14/07/20 22:56 (:未完成)
うえーい


insane


毛利の奴がイカれっちまった。

あいつらしくもねえ。いつだって氷の面を纏って無表情を取り繕ってたあいつが、平気な顔をして部下を捨て駒扱いしてやがったあいつが、泣き喚いて暴れるようになった。髪を振り乱して錯乱して、とても会話ができる状態じゃねえ。匿われている部屋に俺が入っていって力ずくでねじ伏せないと、いつ部屋を破壊するかわかったもんじゃない。いっぺんねじ伏せても、殴るなりなんなりして意識を奪わないと、俺への罵倒と激しい抵抗はやまない。毛利家当主の奇計智将だった頃とはかけ離れたイカれっぷりだった。

俺が四国壊滅の黒幕として毛利に辿り着いて、厳島で激突して毛利を叩きのめしてからひと月経った。決着をつけこれで野郎共の敵討ちができた、とすっきりした心の内とは裏腹に、毛利は重症ながらもしぶとく生きてやがった。その場で止めを刺しても良かった。だが四国壊滅以前にもこいつにさんざん苦渋を舐めさせられた俺は、生かして連れ帰ってきちんと仕返ししてやろうと考えた。瀬戸内の人の寄りつかない小島に離れを建てて、そこに毛利を匿い医者に一日も早く治るようつきっきりで看病させた。さすがは武人といったところか、数日すると毛利は目覚めて回復にむかっていった。俺は二日にいっぺん小島に顔をだして毛利が全快するまで見守った。三週間もすると、以前と変わらないくらいまで元気になって、訪れた俺に憎まれ口を叩くようにまでなった。だから、ここまでくればもう大丈夫か、と俺は復讐を始めることにした。

最初に、あいつの一番の家臣を離れに招いた。実は毛利は生きていて、お前のことを呼んでいる、俺が同席している場でなら会わせてやる、という文を送れば、半信半疑ながらもそいつは指定の日にちにやってきた。約束通りに毛利のいる部屋に通してやって、主君と再会させてやった。しかし毛利は驚きもせずになぜやってきたときつくその家臣を叱りやがった。部下が慕ってくれてるってのにまったくひでぇ奴だ。けれどそれもしばらくすると収まり、毛利元就亡きあとの毛利家の様子を逐一報告させ、心なしか満足そうな顔を見せた。話が収まるころには日もとっぷりくれて、そろそろ家臣を安芸に帰すことになった。俺はそいつに安心したか?と聞いて、そいつは元就様のお顔を再び拝見することができて某は幸せものです、と泣いて喜んだ。俺はよかったじゃねえか、とそいつと毛利の両方に笑って言ってやって、それからその部下の首をはねた。泣き笑いの表情のままそいつの首は胴体を離れ、血飛沫を撒き散らしながら転がり毛利の眼前でとまった。突然のことに毛利はしばし目を見開いていたが、すぐにいつもの無表情に戻って片付けろと言った。目の前で部下が殺されても氷の面を崩さない毛利に、俺はこの程度じゃ復讐にならないことを学んだ。考えてみればそうだ。そもそもこいつは兵を捨て駒扱いしてやがった。俺基準で考えても意味がなかったんだ。毛利にとって大切なものを奪わないと、復讐にはならねえ。いや、実を言うと、もう復讐なんてどうでも良かったのかもしれない。いつだってツンと済ました毛利の着けている仮面を、自分の手で引き剥がしてみたいと思った。それだけだった。







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