イエスタデイをうたって


冬目景の代表作、イエスタデイをうたっては1998年から2015年にかけて描かれたラブストーリー。
敢えてラブストーリーと言ってしまうのは、今ではあまり使われなくなったこのジャンル付けを当てはめることが作品の時代背景に適していると思ったから。

主人公である陸生は大学を卒業後、向かうべき道が定まらずアルバイトを続けていた。
前進も後退もせずにただ立ち止まっているような日々のなかで、ひとりの少女と出会う。
その少女は肩にカンスケという名前のカラスを乗せていて、深く陸生に関わっていくことになる。

正直このイエスタデイをうたっては完結しないと思っていた。
諦めていたし、寧ろ終わりが来なければ好きなように解釈したり結末を想像したりできるのは利点でもある。
それでも連載再開や完結の文字を目にしたときは尻尾を踏まれた猫のような忙しさでこころが踊った。
2000年代初頭が舞台の話なので、連絡を取りたいけれど取れないだとか、会いたいけど会えないみたいなことが頻繁に起こる。
どうやって知人に捕まらないようにしようか?と考えなくてはならない今とは違う。
何時間も家のドアの前で待ったり、先に待ち合わせの場所に着けば連絡も取れず不安も募る。
ここらへんのもやもやがとても懐かしく新鮮で、いつでも簡単に言葉を交わせないからこそ登場人物たちのこころの機微や仕草にはっとなって時には涙してしまうのだ。

まさか冬目景の作品がアニメ化するとは思わなかったなあ。
限られた話数だから少し足りない部分もあったけど、たくさんこころが揺さぶられた。
「終わっちゃった」と口に出るものは良かったことの証だね。
毎回冒頭で漫画の扉絵のような演出やEDも心地よい。
首を傾げるカンスケが好きだ。

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2020 7/4(Sat)
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-エムブロ-