう側はなんだか気味が悪く、誰もがそいつのいきなりの行動に呆れつつも安堵していた

そいつはフェンスを越えても立ち止まらず

ドンドン学校に戻っていく

まるでフェンスから遠ざかるように

俺達はすこし息を切らして無言で追い掛ける

グラウンドが見えなくなり、校舎に入って俺達以外の人間を目にした途端そいつは座り込んだ

「どうしたんだよ!」
仲間の一人が不気味な雰囲気を怒りでごまかすように、声を荒げて詰め寄る

座り込んだそいつは口を開く

「あそこやばいわ。もういかない方がいい」


この答えに俺達は言葉に詰まる

答えが意表をついていたからではない

薄々なんだかやばい雰囲気を全員が感じ取っていたからだ

続けて奴は言う

「昼にはなかったはずなんだけどさ、俺の足元にこれがあったんだ」

ポケットから取り出したのは泥に塗れたジャガ芋だった

「思わず持ってきたんだが、他にも玉葱もあった」

俺はなんとかこの空気を変えたくて思わず突っ込んだ

「にんじんと肉あればカレー作れるな」

渇いた笑いが起きたが、場の雰囲気は変わらない

そいつは苦笑いで言った

「これさ、掴んだときにさ温かったんだよね。それってさ」

続きは聞かなくてもわかった


俺達が防空壕に入る直前まで

誰かが

何かがいたんだ


ジャガ芋と玉葱を抱えて



「俺達が来たから慌てて隠れたのかもな。外から俺らのこと見てたのかも」

そいつはそう言いながらジャガ芋を放り出した


俺は転がるジャガ芋を目で追いながら嫌な想像を打ち払おうとした


だが、無駄だった

鳥肌を全身に立たせ俺は口にしてしまった

「なあ、外かな。」

全員が青白い顔を夕日で染めながら俺を見た


「あの防空壕さ。俺達奥までちゃんと行ってないよな。もしかして、もしかしてさ、奥に」


そのまま語尾が震えてうまく言葉にできなくなる


嫌な想像が広がっていく



防空壕の奥で息を潜めて


俺達を見ている、何か





もういいかい

まあだだよ


不意に起きた隠れんぼは俺達、鬼が探すことなく終了した

あの防空壕に二度と行くことはない


しばらく俺はジャガ芋が苦手になった


おしまい



―――――――――――――

これも実話を元にした作品

自分で書いていて当時を思い出して怖かった




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