話題:妄想を語ろう


どう見てもダチョウであった。10メートル程前方、大通りへと出る曲がり角に見えたのはダチョウの後ろ姿であった。

ダチョウ倶楽部ではない。勿論、ダチョウ倶楽部が四人だった時のリーダーである現・電撃ネットワークの南部虎太氏でもない。鳥類のダチョウだ。卵が巨大で、これで目玉焼きを作ったらさぞかし食いでがあるだろう、と思わせてくれるあのダチョウだ。

いやはや、こんな街中にダチョウとは、いったいどうした事だろう。心の中のテツ&トモが唄い出す。何でだろう♪何でだろう♪

動物園から逃げ出したのだろうか。それともペットとして飼われていたものが逃げ出したか。しかし、そのようなニュースは聞いていない。怪訝な気持ちで歩を進め、大通りへと出る。すると其処にはとんでもない光景がひろがっていた……。

通りに沿って100羽を越すダチョウ達がずらーーっと列をなして並んでいたのである。彼らは大人しく並んでいた。よく見ると中には少年ジャンプを読んでいるダチョウやスマホをいじっているダチョウもいた。

これはいったい……。彼らは何故こんな風に並んでいるのだろう。行列の先には何があるのか。気になったので、列の先頭を確認すべく歩いていった。すると、そこに在ったのは……

一軒のラーメン屋であった。

某有名ラーメン店が満を持して出店した2号店らしい。本店は超人気店で常に行列が絶えない。前日から並ぶなど当たり前で並んでいる人間の数が2億人を超える日もあるという。日本人の全人口を裕に超えている。そんな店の新規出店となれば、この行列も納得出来る。ただし、納得出来るのは“行列”の部分だけで、“ダチョウ”の部分はまるで理解出来ない。

いや、待てよ……
或る閃きが私を襲う。

私は大きく息を吸い込むと、天に向かって声も限りに叫んだ。

『もしかして、この“ダチョウの列”、“チョウダ(長蛇)の列”の間違いじゃないんですかー!!』

その瞬間。ボゥワッ!巨大な白煙が上がり何も視えなくなった。数秒後、煙が雲散し視界が開けると其処には行列をつくる人間達の姿があった。行列の出来るラーメン屋の前に行列が出来ている。当たり前の光景。やはり、これが正解だったようだ。

最近、世界がおかしい。異常気象どころか今回のような異常現象まで起こり始めている。これは、いわゆるバグというヤツで、見つけ次第、今回のようにデバッグする必要がある。そして私は、会社に内緒で世界のバグを修正するアルバイトをしている。私たちが現実世界だと思っているこの世界は実は仮想世界なので、このようなバグが起きても何ら不思議はないのである。もっとも……仮想と言えどもアバターである私たちにとっては現実と同じとも言える。

そして、この仮想世界を構築している存在も実はもう一つ外側のより深い世界のアバターに過ぎず、それを構築した連中もまた……と、全ては入れ子構造になっているのだ……恐らくは。

さて……私は端末を視る。報酬は歩合制でデバッグが完了すると端末に送信される仕組みになっている。バグも規模や種別によって大きく変わる。さて……今回の報酬は……

【38ズバット】。

このズバットというのがいったい何なのか、それは良く解らない。昔、怪傑ズバットというヒーローが居たが、恐らく関係無いだろう。外側の深世界における通貨(仮想通貨を含む)の可能性が高いが確信はない。この世界の常識が通用するとは限らないからである。ともあれ、これで通算ズバット数が99になった。100になれば何かが起きるのだろうか。例えば、この世界の謎の一つか二つが氷解するとか。そして通算10000になると今いる仮想現実から脱出し、もう一つ外側の世界に移行出来るとか。或いは私たちには想像のつかないような何かが起こるのか。解らない。解らないが、何かしら面白い事が起きるのを期待しつつ、このまま世界のバグを修正して回ろうと思っている……。


〜おしまひ〜。