話題:短文



『俺たち表記ん族』

文部科学省はこのたび『【かいきにっしょく】の漢字表記を従来の【皆既日食】から【怪奇日食】へと改める事を仮決定した』と発表した。

確かに、初めて【かいきにっしょく】という言葉を耳にした際、マトモな人間であれば(えっ!怪奇日食!?)と思うのが当然であるし、“皆既”日食が正しい表記だと知った後も、(いや、誰がどう考えても“怪奇”でしょ)とか(“怪奇”日食の方が百倍良いのに)などと、心の中では【怪奇】を採用している事は火を見るより明らかである。

今回の変更は、そのような国民の本音を汲み上げた結果とみられているが、これが本当に民意を反映してのものなのか、それとも大衆迎合の安易なポピュリズムによるもなのか、その判断は難しいところである。或いはそのどちらでもなく単なるアホだとの声もある。

更に、今回の変更に伴って【にっしょく】の漢字表記も【日食】に一本化し、公の場で【日蝕】の方を使用した人間に対しては、100万円以下の罰金もしくは100日のボランティア活動を義務付ける方針である事も合わせて発表された。

この変更について、言語表記の権威であり文科省の特別アドバイザーも務める柿方学(かきかたまなぶ)教授は次のように語っている。

『わざわざ難しい方の“蝕”の字を使いたがる人ってのは、つまりはアレですな、難しい方の字を使えばカッコ良く見えて、さぞや異性にモテるだろうと。どう考えてもこれ以外に理由はあらないのです。もう動機不純もいいとこ。よって、表記はもう簡単簡潔な【日食】のみで十分。ただし、虫が好きで好きで大好きで、文字の中であっても“虫”を使いたい、そんなファーブルな人たちについては特例を認める事も視野に入れて考えた方が良いかも知れませんな。まあ、正直、そこはどうでもよござんす』

なるほど、流石は柿方教授、多くの示唆に富んだ言葉である。

なお、同時に議題に上がっていた『【たいふういっか】の漢字表記を従来の【台風一過】から【台風一家】に変更する案件』に関しては、時期尚早の意見が出た事から今回は見送られる運びとなった。


〜おしまひ〜。